「ふるさとづくり'88」掲載

水から学んだふるさとづくり
群馬県館林市 館林市生活学校連絡協議会
自然環境に恵まれた田園都市・館林市

 河川、湖沼の汚れがいわれて久しい今日、全国各地で河川浄化の運動が繰り広げられている。
 私たちの生活は高度経済成長の波に乗り、豊かになったが、物の価値や自然に親しむ心が失われてきている。都市化が進むにつれ、公害の発生源も従来の産業型から都市型へ移り、環境汚染の問題も一般家庭が原因となる公害が増加している。とくに河川では生活排水による水質汚濁の問題が目立ってきている。
 当面の問題について私たち館林市生活学校連絡協議会は、城沼の自然を呼びもどすため、主婦の立場からできる河川浄化の対策や、水質汚染の原因などについて、3年前より環境課水質浄化対策係の指導をいただき、取り組んでみた。
 市の人口75,000人、南に利根川、北に渡良瀬川に挟まれ、周辺には河や沼が多く比較的自然に恵まれた田園都市である。
 市のスローガンも「水とみどりと潤いのある豊かなまちづくり」と主唱されている。
 街のシンボルである城沼は「水とみどりの館林」を象徴する景勝地で、東西3.8キロ、南北180メートルの細長い沼で南側にはつつじケ岡公園があり、観光の拠点となっている。


生活雑排水による汚染された河川

 自然環境に恵まれた館林も前橋から東毛にかけて河川の流れがゆるやかなだめ、中小河川の汚濁が進行している。とくに市の中心を流れている鶴生田川は、家庭雑排水による汚濁がひどく城沼の魚が酸欠で浮上する事態が発生している。このような状態では死の川と呼ばれるのではないかと心配されている。
 川の汚染度は、生活排水69%、産業排水21%、畜産6%、その他4%、という全国的な調査結果が出ている。とくに家庭から流される雑排水のなかで油が第1の原因となっており、そのほか洗濯の汚水、浄化槽の管理不十分、下水道の不備などが主な原因となっている。下水道の普及率は人口に対し32%で全市下水道完備までは程遠い状態である。
 普段、私たちは川や沼に対して無関心な生活を過ごしているが、この問題に取り組みはじめて城沼や鶴生田川の汚染の実情を知ることができた。地区活動を通してさらに河川の汚れを探るため、地域の下水より幹線堀、鶴生田川、城沼、そして利根川へと流入する経路を辿って調べてみた。


鶴生田川の状況

 1級河川の輪生田川は、館林の中央を北から南にかけて約11キロメートルに渡って流れている。流域の人口43,000人、市全体の60%の水が流入されている。源流の川幅は70センチくらいで、地域の生活排水が流れる程度で水量も少なく、護岸工事も来設置のため雑草の生い茂った小さな川が鶴生田川の上流(源流)となっている。そこより500メートル下流までは護岸工事が完成され、川幅も広く、水量も次第に増えてきている。農繁期には農業用水として利用されている。
「川は三尺流れれば水清し」といわれるが、上流からのゴミや汚物が流されることにより、下流の城沼はゴミの溜り場となっている。いくつかの地区を通り市内に入ると水量も増してくるが、流れがなく、どんよりと水も汚れてきている。
 沼に流入する直前2ケ所にゴミを集める網が張ってある。1ケ所はアオコの発生しているところと、もう1ケ所は油の汚れが白く浮上している場所とがある。その周辺は悪臭を放していた。この処置は月に1度吸収する作業が行われている。
 この様子をみて台所から油汚れや野菜屑を流すことにより、水の汚れの加害者は私たちであることを感じさせられた。
 また、これより先、沼の下流にまわり沼の水面との落差2メートルの堰には合成洗剤による石けんの泡10センチくらいの層になっていた。以前より少なくなったそうであるが、洗剤の公害を実際に見て主婦としての責任を感じた。
 これより先の流れは地下堀を通って矢田川と合流し、最終関門の排水機場でゴミを取り除かれて利根川へと流出されていく。
 流れを追って汚染源を見てまわったが、生活雑排水による「アオコ、油、合成洗剤の泡ゴミ」などの発生の実情を私たちなりにつかむことができた。


