「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞

商店街における乳幼児の子育て支援活動「キッズステーション」
和歌山県和歌山市 特定非営利活動法人子ども劇場和歌山県センター

 「中心市街地にある商店街の活性化」と「乳幼児の子育て支援」は、どちらも解決が迫られているテーマです。かつて、こうした社会的課題の解決が行政主導で取り組まれていた時代は、このふたつの課題が結びつくことはまず、考えられなかったでしょう。NPOが主体的に動き、活動を創り出すことで始まった新しい「ふるさとづくり」をレポートにまとめました。


商店街の活性化と子育て支援が結びついた

 私たち「特定非営利活動法人子ども劇場和歌山県センター」は、任意団体として35年の活動歴を持ち、一貫して「子どもたちの心身ゆたかな成長を育む社会環境づくり」をめざし子どもとともに事業を進めています。平成11年7月、和歌山県第1号の特定非営利活動法人として一歩を踏みだす中、危機的と言われる「子どもの育ち」に対してNPO法人として「何ができるのか」をあらためて真剣に考えました。法人取得後、多くの方から協力をいただき積極的に進めてきた新しい活動が、乳幼児の子どもと親の「子育ち・子育て支援」活動と子どもの声を電話で受けとめる「チャイルドライン子ども電話」の事業でした。また、子どもがゆたかに育つためには、ゆたかな街づくりが不可欠であることを考え、ぶらくり丁商店街活性化で私たちができることを模索し、具体的な活動にかかわり始めました。従来、福祉や教育の分野で考えられていた「子育ち・子育て支援」と地域振興の分野である「商店街活性化」の社会的な課題が、ここでつながることになりました。近年、子どもを地域社会で育てることの大切さが、国をあげて強調されていることを考えますと、5年前のこの連携は、画期的なものであると考えます。


親と子のつどいの場を常設

 平成13年8月、乳幼児の子育て状況の深刻化が著しい中で、私たちは拠点型の子育て支援の常設活動として「親と子のつどいの場」を具体化することを決意しました。保育所でもない、一時託児ルームでもない、子育てサークルの集まりの場でもない。それは0歳〜3歳の子どもたちと親のニーズに沿った新しいスタイルの子育て支援の活動でした。子育て不安やストレスを抱え、自然な形で人のつながりを求めている若い親と、安心できる場で、温もりある人とのたくさんの触れ合いが必要な乳幼児(人格形成の上で、その時期に一番大切であることが、医学的にも言われています)にとって必要不可欠な場です。不特定多数の親と子が気軽に足を運ぶことができる所、また場所を説明してすぐわかる所、それは中心市街地のぶらくり丁商店街以外には考えられませんでした。また、ぶらくり丁商店街においても活性化を議論する中で、単なる商業集積地としての特徴に加え、商店街には、人と人がつながることで新しい賑わいや楽しさを生み出していく役割が大切であることが重要な視点として確認されようとしていました。双方のニーズが組み合わさった形で、商店街の方々の力強い協力のもと、この年、空き店舗を活用して「つどいの広場キッズステーション」がオープンしたのです。


親から大反響

「こんな場がほしかった」
 当時、商店街に乳幼児の子育て支援の拠点ができるという事例は全国的にもまだ珍しく、県外の行政機関から、マスコミにいたるまで大変な反響で、その後何年間にもわたり視察や取材が続きました。しかし何よりも大きな反響があったのは、乳幼児の親でした。「こんな場がほしかった」という切実な声のもとに連日、賑わいをみせました。当初は「社会福祉・医療事業団」の補助金事業として3か月限定でスタートしましたが、その後は独自の事業として実施。要望の高さや成果を和歌山市に働きかけ、平成14年度より和歌山市の「つどいの広場事業」設置に伴い、市の委託事業としてNPOの特徴を生かした運営を続けています。キッズステーションの開設時間は、火曜と土曜を除く毎日11時から16時までです。いつ行ってもいつ帰ってもいい自由な形態をとる中で、毎月500名を超える親子が、ぶらくり丁商店街に足を運び、キッズステーションを利用しています。「もうひとつの実家」をめざすキッズステーションでは、専任スタッフとボランティアスタッフが常時2名おり、遊びや話の輪に自然に加わり、必要に応じてお母さん同士の交流のコーディネート役も果たします。また、さりげない会話から引き出される子育て不安などへの相談を受けたり、課題が明確な場合には保健所などの公的機関や専門家につなぐこともあります。開設後、年間の相談件数は800件を上回っています。


商店街に新たな人の流れ生み出す

 開設から5年目を迎えようとしている今、親も子もゆったりした気持ちで遊びや交流を楽しむキッズステーションは乳幼児と親にとって欠くことのできない存在となりました。キッズステーション周辺の商店の皆さんとも顔なじみになる親子も多く、行き帰りやキッズステーションでの昼食時に買い物をぶらくり丁で済ませる姿も見られるようになりました。より多くの人とのかかわりが必要な乳幼児期の子育てにとって、本来、街が持っていた自然な形でのサポートを形成していることが、より大きな成果であると考えます。
 商店街にとっても、新たな人の流れと賑わいをつくり出すという成果を生み出し、活性化のイベントでは、私たちが子どもたちのためのプログラムの企画運営を担当することでNPOならではの役割を果たしています。また、昨年度からはキッズステーションの休館日を活用して小学生・中学生の居場所活動として「和歌山県地域ふれあいルーム」の委託を受けることができました。シリーズで取り組んでいる表現ドラマ遊び「街であそぼう」では、「サンタを探せ」や「ぶらくり丁で忍者修行」など、商店街の皆さんの協力のもとで子どもたちが、心に残る遊び体験を展開中です。こうした取り組みが、この街の新しい魅力につながることをめざしています。
 行政とNPO、また異分野のNPO同士の協働は、今後ますます拡がることでしょう。まだまだお互いの課題もありますが、「共感と協働のふるさとづくり」は、これからの地域づくりの新しいキーワードとなると確信します。
 私たちは今回の取り組みから学びながら、自分たちのミッションである「子育ち・子育ての社会化」を実現するために、これからも行政や商店街の皆さんとのパートナーシップを大切にして、「次代を担う子どもたちがゆたかに育つふるさとづくり」にむけ努力を重ねていきたいと思っています。