「ふるさとづくり2004」掲載 |
<市町村の部>ふるさとづくり賞 内閣官房長官賞 |
スケッチのまちづくり |
長崎県 崎戸町 |
はじめに 崎戸町は、長崎県の西に横たわる西彼杵半島の北部に位置し、北緯33度線上に連なる四つの島からなる人口2300人足らずの少子高齢化の町である。現在は架橋によって本土と陸続きになっているが、人の出入りも少なく紺碧の海と炭鉱遺構が独特のハーモニーを醸し出す不思議な雰囲気を持っている。 この町は江戸時代、鯨組の納屋場として栄え、先進地紀州とともに捕鯨業の二大中心地であった。また、明治になると炭塊が発見され明治40年11月の石炭採掘に着手して以来、昭和43年3月の閉山の日まで日本屈指の石炭の町として栄えた。鯨の姿と石炭の輝きが見られなくなった時、町民は自立への模索をはじめた。そして、教育委員会と町おこしグループは、本町の財産である「紺碧の海・美しい船だまり・風情ある家並み・炭鉱遺構」に着目した事業の開発に取りかかった。それが「スケッチによるまちづくり構想」であった。 町の活性化に期待を寄せていた町民の声によって、平成13年5月10日、町議会において「スケッチのまちづくり推進町」の宣言がなされた。 推進構想 (1)趣旨 全町民が「スケッチのまちづくり」という目標を共有し、協働することによって町の活性化を図る。 (2)推進戦略 @スケッチの環境が整った町。 方策1 スケッチ場所を整備するとともに、スケッチポイントや案内板を設置する。 方策2 絵画専門指導員を配置し、児童・生徒及び町民への出前講座を開く。 A町民主体の推進。 方策1 推進委員は、公募によって選任する。 方策2 学校を拠点に、スケッチ交流活動を展開する。 B交流人口の拡大。 方策1 県下に呼びかけたスケッチ大会を開催し、入選作品の移動展覧会を行なう。 方策2 美術館を開館し、個展やグループ展を開催する。 (3)推進ネットワーク 推進委員会が中心となり、町民がこぞって参画できるネットワークを整備する。 取り組みの実際と実績 (1)環境づくり @スケッチの町づくり推進委員会の設置 宣言後の13年5月25日、第1回のスケッチ推進委員会が緊張の中開催された。委員には公募で集まった会社員や自営業者、主婦、高齢者、教員など職種も年齢も異なった8名の町民と、教育委員会推薦の2名を委嘱した。また、地元新聞の論説委員、長崎大学美術教授及び長崎県美術協会事務局長の3名を顧問として迎えた。第1回以後、毎年4〜5回の推進委員会を開催し、事業の企画立案を行なっている。 高齢者の豊富な経験、主婦の気配り、自営業者の経営手腕など町に対する思いがこもった熱い論議がこの事業の向上に繋がっている。 Aスケッチポイントの選定 スケッチ来町者がわかりやすく安全に画題を描けるよう「海」「船だまり」「炭鉱遺構」「家並み」など10か所のスケッチポイントを選定するとともに案内板を設置した。この作成には、推進委員自らノコ・ペンキを取り手作業であたった。 Bスケッチ・ボランティアの募集 スケッチポイントの除草や案内が必要との意見がありスケッチ・ボランティアを募集したところ27名の町民が応募してきた。このボランティアを中心に年3回の除草作業を行なっている。 Cスケッチマップの作成 本町の豊富な画題を多くの人々に知ってもらうためスケッチマップを作成し、町内や県内の観光施設に配布している。(現在までに3回更新) D専門指導員の配置 スケッチ活動の指導・助言者として絵画専門指導員を配置した。指導員は、本事業の企画・運営とともに、絵画教室の指導、スケッチ来町者への対応を行なっている。『町民の芸術に対する関心は年々高まり、講座募集ごとに参加者が増えている。また、初年度より受講していた者が自ら指導員のアシスタントを希望し、老人ホームでのボランティア活動を率先して行っている。講座以外でも交流が深まっているようだ。』 (2)施設の整備 @崎戸ふるさと美術館の開館 炭鉱時代に炭住として活用されていた民家を改築した畳敷きの無料美術館を平成14年にオープンした。地元をはじめ県内の芸術愛好者の作品展を年間18クール開催し、昨年は2500名の方が訪れた。畳敷きのユニークな美術館として好評を得ている。 管理にはスケッチ・ボランティアに応募した婦人層を中心に、35名の方が日々3名交代で当たっているが、中には70歳を越えたご婦人もおり、生きがいと喜んで管理当番にあたっている。(年末年始を除き毎日) Aアトリエ咲き都の開館 スケッチ来町者から「作品を見合ったり、昼食をしたりする休憩所が欲しい。」との声が出た。そこで、だれでも、いつでも利用できる無料アトリエを15年4月に、オープンした。指導員が週4日在中し希望に応じた指導をしている。平成15年度中に訪れた方は1500名を超える利用であった。 (3)スケッチイベント @スケッチ大会 毎年10月にスケッチ大会を開催している。県内はもちろん、県外からの参加があり幼児から高齢者までの約800名がスケッチを楽しんでいる。大会運営は、高校生からお年寄りまでボランティア150名で当たり、もてなしのある温かいサービスに努めている。回を追うごとに参加者がふえ、今では、漁協主催の「イセエビ祭り」と連携を図り、総合的に町のイベントとなっている。 A移動展覧会 スケッチ大会の入選・入賞作品(4部門で約50点)については、町内の展示をはじめ、長崎市や佐世保市で展覧会を開催している。入場者も多く、スケッチの町崎戸町を多くの人々に理解してもらうよい機会となっている。 Bスケッチの日 毎月第1土曜日をスケッチの日と定めた。内容は、子どもと保護者また高齢者との交流を目的とした絵画活動を毎月25名程度の参加を得て開催している。 おわりに スケッチの町が誕生して4年目、スケッチによる交流人口が年間6000人強、携わるボランティアも述べ1500名を超え、ようやく、町民の間にも主体的な活動の輸が広がってきている。 本事業は、児童生徒にも影響を与え、崎戸町立崎戸中学校においては「咲き徒美術館」が開設され、授業や自主活動を通して作成した作品約100点を学校玄関に展示している。また、崎戸中学校の生徒は、毎月、老人社会福祉施設「緑風園」を訪れ、絵画を通した交流を深めている。崎戸町立崎戸小学校では、中国上海市の小学校との絵画交流事業をスタートさせている。 このように、町民と教育委員会が一体となって取り組むスケッチの町づくり事業によって、町民一人ひとりが、わが町に自信と誇りを持ちはじめているとともに、町外の人々との交流によって町に元気が出てきていることを喜んでいる。 今後、さらなる努力を重ね「ナンバーワン」「オンリーワン」のスケッチの町づくりを目指す。 |