「ふるさとづくり'90」掲載

文化都市<小樽>を目指した都市づくり
北海道小樽市 小樽市民会議
街を二分した運河問題の中から

 かつて北海道を代表する商都であった小樽は、港湾の近代化に失敗し、日本の高度成長期に完全にのり遅れ、久しく斜陽の街と言われ続けてきました。北のウオール街と言われた色内周辺からの銀行の撤退、そして流通産業の札幌への転出、その結果として、明治・大正の二代にわたって築かれた多くの建造物が、再投資と言う開発からとり残されてしまいました。20年以前に出来上っているはずであった臨港線バイパスが、経済力の低下の為完成せずにいる間に、ようやく開発と文化財との調和がさけばれる時代になりました。有幌の石造倉庫群が解体され、すでに機能を失いヘドロの海と化していた運河を埋めたてようとした時、“運河を残して”と言う素朴な気持から始まった運河問題は、その後街を二分する大きな問題となりました。昭和57年、小樽市民会議は激しい運河問題の対立の中で、多くの市民の意見を聞き、市民のコンセンサスを作る為に結成されました。
 運河問題は、その保存と開発をめぐって、時には選挙戦の争点となり、最終的に横路知事の仲介で決着しましたが、多くの市民が、初めて街づくりを自分の問題として考た大きな出来事でした。私達市民会議も運河問題を貴重な経験として、その後小樽が抱えている多くの問題を、市民参加の街づくりによって解決すべく、事業活動を展開してきました。小樽の市民を二分した小樽運河問題は、昭和61年、一応の解決をみましたが、それは同時に低迷から脱出する為の新しい小樽の都市戦略(小樽らしさ)選択への起点でした。
 官主導でなく市民参加による街づくりの必要性が強く認識された転換期でもありました。
 私達市民会議は、何かが始まろうとしている小樽の胎動の中で、五つの活動目標をテーマとして、各事業を推進しております。

@「市民と共に考える都市づくり」
 例会、座会を通して会員以外の人達との意見交換を積極的に推進。
A「地域後志圈交流」
 道民会議、後志サミット等での各地域性の確認。
B「小樽文化活動圈の確立」
 継続事業として、ポートサイドオークションを定着させ、市民文化育成の拠点として今後の展開に意欲的に取りくむことを確認。
@「各市民運動体との交流」
 各イベントに積極的に参加。
D「次なる世代への仲間づくり」
 課題を残しつつ、事業活動の市民参加を確実に推進していく。


