「ふるさとづくり2005」掲載
<企業の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

地域住民とのネットワークづくり
兵庫県神戸市 甲南本通商店街振興組合
地域活性化への背景と要因

 甲南本通商店街は、神戸市の東の端にある東灘区の中央あたりに位置し歴史のある商店街です。住宅街の中にあり南北250メートルのアーケードの中に約50店舗があります。
 平成7年の阪神淡路大震災では店舗の8割方が全壊しかろうじて残った店舗も半壊状態でした。左右に各50店舗ほどあった市場も全壊して商圏全体が壊滅状態でした。
 もちろん、周辺地域も被害は大きく比較的古い建物が多かったため、1万3687軒の全壊家屋を含め2万軒あまりの被害がありました。また、人的被害も甚大で東灘区は1471名もの尊い命が犠牲となりました。
 地域一帯が瓦礫となった場所で、ただ唖然としているだけで商売ができる状態どころか電気もガスも、水もなく生活そのものができる状態ではありませんでした。
 それから3年が経過し、商店街は自力で回生し、ほぼ震災前の商店街に戻りました。
 しかしながら、周辺の住宅はまだ完全に復興できず、住民が戻ってきていない地域での商売を余儀なくされ、あわせて経済不況の影響もあり非常に苦しい状況下にありました。
 全壊した新甲南市場がワンフロアーのスーパー形式で再出発したのと前後して、商店街の若手商業者が集まり商店街の活性化に取り組み始めました。試行錯誤の末、商店街活性はすなわち地域の活性をすることではないかとの結論を得て、それからの商店街イベントも地域への貢献をキーワードに企画運営するようになりました。
 また、そうしたイベントを自分たちの手だけでするのではなく、地域との連携作業がイベントの重要な要素となると考え地域住民、地域団体、NPO、学生等の接点を模索しました。


フォーラムの開催(地域活性化の出発点)

 自分たちの考えが正しいのかを問うフォーラムを開催し「商店街は地域に何ができるのか」をテーマに広く意見を聞く場を持ちました。他商店街、学識経験者、行政、ボランティアの方々に集まっていただき、私たちの考えを述べました。当日、時間の関係上参加者の意見を充分にお聞きすることはできませんでしたが、後日のメールでのご意見は相当数あり私たちの方向は間違っていないとの確信を持ちました。以下にフォーラムにおける私たちの考えを記します。

