「ふるさとづくり2004」掲載 |
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞 |
ITを活用した新しい地域コミュニティのかたち |
岡山県 岡山市 |
電子町内会の構築と取り組み 「インターネットに電子掲示板というのがありますが、あれを使って町内会員同士がコミュニケーションを図れるような、なんといいますか、例えば電子町内会とでも申しましょうか、そのようなものができたらいいなと思います。」 これだ! 議会でのある議員の発言に萩原市長の胸の中にあったものが一気に実現に向けて動き出した。 岡山市では電子自治体構築にあたり、「行政内部の情報化」「行政手続(住民サービス)の情報化」「市民情報化」を三本柱とし、市民参加型コミュニティネットワークの構築に取り組んでいる。 「市民情報化」を進めるために着目したのが町内会である。岡山市は現在1577の単位町内会、小学校区単位で構成する84の連合町内会があり、加入率は世帯の約90%(平成16年5月現在)と、全国的に見ても高い数字になっており、町内会は地域づくりの母体となっている。 しかしながら、現実の町内会活動は高齢者が中心になっており、若い世代の参加は少ないのが実情である。 そこで、@平日勤務の人も時間にとらわれることなく町内会の会員同士が親交を深めることができる、A若い人とともにサイトづくりを行なうことによって世代間の交流を深めることができる、B身近な話題、出来事を他の会員に情報発信できる、C町内会活動を瞬時に伝えることができる、D町内会活動を広く町内会内外に伝えることができる、といったメリットを活かしより多くの市民がインターネットに代表されるITを活用し、地域コミュニティを活性化させる一つのツールの提示というかたちで電子町内会システムの構築を行なった。 この取り組みを始めるにあたっては、電子町内会がどういうものなのかを町内会長に説明し、町内会全体の協力を得ることが最初のスタートであった。全国的にも例のないことであったが、七つの町内会が「モデル電子町内会」としてスタートし、平成14年3月に第1次のモデル電子町内会が公式ウェブサイトを立ち上げた。その後、活動の輪が広がり、平成16年5月現在で34町内会、会員約1800名が参加、さらに、浸透していくことが大いに期待されている。 電子町内会とは、文字通り町内会の電子的な活動の場である。電子掲示板(e交流エリア)、スケジュール機能などある電子町内会システムとサーバを加入希望の町内会に貸与し、町内会はそれぞれ独自にウェブサイトを立ち上げるというものである。参加申請には、一定以上のインターネット環境を持つ参加世帯数の確保、サイトの更新などを行なう管理者や編集委員の確保などの条件が必要になる。 電子町内会サイトは大きく分けて二つのサイトから成り立っている。世界中誰でも閲覧可能な「外向けウェブページ」と参加会員のみ閲覧可能な「会員専用ページ」である。 「外向けウェブページ」とは町内会の紹介や地域の情報などのコンテンツを掲載したページである。各町内会ごとに特色のあるページが出来上がっており、地域を巡る住民の関心は益々高まってきている。 主なものとしては、町内会位置図、町内会イベント、地域特産物、名所旧跡、地域の歴史などがある。町内会活動をビデオで紹介している町内会があったり、デザインも非常に洗練されたものがあったりと、町内会のホームページに寄せる思いが強く伝わってくる。 「会員専用ページ」は、文字通り会員のみが利用できるページで、IDとパスワードによる認証が必要となっている。町内会の電子掲示板(e交流エリア)など、町内会・地域活動のための情報交換が行われており、電子町内会の最も重要な部分である。このページには、他に、e情報コーナー(お得情報や企業広告)、e御意見(電子アンケート、パブリックコメント)、岡山市ホームページ新着情報、カレンダー機能などが盛込まれている。 電子町内会活動の事例と関心の高まりと広がり このような電子町内会の活動を通じてこれまでにつぎのような事例があった。ある町内会でのこと、町内に引っ越してきてまだ日の浅いAさんが、電子掲示板に「町内の山添の道に漆の木の枝が張り出している、私は漆に弱く、傍を通るだけでも、かぶれる恐れがあるので、漆の木を伐採するように岡山市に言って欲しい」旨の書き込みをした。