「ふるさとづくり'87」掲載

夢イズル国、出雲をめざして
島根県 出雲21世紀市民委員会
心豊かな市民社会の建設へ

 2001年元旦。新しい神話が生まれた。
 伝説のさと、島根県出雲地方に、希望あふれる「21世紀のくにびき」が、全住民の力で実現したのである。ロマンに彩られたこの新天地に、壮大な朝が明ける……。
 わたしたち出雲21世紀市民委員会では、こんな書き出しではじまるふるさとづくりのシナリオを話し合っている。テーマは、「夢イズル国、出雲」。伝説に彩られた大河・斐伊川の源泉から、深い中国山脈から、水豊かな宍道潮からわき起こる雲のごとく、住民が夢を花咲かせ、郷土の未来像として実現しようというものである。
 市民委員会の結成は1984年3月4日である。出雲地域は全国平均を大きく上回る高齢化社会のなかにあり、低い個人所得を向上させ、明るく、豊かな郷土を築くため、住民たちは行政に任せきりではなく、自立自助の精神で立ち上がらなければならないと考えたからである。社会奉仕団体やPTA、青年会議所などの活動家が発起人となり、参加したのは男女80人。「21世紀を視点に入れたぷるさとづくりのために調査、研究、実践し、個性的で心豊かな市民社会を建設する」設立宣言を発表した。
 会員は、商、工、農業者、公務員、大学教員、小学校教員、医師、歯科医師、建築士、不動産、鑑定士、弁護士、神職、僧職、大学生、主婦、茶道教授にジャーナリストも加わって、ただいま27人。うち1人は英国人の大学教授である。また特別会員としてニューヨークにある証券全社、メリル・リンチ社副社長岩國哲人、東京・大阪の官公庁、企業勤務者ら、当地域の出身者6人が「郷土のために」参加し、尽力している。


自ら考え、そして行動する

 21世紀に向かって、わたしたちはなにをなすべきか、新しい時代の市民運動は、要求実現を社会に追る、といった従来の図式から大きく踏み出さなければならない。住民はみずから汗を流し、創造することによって市民参加の行政の実現をはかることができる。わたしたちは、目ざめ、立ち上がることによって「住民から市民へ」となり、真に誇りある市民社会を築くことができると考えたのである。
 調査・研究のための事務局は、理事・総務委員長である周藤滋弁護士(36)事務所。会費は発足以来、月500円。年間予算は約60万円(本年度)だが、会貫のカンパや奉仕活動によって黒字決算を続けている。事業のさいは自治体と共催のものは応分の持ち寄り(補助金)を受けているが、会の運営については“民活”を柱として、会費でまかなっている。


だれでも参加、会市民のものヘ

 年1回、総会で事業・予算を決め、毎月、全員が集まる定例会を開いている。月例会場は、理事である出雲市立図書館、奥井正之館長(50)の好意で、夜間・集会場を利用しており、毎月21日の午後7時半から2時間と決めている。
 20歳から50歳までの地域住民ならだれでも参加できるので、女性も加わり現在12人となった。全体は5つの分科会にわかれており「市民と行政−わたしたちがすすめる個性あるまち」「都市づくりと環境−快適で住みよい環境」「教育と文化−心豊かな人と潤いのある文化」「健康と福祉−元気で明るい心のふれあう地域」「地域産業とくらし−市民が支える創造的な地域産業」をテーマに、それぞれ毎月1回から多いところでは毎週、約20人ずつに分かれ別途、研究会を開いている。
 この分科会の研究結果は、毎月の全体会に競うようにして発表が行われ、おもなものは市民に公開してきた。また調査結果によっては、報道関係者に発表し、大きな反響を呼んだ。
 わたしたちの活動を暖かく見守り、支援してくれる輪はぐんぐん広がっている。「このまちにはしきたりがあり、伝統もある。また、社会団体には既存の立派な活動歴を誇るものがある。いま、なぜ、一般市民が」という声も発足当初、一部にあった。だが直良光洋・出雲市長、布野信忠・県農業会議会長、福間秀雄・出雲商工会議所会頭ら地域の指導者、諸先輩の「これから地域は若い市民の活力が大切」という暖かい励ましに会員は力づけられてきた。