フォーラムでの私たちの主張
 私たちの地域商店街は地域とともに育ってきました。甲南本通商店街も昭和初期にできた「甲南市場のお買い物道」に徐々に店舗が増え、商店街へとなっていきました。その1軒1軒は地域の要望に応えるべき店舖であり、それがまとまって甲南本通商店街となったわけで、実に地域の味と匂いがしみついた商店の集まりであり、しかも地域とともに成長していきました。
 現在、私たちの経営を圧迫している原因の一つであるスーパーや、ショッピングセンターはその成合からいいますと、意図的に戦略的に作られたものであり、地域から考えますと「与えられた商施設」ということになります。基準化されたそれらを、様々の顔をもつ地域の一つとして考えることはできないでしょう。とはいえ、合理化されたそれらの商施設に対し、IT化にもほど遠い私たちの地域商業は太刀打ちできないのは当然であります。
 しかしながら、私たちの地域商店街は、それらの商施設にはないいろいろな特徴があると気づき始めています。それらの特徴を生かすことにより、地域商店街が再び「にぎわいのある街」に生まれ変わるのではとの明るい展望を持ちながら、現在、商店街活性に取り組んでいます。
 では、その特徴とは何なのでしょうか。またその特徴を生かすとはどんなことがあるのでしょうか。
 一つには「コミュニケーション」であります。商店街において、お買い物の会話は当然ではありますがそれ以外に、商店街では商店と住民とが日常生活のいろいろな会話をしています。甲南本通商店街には現在1日6000人程度の来街者があります。
 甲南本通商店街では約50店舗があります。周辺の商店を合わせますと200店舖程度はあります。その各店が地域の方々といろいろな情報を交換したとすると、多分1日500人とのコミュニケーションが存在し、500件以上の情報が交差するわけです。地域の中に毎日それだけの情報が交わされる場所はほかにありません。
 今、地域では欠落しつつある人間関係を取り戻そうと、コミュニケーションをキーワードに盛んに種々の企画をしています。しかし商店街では、わざわざそのような企画をしなくとも、今述べたようにコミュニケーションは常に存在するわけです。
 しかも、その情報は医療から福祉、教育、防災、趣味など生活全般に渡る多岐なものであります。
 そうした情報を商店街が収集し、そして地域に再び送り返すという作業(システム)ができないものかと考えています。地域商店街は地域情報の収集発信基地(核)になり得るのではと考えています。
 二つ目は商施設の地域に対する有効利用です。甲南本通商店街には会館があります。もちろん地域には会館がたくさんありますが、その使用料や使用可能時間の問題を耳にすることもあります。夜間の使用時間は概ね9時と決められていますが、ほとんどのところではその15分前に終了しなければならないらしい。平日、仕事を持った方にとって会合ができる時間ではないということになります。そこで商店街会館を11時まで使用できるようにすることと、地域性のある会合については使用料の減免を考慮してはと考えています。
 現在、会館の1階コミュニティホールはミニデイサービス(NPO甲南オアシス運営)として活用してもらっています。そのほかにもアーケードがある特徴を生かし、フリーマーケットなどの会場に解放することや、空き店舗を地域の方に有効利用していただくことなども考えられます。
 また、現在も一部稼働はしているパソコンルーム(パソコン10台、インターネット環境整備)を地域に無料解放することなども商店街資源を生かした地域貢献と考えています。
 三つ目は商店街の人的特徴を生かした防災機能です。地域は昼間、成人男子はほとんど仕事に出かけて不在の状態であります。
 ところが商店街には常に成人男子が存在するわけであります。そうしたところに何か防災について地域に寄与できるところがあるのではと考えられます。
 また、平成7年の震災を思い起こしますと、壊滅した商店街に多くの住民が来られたのは物資の調達だけではなく、ほかに「情報」といったところもあったのではと考えています。