小樽文化活動圈の確立

“ポートサイドオークション”
 約10年にも及ぶ運河論争を通して、私達は都市開発と文化的遺産との調和を図る事のむずかしさを学びました。小樽市民会議は多くの市民が、その街がはぐくんできた多くの文化に触れ、そして融合する事無くして、都市開発と文化的遺産との調和のとれた街づくりは不可能であると考え、小樽の持つ文化の掘り起こしの為に、ポートサイドオークションを開催いたしました。
 北海道の中で、最も早く開港場として交易の中心であった小樽には、多くの美術工芸品が集まり、今も家庭に退蔵されたままになっている作品も多いと言われており、また、在樽の芸術家も多く、そうした作品や工芸品を通して、小樽の文化的歴史を掘り起こそうと考えたイベントでした。
 今年度第5回のポートサイドオークションが開催されました。多くの市民の参加を得ると同時に、在樽の芸術家の方々との交流を深める事が出来ました。こうした活動の中で多くの芸術家の人びとが作品を発表する揚が、極めて少ない事を知りました。市民会議では、そうした場を提供する事もまた重要な活動であると考え、『おたる・北からの感動、ARTIST展』を開催いたしました。
〈第1回〉
 おたる北からの感動 ARTIST展
  “中村興一の世界”
 日本工芸会の正会員で、北海道の美術陶芸のホープとして期待されている中村興一氏は小樽へ移住してから日も浅く、市民の作家への理解も少なかった。市民会議による作品展には多くの市民が参加し、100点以上の作品を完売した。
 同氏は、更に大きな釜を小樽に作りたいとの事で、それを支持する有志の会が結成された。
 第1回のARTIST展には特に食器を中心に作品展を行っていただき、「生活の場に芸術文化の香を」をメインテーマにして開催いたしました。すぐれた作品を通して“ひと、こころ、わざ”を、北からの感動として、多くの市民が感じとってくれた事と思います。
 小樽には明治・大正と言う日本の黎明期に作られた多くの建造物が残されています。
 私達は、こうした建造物もまた「文化」であり、先人たちの“ひと、こころ、わざ”を伝える芸術であると考えています。
〈第2回〉
 おたる北からの感動 ARTIST展
  “独創のARTIST達”
 小樽には多くの石造倉庫があります。先人達の気概を今に伝える石造倉庫群に歴史の重みを感じます。そうした石造倉庫の中の最もすぐれた建造物として、旧小樽倉庫があります。その利用方法が様々な方面から検討されておりましたが、未公開のままになっていました。私達市民会議ては、行政側に強く働きかけ「第2回 おたる北からの感動 ARTIST展」を旧小樽倉庫で開催する事が出来ました。
 第2回ARTIST展には、1万人を超える市民の参加をいただき、小樽市民会議で発行した記念画集「小樽十二景」も多くの方々に購入いただきました。私達小樽市民会議は、第2回ARTIST展の成果をふまえ旧小樽倉庫活用に関する要望書を行政へ提出しました。小樽市では、市民会議の要望に沿った形で小樽物産館の構想を発表し、ふるさと創生基金の事業として来年3月完成予定です。
〈第3回〉
 おたる北からの感動 ARTIST展
 国指定の重要文化財、旧日本郵船小樽支店は、明治時代の第1級の建造物で、かつては小樽博物館として利用されていましたが、現在では小樽記念館として昔のままに復元されております。私達は歴史的建造物、国指定の重要文化財と市民文化の今までにない接点として、ぜひ小樽記念館を使ってのARTIST展を開催したいと考え、文化庁へ要望いたしました。幸いにも、関係機関の御協力を賜わり「第3回 おたる北からの感動 ARTIST展」「小樽ロマンクラシックコンサート」を開催する事が出来ました。小樽の若手ピアニスト中川和子さんと、スイスからのノブザークトリオによるピアノ四重奏。そして、近世ヨーロッパルネサンス様式の石造建造物との出会いに多くの市民の関心をよび、700名の参加申し込みをいただきました。会場の関係により100名の市民の皆様を無料で招待し、高い評価をいただきました。建物を保護する為、全会員が一丸となって設営にあたり、重要文化財の活用に道を開く事が出来ました。その後他団体よりの使用申込の依頼が続いているとの事です。


市民運動としてのARTIST展の広がり

 ARTIST展は、小樽で活躍している芸術家を広く紹介すると同時に、小樽に残された文化的遺産(歴史的建造物)もまた先人達の“ひと、こころ、わざを伝えるARTISTとして広く市民に紹介し、小樽らしい文化のあり方を考える市民運動です。
 小樽は歴史の浅い北海道の中で最も古い歴史を持ち、多くの透れた文化人を輩出して来ました。現在の小樽商科大学(旧小樽高商)からは、プロレタリア作家小林多喜二や詩人・小説家伊藤整が巣立っています。
 現在小樽では「伊藤整文学賞」の設立の為の準備がすすめられており、会員の多くが参加しています。市民会議は単に市民会議だけの事業に終る事なく、小樽にある色々な団体との連絡を深めるため、街づくりシンポジウムや色々なイベントに積極的に参加しております。「北海風っ子祭」や「サマーフェステバル」「手宮鉄道まつり」「国際音楽祭」等を共催し、多くの会員がその中枢になってイベントを行っております。そしてこうしたイベントに参加していただいた市民の方々とのコミュニケーションを計り、市民会議が目指す「文化都市小樽のあり方」をうったえ続けています。
 小樽市民会議は、会員数50名の市民団体です。会員は市内より公募した方々より構成され、会員には中小企業の経営者、サラリーマン、公務員等、年令は20代から70代迄と幅広く各界各層の方々が参加しています。予算規模は60万円と少ないのが実情ですが、今年度多くの活動を結実出来ましたのは会員の熱心な活動はもとより、多くの市民の皆様のご理解とご支援のたまものです。
 私達市民会議は、こうした多くの市民の方々の中につちかわれた文化への深い造詣が、やがて、都市開発と文化的遺産との調和のある開発に大きな力となるであろう事を信じてやみません。これからも市民会議のともした灯が大きく、もえあがる様活動を続けたいと考えています。