城沼サミットを開催

城沼サミットの取り組み第1回(61.6.19)
 地域河川や城沼の実態を学び、その結果「城沼を水質汚染から守ろう」との意識が高まり、開催の運びとなった。
 参加対象者は輪生田川流域に住む主婦グループ、生活学校、城沼漁業組合役員、市環境保全課等約40名、市長さんを交えての話し合いが開かれた。
 城沼はかつて、ワカサギをはじめ30種類の淡水魚が住み、ジュンサイが繁茂した自然生物の宝庫でしたが、ここ30年来、生活雑排水の流人により年ごとに汚濁が進み、このままの状態が続けば自然が破壊されるであろうと切実な話し合いがもたれた。
 また、各地区の主婦グループ代表からも自分たちの目で確かめた汚染現状の報告があり、台所を預かる主婦として家庭でできる浄化対策について話し合われた。
@台所での対策
 ○調理くずや食べ残しは、流さないようにする。
 ○使い古しの油や食器の油汚れは古新聞紙や布切れで拭き取って、ゴミとして出す。
 ○台所で使う中性洗剤は3倍に薄めて使用する。
A洗濯、その他の対策
 ○洗剤は正しく量って使う。
 ○廃油を集め、公害のない手作り石けんをつくる。
など、体験にもとづいた活発な意見が出された。また、食器やフライパンなどの油汚れの拭き取りは「一拭き運動」としてぜひ広めていきたいと思っている。
 市長も挨拶のなかで「水質浄化は市民一人ひとりが主役となり、自然を守り愛するまちづくりのため市民の輪を広げてほしい」と述べられ、初めての取り組みに対し、たいへん励みとなった。
 次回会議の申し合わせとして「汚濁のひどい実態をもっと勉強しよう」と船で城沼を視察することになった。


船で城沼を調査

調査活動 その1 透視度調査(61.9.26)
 小雨の降るなか、漁業組合の協力を頂き、船上より鍋ぶたの手作り透視板にて城沼の上流から下流まで7ケ所を測定した。その結果、水の透明度は平均60センチから8センチで、雨のため水量も多く適切な数値をつかむことができなかった。身近に水と接して感じたことは、水面にゴミなどあまり見られないわりに、透明度はなく意外に沼の水は汚れていることに気がついた。
 手づくり透視板は、鍋のふたに3ケ所穴をあけ、糸で吊す。糸には10センチ間隔に目盛りをつける。ふたの中心に白のビニールテープを十字に張りつけ水中透視の目安とした。

先進地との交流
 生活学校はその後の取り組みについて、さらに水質汚濁の浄化を図るため、木炭の活用で川を守っている八王子市の市民グループと情報交換を行った。地域は異なるが同じ目的を持つもの同志として、気軽に話し合いがもたれ、パックテストによる水質調査の指導を頂くなど、今後の活動に大変参考になった交流会でした。

調査活動 その2 水質検査
 この度の水質検査は、八王子市を参考に早速取り組んでみた。生活学校区を中心に市内15ケ所調査してまわった。
 昨年度より取り組んだ透視度調査や水質検査の結果を表にまとめ、そのほか鶴生田川を中心にした汚染分布図を作り市民ホールに展示して多くの人に呼びかけを行った。


きれいな沼を取り戻すには

城沼サミットの取り組み第2回(62.7.15)
 昨年6月以来の市民会議は生活学校メンバーを中心に、市行政、城沼漁業組合、渡良瀬川に鮭を放す会、水質監視員、釣り連合会、ホタルの会の代表者50人が一堂に集まり城沼を見渡せるつつじケ岡公園にて開かれた。
 会議に市長も出られ、「昔のきれいな沼を取り戻すのは市民の悲願、行政だけでは限度がある。市民運動の輪をさらに広げてほしい」と呼びかけがあった。生活学校側から1年間の実態調査について報告があり、各団体からも水に対する見地から、いろいろな意見が出たが、雑排水のなかの洗剤の問題は、どうにかならないものかと鋭い意見が交わされ、使う立場として考えさせる問題であった。
 また、当会議のもうひとつの呼び物は、「城沼の魚は臭くて食べられない」という定評があるので、会議の冒頭、城沼で捕れた魚の天ぷら(口ボソ、川エビ)を試食してみた。
 天ぷらにするとさほど臭みは感じられないが「ほかの沼の魚と比べれば臭いがする」と釣りをする方からの話であった。
 臭くて食べられない魚にしたのは誰なのでしょう。度重なる話し合いのなかでその原因は家庭にあるという、隠すことのできない事実が証明されている。水質浄化の問題は主婦にとって責任は大きいが、家庭でできる対策や心掛けは、市民一人ひとりの思いやりと愛情が、河川の汚濁防止につながるものと思う。次回の新たな取り組みの申し合わせは、ワカサギの卵を放流し、浄化の証明を見い出そうとの意見に満場一致で決議され、話し合いに余韻を残した集合であった。


今後の活動について

 河川浄化の問題から水との出会いがはじまったわけだが、この問題に出会うまではあまりにも身近過ぎて、大切な資源であることも忘れていた。
 水は空気と同じくあらゆる生物の命の源である。生活の近代化とともに私たちの身辺から切り離すことのできない問題として、環境の汚染が生じてきている。自分たちで汚した川や沼は自分かちで守り、魚の住めるきれいな川にして自然に戻してやらなければならない。これまでの運動を通して対策や方向付けを学んできたが、全体的な問題として市民の協力と行政の手助けがなければ何の手掛かりもつかむことは出来ないと思う。
 激動する時代のなかにあって、活力のある豊かな地域社会を創るため、地域に根ざした住民活動の輪を川の流れのごとくさわやかに広めていきたいと思っている。
 水との出合いは、今日から地域の付き合いとして長く続けていきたいと願って止まない。