 そこで私たちは、地域災害拠点の一つとしての商店街を考えてはどうかとも思っています。「緊急災害無線」の設置や、正確な災害情報の収集と提供を取り扱うシステムを設置して災害情報拠点としたり、「コープこうべ」がある商店街として、緊急食料、生活用品などの流通を担う商店街とか、あるいは救援物資を扱う商店街としての災害時の物流拠点になるのではと考えています。
 やさしい商店街を目指すにはどうすればいいのかということも取り組むべき問題としています。心やさしい商店街は高齢者に、障害者に、女性に、子どもに地域のあらゆる人に対してやさしくあるべきです。
 やさしいという言葉はいろいろな意味が合まれています。障害者に対するバリアフリーが言われている今日ですが、資金的に貧弱な地域の商店街・商店は設備の上でのバリアフリーを実現するのは困難な状況です。しかしながら一方的な考えかも知れませんが、心やさしい商店街は車椅子の方に手を貸して店の中に入ってもらうことができます。側まで行って、その人の要望に応えることもできます。地域商店街にとってハードの問題が即ち、障害者のバリアフリーではないのではと考えています。障害者の方にとって、周りから孤立した状況では確かにハードの充実がバリアフリーの大きな要素と考えられますが、私たち地域の商店街は、「やさしさ」で対応ができるのではないでしょうか。
 また、前項の商店街施設で述べました、NPOのミニデイサービスが高齢者等に対する「やさしさ」であれば、小さな子どもを持つ母親に対する短時間での託児施設を設けるのも「やさしさ」でしょう。2〜3時間程度の買い物を含めた用事をするために、あるいはリフレッシュするために自分の時間を作っていただけるということになると考えられます。
 地域という大きな家族の中で、商店街が心やさしい家族の一員となれるのかを大きな課題と考えています。
 私たち地域商店は、ある意味では地域住民の家庭を知る商業者です。商店街(商業者)は、お客様の家庭には、子どもが何人いて、ご主人がどこにお勤めだとか、寝たきりのおじいちゃんがいるとか、猫が大好きでたくさん飼っている等、お客様の日常生活の情報を知っているわけです。まだ、かつての井戸端会議がそこに存在しています。それはスーパーマーケットや都心型商店街が知らない、あるいは知る必要もない情報かもしれませんが、しかし地域商店街には、それら井戸端会議が存在することは、地域商業者と地域住民とが「商」以外でのコミュニケーションが図られ、地域商店街が地域の一員である明らかな証拠です。残念なことに長い歴史の中で、商のもつ特質上、地域商店街が地域に存在しながらも「特別な区域」として、地域住民になかなか相容れられない状況にあったのも確かで、未だにそういった状況ではないかと考えております。しかしながら、信頼関係が確立された商店(商業者)と住民(お客様)において商売上ではもちろん、そのほかのコミュニケーションの中に虚偽が存在することはあり得ないことです。地域商業著は地域住民にとって信頼のある店(商店街)であるとともに、一住民として正しく地域に存在しなければならないのは確かであるといえます。住みやすい地域づくりに地域の一員としての貢献をしなければならないことも確かです。
 甲南本通商店街は地域の一員として新たな意識をもち、地域商店街は「何が地域に対してできるのか」を真剣に考え、地域住民の理解を深め、「特別な区域」として存在する「垣根」を取り除いていただくと同時に、開かれた商店街として出発する必要があると思っています。
 今まで述べた以外に、商店街には自分自身が気付かない「地域に貢献できる機能や資源」があるのではと考えています。それらを発掘し、詳細に分折して、それがどのように「地域にたいして貢献」できるかを考えることが、今、地域商店街がすべきことなのではないでしょうか。
 これらのことは外部の方の指摘により気付くことも多々あると思います。そういう意味においても、地域商店街を考えるには、地域のあらゆる人とのコミュニケーションは不可欠になっていると思われます。
 以上、私どもが広く世間に問うた内容です。これを皮切りに地域活性のために地域との共同作業を進めています。これから述べますことはそれを実践した内容です。