美しい出雲ヘ−市民計画に快適環境づくりが参面

 結成後間もない1984年4月、出雲市は環境庁の指定を受け「アメニティ・タウン」となり快適環境づくり計画を策定することになった。市民委員会の「快適環境づくり分科会」の伊籐憲弘(45)分科会長(島根大学農学部教投)ら22人の男女会員は、この計画に参画する。
 調査活動として市内16地区公民館を約4ヵ月にわたって巡回し、住民代表と地区の歴史、自然資源、行事を掘り起こし、新しい地区づくりについての意見を求めた。この結果をもとに、市内中心部を流れる農業用水「高瀬川」の水べを中心にした親水公園や古い街なみ、景親の保存を中心にした水と緑の資源の保全、活用計画ができ上がり、1985年3月、全市民に発表した。
 発表会では市民諸団体を前に伊藤憲弘が「美しいまちづくりに結集を」と呼びかけ、大きな反響をよんだ。
 この計画にもとづき、出雲市は86年度事業として快適環境計画の実施にはいった。高瀬川の沿岸の電柱、街灯、電話ボックス、看板など景観を妨げるもの、一部住民の心ない橋上駐車などについての住民の声は大きく盛り上がりつつあり、行政側も積極的に関係団体と話し合いを進めている。
 この取り組みとともに、同分科会では高瀬川を中心に史蹟をめぐる「市民ウォークラリー」を85年、86年と2回にわたり出雲市と共催し、親子連れ、小学生グループなど多数の市民の参加を得て「美しい自然を守ろう」と呼びかけた。
 また「心豊かな人と潤いのある文化」分科会の棟居洋分科会長(47)(島根医科大助教授)ら17人は、高瀬川流域の文化財を調査し、「高瀬川の文化財」(30ページ)を発行し、諸団体に配布するとともに、地元紙「山陰中央新報」に86年3月から、写真紀行「高瀬川散歩」(現在22回目)を連載し、川の美化を呼びかけ、読者の反響を呼んでいる。
 調査だけでなく、実践を、と市民委員会では、市の高瀬川一せい清掃に3回にわたり協力したほか、ゴミゼロ運動の街路清掃や、神話で名高い長浜海岸清掃を行った。


女性が見つめた出雲の写真展

 これらの活動のなかで活躍が目立つのは女性会員である。神田知代(50)主婦、森山育子(45)茶道教授、田中佑子(44)主婦、川井輝江(46)銀行員、高橋侑子(41)薬局経営、小畠寿子(40)NTT、福間清子(35)会社員ら12人は公民館を巡回し、古いなつかしい写真300枚を収集した。同じ場所をカメラで撮影し、新旧を対比させた。「女性が見つめた美しい出雲写真展」を図書館ロビーで開催した。「失ったものはかえって来ないが、せめていまある美しいまちを保全して」と証えるこの催しは85年5月、2週間にわたる期間中、多数の市民が観覧し、会場内の「緑の募金箱」には寄金がつぎつぎ寄せられた。
 女性会員の社会参加は、保守的、閉鎖的とされていた地域に新風を巻き起こし、女性の地位の向上と積極的な発言の増大に大きく寄与しつつある。市民委員会では、全役員28人中、女性役員は5人。事業のなかでも女性の役目は「お茶くみ」「受付」といった雑用ではなく、企画担当者として重要な立案を行っている。男性会員は、新しいふるさとづくりは女性の力なくしてはできないことを痛感している。