この記事を見た、古くからこの地に住むBさんが、「あそこの土地は私有地なので市にいっても無理、私が切ってあげます。」と投稿し、翌日には、2トントラック3台分の漆の木を伐採した。このことを知ったAさんは掲示板にお礼の記事を掲載。従来なら、町内会長や行政を巻き込んで、解決までに相当時間のかかることも、町内会長の出る間もなく、この問題は解決された。 また、別の町内会では、「桜の木さんかわいそう」との書き込みから、地域内にある公園の桜の木に大量発生した毛虫のことが地域共通の話題となり、地域ぐるみで毛虫退治を行なうとともに今後の体制づくりができたという話もあった。 問題解決ばかりでなく、電子町内会の特徴の一つでもある時間と場所を気にしないということから、今まであまり参加のなかった人たちがコミュニティに参加するようになり、個人の趣味嗜好などを通じた、山歩きの会やゴルフ同好会など新しい活動グループも誕生している。 また、このようなやり取りの中から、リアルの場ではわからなかったことも見えてきて、こんな活動が生まれている。 「町内には昔、太戸の滝という有名な滝があった。今は雑草に覆われ、訪れる人もいないが…」と昔の写真の掲載とともにこんな書き込みがあった。このことを知った人たちが集まり、太戸の滝を復元する会が結成された。道を塞ぐ人の背丈以上もある雑草や、滝壺を埋め尽くす雑木などを、すべてボランティアの手で少しずつ整備した結果、見事に太戸の滝は復元され、清廉な姿を取り戻している。 天然記念物の「アユモドキ」という魚が生息する、のどかな田園地帯の町にも、不審者が出没しているという話がある。この町内会では、不審者情報を町内会ホームページにリアルタイムで掲載するほか、訪問詐欺行為などの情報も早期に発信し、地域ぐるみで早期の防犯に心がけている。 以上のような電子町内会の取り組みを受けて、地域住民の新たなコミュニケーションの場として認知されるとともに、岡山市全域の電子町内会に対する関心は非常に高まっている。 こうした高まりを受け、住民自治組織の代表である岡山市連合町内会でも、ITを活用したまちづくりのため、市民情報化と電子町内会の拡大推進を連合町内会の事業として自ら位置付け、平成16年5月には「IT専門委員会」を全会一致で承認、設置した。 また、電子町内会参加町内会では、電子町内会のさらなる活性化と連合町内会IT専門委員会との連携協力による市全域への電子町内会拡大推進のため「岡山市電子町内会連絡協議会」を結成し、活発な活動を行なっている。このように、電子町内会の活動は行政主導から、確実に住民の手に移行し、ますます拡大の兆しを見せている。 電子町内会の機能の拡大 地域コミュニティの活動のツールとして、この電子町内会がうまく活用され、地域が活性化することは、これまでの事例からも覗えるが、岡山市は、この電子町内会に市政参画の機能(e御意見=電子アンケート、パブリックコメントシステム)を新たに持たせ、次なるステップに移行した。 地方自治体は地域の集合体であり、地域の声に常に耳を傾け、施策に活かさなければ、これからの市民協働のまちづくりは推進できない。 高齢化が進み地域活動への参加が少なくなっていることに加え、若い世代、特に男性の参加が町内会では少ないという傾向にあるが、電子町内会は幅広い年代の地域活動への参加を促し、e御意見機能やe交流会などにより広く地域の声を聴き、市政に反映することを可能としている。 また、この電子町内会ネットワーク基盤は、様々な、まちづくりへの取り組みの実証基盤として各方面から注目されている他、会員数の拡大とともに、活用シーンも拡大していくものと期待される。 今、人々が安心して暮らせる環境が失われつつある。自然、環境、防犯など個人や行政機関だけでは守れない問題があり、あらためて地域のつながりが見直されている時である。電子町内会は決して、インターネットの世界だけのものではなく、電子町内会を通じて、地域の人々がリアルの場で共助するとともに、地域内で起きている問題を共通のものとして捉え、地域コミュニティの一員として何が重要かを呼びかけている。 市民との協働による安全、安心で快適なまちづくりと、人と人とをつなぐ新しい地域コミュニティの醸成を目指し、電子町内会の果たす役割はますます重要となっている。 〜「ネットでつなぐ地域の絆、笑顔が広がる電子町内会」〜 |