「にぎわいネット」運営委員会

 平成14年頃になりますと、東灘ではマンションがでがあちこちにできたこともあり人口が増え始めました。(現在では震災以前より人口は増えています)
 ところが、そこに入居した住民は他所から来られた方が多く、この地域の事情がわからない方々や、あるいは地域になじめなくてコミュニケーションができなくて困っておられる方が多いのではと推測しました。新しく来られた方は比較的若い世帯が多く、したがってパソコン保有率が高いと考えられるので、ウエブサイトでの地域の紹介やコミュニケーションができればと考えました。
 そこで、地域の方々の賛同をいただき「にぎわいネット運営委員会」を結成し地域ホームページを作ることにしました。メンバーは婦人会、PTA、民生委員、自治会、まちづくり協議会等に所属する人や、ボランティア、一般主婦等の方々に参加していただきました。地域のあらゆる情報を掲載するとの基本的な考えから10人が7か月がかりで資料集めと、100ページ以上にも及ぶ地域情報ホームページを作成しました。
 現在、月1回の定例会とメーリングリストによる情報の交換と随時の更新作業を継続しています。
 また先ほど述べました新住民の方の多くは子育て中の方が多く、昨年、子育てに関するページも増設し地域の状況に対応したホームページづくりを目指しております。


大学生との共同作業

 商店街の近くにある甲南大学で起業家研究会というサークルがあり、彼らが商店街を活性化させる作業を思い立ち、私どもの商店街と関わり合いを持つようになりました。特にそのメンバーの1人が一昨年より商店街を足場に地域の活性化をしたいとの希望があり、商店街では商店街会館の一部を貸与して活動拠点をつくり、協働して地域の活性化に取り組むことになりました。彼らのネットワークと商店街のネットワークで学生たちが集まり甲南地域経営研究所(KRMI)を立ち上げました。
 メンバーは大学生4名、大学院生3名でのスタートでした。彼らの活動はホームページ(http://www.krmi.jp)を参考にしていただくとして、活動を通じて社会体験と社会貢献をしながら、まちづくり活動をしております。
 商店街では最近のイベントは彼らと協働で開催することになっています。例えば、
・父の日バナーイベント:父の日に商店街に飾るバナーを父と子で制作してもらい、父と子のコミュニケーションづくりをする。
・七夕まつり:周辺にある四つの小学生に七夕飾りを作ってもらい商店街や周辺道路に飾りつける。
・文化祭:同じく小学校の作品展を商店街空き店舗で開催。
・クリスマス:クリスマスルーム(クリスマスの雰囲気が漂う部屋)を造り子どもたちや家族連れが楽しめる場所づくり。
・117イベント:阪神淡路大震災のメモリアルイベントとして豚汁の炊き出しなどを開催。
 などがあるが、彼らは地域に出向き地域のイベントを手伝ったり、区のマップづくりや、子どもたちの居場所づくりなどに貢献しています。


東灘区の特異な現象(多子高齢化)〜甲南キッズスクエア

 先ほども述べたように震災で壊れた家や工場跡にたくさんのマンションができ、そして多くの新しい住民が転入してきました。それらの方々は若い世代の人が多く、従って小さな子どもを持つ家庭が増え、束灘区では多子という現象が出てきております。
 商店街としてもこうした現象を早くから察知しておりました。買い物に来るお客様が手押し車や自転車などに小さな子どもたちを乗せているのが本当に目立つようになりました。公園も以前は高齢者の日向ぼっこの場所が、今や子育て中の親子が一杯で、子どもたちの明るい声で満ちあふれています。本当に多子の地域になっているのです。
 しかしながら子育て中の若い親は多かれ少なかれ種々の問題を抱え、地域の人たちはいろいろな形でそんな親子をサポートしております。商店街もそうした問題にお役に立てればと考え、子育て支援事業に着手しました。民生委員や子育ての専門家、子育て中の母親などがメンバーで「甲南キッズスクエア」を立ち上げ、約1か月のイベントを組みました。
 また先日、子育て異文化交流イベントとして、外国の子育てと日本の子育ての事情の違いや食育のフォーラムを開催しました。


商店街のネットワーク

 今までに述べてきたように、甲南本通商店街では地域の様々なネットワークづくりと地域活性化を推進しているのでありますが、一方では地域商業者のネットワークづくりにも努力をしています。
 神戸市内の若手商業者グルーブ(やる気ネット)や商業活性に努力をしている地域商店街が集まり、意見交換や学習する組織(未来委員会)を提案し、ネットワークを通しての呼びかけと組織作りに奔走しました。地域商業者が互いに情報を交換することにより、おのおのが属する地域の活性化、商業の活性化に寄与できるように事業を進めています。商店街、商業者が自主的に活動する事例として評価をいただいております。やる気ネットはその代表を甲南商店街の若手役員、海崎孝一理事が担うことにより「活性化の旗頭は若手から」のスローガンで若手の白己研鑽を重ねています。
 また、海崎理事は甲南本通商店街のネットワークの中心的存在で、現在、彼が発信する情報のメーリングリストは2500名にも及んでいます。相手先を選ばず、情報も選ばず、いろいろなところへいろいろな情報を流しているのです。それは商店街が地域活性を目指すにはあらゆるセクションの人材とノウハウを要するからです。またそのネットワークは今までの甲南本通商店街の活性化とこの「まち」の活性化に大きく貢献しており、商店街が事業を推進するにあたりなくてはならないツールとなっています。