若い世代もまちづくりへ参加

 会活動を進めるうち、わたしたちは将来のまちづくりを担う若い世代の育成こそ大切であると気づいた。わたしたちが守り、育てたふるさとをさらに一歩住みよくするのは若者たちである。
 そこで、1985年8月、青年、高校生を対象にした地域活性化フォーラム「21世紀の世界・地域」を開催した。講師、パネラーは岩國哲人・メリル・リンチ社副社長はじめ、すべて地域の出身者で40〜50歳の各界のフレッシュ・リーダーばかり。いずれも本委員会の特別会員なので他の講演会の名士、タレントのような多額の謝礼どころか、交通費も自弁の手づくり討論会は、市民ら1500人が参加した。このなかで、高校生100人を対象にしたアンケートを発表し、現代っ子の80%が「将来、出雲に住みたい」と答えたこと、また「緑を保全しながら活力ある町に」と多数の若者が望んでいることが分かった。
 先輩たちが「がんばれ、出雲の若者たち」と次々と激励するなかで、終了後、参加者のうち128人が「自分もまちづくりのために地域で努力する」と感想文を寄せ、地域に大きな感動を呼んだ。
 本年は11月15日に「地域活性化フォーラム‘86、夢イズル国、出雲」を開く。今回の主役は市内6高校の生徒と島根医科大、島根大学の学生。パネラーは学生、生徒20人。コーディネーターは本会理事、西本寛(29)(島根医大5年)である。アシスタントは、ニューヨーク育ちの岩國絵里さん(32)会社員。パネラーのなかにはアメリカから国際交換学生として1年間当地に滞在中のディアン・コリンズさん(16)とマチュー・マクニコル君(18)もいる。
 当日は市民ら約1500人が入場するが、この夏から2回にわたって行った高校生、大学生の登壇者の打合わせ会では活発な意見交換が行われ、アドバイザーの探検家・永瀬思志さん(30)も「若者らしくもっと出雲市出身のでっかい夢を」と元気づけた。市民委員会ではこの事業をもとに若者たちが夢と希望をもてるように(1)地域産業を新しく興こす運動(2)大学、学術研究機関の誘・設置(3)郷土を見つめる学校教育をと呼びかけ、推進する。
 “新人類”といわれる高校生、大学生を「地域づくり」といったかたいテーマに結集させることははずかしいというのが定説だが、わたしたち100人の会員は、この2年間、各校へ足繁く通い、担当の教員、生徒と十分に意志疎通をはかった。これによって2回にわたるフォーラムを「ふるさとおこし大会」に高めることができた。


市民の1%を会員に

 市民委員会は5つの分科会がそれぞれ地域の課題を探ってきた。そのなかから、解決への道を示したり、実行にあたる市民団体としてみずから汗を流してきた。今後はあるときは行政と協同し、諸団体・市民と手を結び、さらに大きな運動へと広げていきたい。
 そのためには、会員を全市民の1%にあたる800人を目途に増強し、市艮パワーとして力をつけることが必要である。女性の参加はとくに重要なので全体の3分の1は女性としたい。
 来年は、高瀬川開削300年を迎える。当委員会も記念行事を計画しているが、京都の高瀬川に代表される各地の高瀬川の環境保全についての資科、情報の交換を行いたい。また出雲市内の環境地図の出版、解説書(150ページ程度)出版のための編集作業を11月に終え、未春には刊行にこぎつける。
 それとともに市民委員会運動を周辺に広げていく。わたしたちの発足以後、出雲広域圏2市5町では次々と21世紀委員会が結成された。行政個に事務局があったり、青年会議所の一室を間借りしたり形態はさまざまだが、中核都市である出雲の21世紀委員会がリードをとり、帽広い交流とより大きな運動へとうねりを高くしていく。
 市民のなかから燃え上がり、草の根の人たちを結集して進んできた21世紀委員会。若者、市民、広域圏へ、そして国際人を巻きこみ、未未の神話づくりへと歩むつもりである。