「ふるさとづくり2005」掲載 |
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞 |
「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」の行き着くところ |
岐阜県柳津町 「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」実行委員会 |
なぜ「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」か 柳津町にある唯一の公立小学校、柳津小学校のPTAでは、私どもが役員に就いていた頃、平成6年から5年間、在籍する児童を対象に毎年『サマースクールわくわくサイエンス』を実施してきた。夏休み、町の公民館に集まり、理科教師である私が40分ぐらいのサイエンスショーを実施し、その後実験ブース(屋台)での実験をそれぞれ楽しむという2時間を過ごしていた。これら実験ブースの指導は学校の理科の教師ではなく、一般のPTA役員にお願いした。そのせいか、子どもたちは科学の学習をそれほど意識することなく、楽しみながら科学の不思議に触れていたようで、毎年全校児童の7割を超える500人ほどの参加があり、盛況を呈してきた。 平成11年になって、わが柳津町は小中高大と教育機関が全部そろう珍しい町なんだから、全ての学校に協力を仰いで、このサマースクールをレベルアップさせた一大イベントにしていったら、すばらしい『ふるさとの街づくり』に一役買えるのではないか、という声があがった。しかも、夏休みの1日を「青少年の健全育成」に応援できるのではないか、『理科離れ』が叫ばれる中、学校現場を脇から応援できる「科学教育の振興」にも役立つのではないか、という意見も起こった。 「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」の実施には 「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」の趣旨は『隣近所のおじさんや学校の先生たちと科学実験やかがく遊びをしよう』である。理科の実験指導というと学校の先生にしかできないものという先入観があるが、簡単なかがく遊びの中に「科学の原理」が潜んでいて、あえて科学を教えなくても子どもたちは十分に科学を感じる面を持っている。それには学校の先生よりも、一般のおじさんやおばさんの指導の方が適している。『遊びの中に科学の原理や不思議を見つける』そんな日常の中の科学を感じて欲しいのである。 次に、「ふぇすてぃばる」と名付ける以上、イベント的な要素も盛り込んで、町内に限らず近隣の市町村からも人々を集めることを目論んだ。町内の県立高校のブラスバンド部や中学校のギターマンドリン部の発表を取り入れたり、町内の老人会、婦人会、食生活改善連絡協議会、子ども会育成協議会など、一般の団体の参加も促した。このことによって、一般町民の興味が集まり、参加者数はぐっと増えた。 「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」は行政機関から働きかけがあって始まったイベントではない。岐阜弁でいう『やってみよまいか』で始まったイベントである。実行委員会も小学校の現役PTA役員とそのOBを中心に構成した。したがって実行委員長は現役のPTA会長が、会計はOBになったばかりの会長が(柳津小学校のPTA会長は1年ごとに交代している)、というような不文律の申し合わせができていて、変わらない役員は事務局をつとめる私だけという状況である。 町当局からの補助金は少なくなかったが、それに頼り切らないことを目的に、役員の一人ひとりが地域のいろいろな企業にお願いをして、イベントのPRをするとともに、協賛金を集めて歩いた。協賛いただいた企業は「実験マニュアル集」に広告を載せて紹介することにした。手作りのイベントにこだわった訳である。 「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」の様子 8月の第1日曜日、前日から準備しておいた会場に、担当する役員やボランティアが8時半ごろから三々五々集まってくる。その数は200名を超える。子どもたちも9時半ごろから集まりはじめ、どんなブースがあるのか下見を始める。気の早い子どもたちは早くも実験を始めたがっている。 10時開会式。大会議室で町長や来賓のあいさつが始まる。県教育委員会、岐阜市教育委員会、羽島郡4町教育委員会のそれぞれに後援をいただいたので、代表して4町教育委員会の教育長の祝辞をいただき、テープカットとくす玉割りを実施する。それも、委員長や来賓の大人と代表の子どもがペアになる形で行ない、子どもたちが主役のイベントであることをアピールした。そこで奏でられるブラスバンド部によるファンファーレは、気分を高揚させるものである。引き続いて小1時間ブラスバンドの演奏が始まる。県内屈指の高校ブラスバンド部の演奏だけに、その演奏は毎回聴衆を魅了している。その間にそれぞれの実験ブースで客を迎える準備をするのだが、待ちきれない子どもたちが列を作り始めると、もう戦場のような賑わいになる。 いつも人気の列ができるのは、調理室の町食生活改善協議会の食べ物作りのコーナー。そして、PTA母親委員会の「スライム作り」や「ベっこうあめ作り」、「振るだけでバター」などの食べ物系のブースも人気である。11時半になって餅つき大会が始まれば行列ができ、「米ハゼ」の製造器が昔ながらのドーンと音がして米ハゼができあがれば列ができる。何しろ列を作らねば手に入らないから仕方がない。これらの実験ブースは、子ども会育成協議会のようにいつも「餅つき大会」と「ペットボトルロケットの打ち上げ」と決まっているブースもあれば、PTA役員のOB会のように同じテーマのものは2年しかできないという不文律ができていて、どんどん変わっていくブースもある。だから、毎年すべてが同じ実験をするとは決まっていない。 昼食時は各ブースが交代して休むか、「休憩中」の看板を上げて休む。しかし、10畳間の昼食会場はごった返している。弁当は300食を準備しているのだから、役員とボランティアスタッフでいっぱいで入りきれないのも当然である。 午後から大会議室は中学校のギターマンドリン部の演奏会場に変わる。それまで実験ブースに集まっていた子どもたちの騒ぎ声が静まり、マンドリンの爽やかな音色が広がる。めったに演奏を聴くことがないという生徒の母親、そして祖父や祖母が必死に見つめる中、40分ぐらいの演奏が終わると、割れんばかりの大拍手が鳴りやまない。アンコールの演奏が終わると再び、実験ブースは喧騒の部屋に変わる。子どもや孫の演奏が聴きたさにやってくる一般の人々を含めて参加者は毎年3000人である。 開会して5時間、午後3時を過ぎると、そろそろ予定した実験材料がなくなるブースが現れる。そうすると子どもたちは掃き寄せられるかのように、残り少ない実験ブースに集まってくる。そして、それらの材料がなくなる4時頃には子どもたちの姿がほとんどなくなる。閉会式をする頃にはもうスタッフだけになるのが通例で、スタッフは他のブースを見て回る暇もなく、ひたすら子どもたちの対応に追われた6時間である。気持ちの上では満足しながらも疲労困憊である。しかし、閉会式の間に早くも「来年は○○したい」とか「今度はあの実験のブースを担当したい」「あの所をもうちょっと変えると上手くいくのに…」等々、前向きの反省が聞かれる。 「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津」の展開 この「さいえんすぇすてぃばるIN柳津」実行委員会の中心になって活動してきた人たちが、昨年『NPO法人サイエンスものづくり塾エジソンの会』を立ち上げた。こういったイベントを実施するのは決して難しいことではなく、少しの支援があれば子どもたちをアッといわせる「科学実験教室」ができるから、こういった活動に協力し支援していこうと考えたからである。たとえば、郡上市の高鷲北小学校のPTA活動。夏休みの日曜日、「ワクワクどきどきサイエンス」は今年で4年目になり、主だったもの5〜6人が実験指導と運営に協力している。また、日進市や一宮市の子ども会からの依頼も受けて協力している。いずれも、子どもたちの顔や目の輝きが私どもを引きつけるからである。 また、今年も7年目を迎える「さいえんすふぇすてぃばるIN柳津2005」の開催準備も進行中である。今年の目玉は『巨大万華鏡〜不思議な美の世界〜』。愛知万博の巨大万華鏡に刺激を受けて、自分たちで作ってしまおうというもので、その前で「ビー玉万華鏡を作ろう」の実験ブースを演じて、万華鏡の科学を理解してもらう企画である。岐阜市との合併をこの1月に控える柳津町においては、このイベントが来年度以降どう展開するか予測することは難しい。しかし、止めるに止められない状況になってきたことだけは事実であろう。 |