「ふるさとづくり'91」掲載 |
<集団の部> |
自立型ふるさとづくりを目指す智里東農事組合法人 |
長野県 智里東農事組合法人 |
はじめに 「自分達の村や地域は、自分達でなければ良くすることができない」「地域の活性化は、そこに住む人の行動次第」「行動をおこせば何かがおこる」との理念を持ち、活力あるふるさとづくりに取り組んでいる集団が長野県下伊那郡阿智村にあります。 長野県阿智村は、飯田市から車で25分、標高600〜900メートルの農村地帯で、遠く奈良・平安時代から東山道神坂越えの要衝として発展し、万葉集や源氏物語にも取り上げられるなど、この地方の文化の中心地として発展してきました。村の中心地駒場は、武田信玄が天正元(1573)年三河国野田城の戦いで病に伏し、甲斐への帰国の途上病没した地であるともいわれています。 人口6150人。村の全面積の80パーセントが山林、農地はわずか750へクタール。そんな中で、そ菜・花卉・果樹・畜産・米作にと近代諸施設を取り入れた農業が展開されています。 突然の温泉湧出 こんなのどかな農村に、昭和48年突然温泉が湧出しました。国鉄飯田・中津川線のトンネル試掘ボーリングエ事での副産物でした。村では、この温泉権獲得のため地権者や地元等を東奔西走し、この権利を獲得。さっそくボーリング調査の結果42度の湯を1分間に400リットル湧出させることに成功しました。それ以後、今日までに3回のボーリングを繰り返し現在では45度前後の湯が1分間に600リットル湧出しています。良質のナトリウム硫黄泉により長野県伊邪谷唯一の温泉郷として、中京を始め関東・関西から年間60万人を超える宿泊客でにぎわっています。 朝市に響く声が1日のリズムをつくる 村の朝は、「いらっしやいませ」「いかがですか」「昼神にしかありませんよ」の朝市から始まります。午前6時、朝市の会場には季節の野菜を始め、みそや潰物などの農産加工物が並べられ、新鮮で手づくりの「ふるさとの味」は温泉客に好評です。 この朝市は、昼神温泉郷が経営的にも、誘客的にも軌道にのった56年12月に、Uターン青年を含むこの地区の後継者12人で「ひがし会」を結成し、 (1)遊休荒廃農地の有効利用 (2)国道153号線の活用 (3)産業をおこし幅広い就労の場の確保 (4)地域住民会社の設立による地域の活性化――の目標をかかげました。 『ひがし会』が最初に手がけたのは、自分の家で収穫された野菜・山菜等を持ち寄っての朝市でした。この朝市は思った以上の反響を呼び、売り上げも順調に伸びてきました。次に考え出したのが、余剰農産物だけでは産業おこしは不充分。付加価値を付けて販売しよう――と潰物・菓子・みその各製造業の許可をとり、県の援助をうけて加工センターを建設しました。この加工センターで製造される“5色もち”“愛情こんにゃく”は、当時から現在に至るまで、そのユニークな商品名と健康的な味付けで大変な人気をよび、この朝市のロングセラーヒット商品です。 こうした朝市の定着に、郵便局も宅配の荷物を引き受けるため朝市会場に毎朝「臨時郵便局」を設け、朝6時から7時までの間、朝市で購入した小荷物を引き受けるに至りました。朝市は、郵便局までに行動をおこさせる偉大な市に発展したのです。 「ひがし会」から、住民会杜の「農事組合法人」へ 59年・60年の2年間、県の「むらおこしモデル事業」に指定され、組合員も広く一般募集してその幅を広げ、村民が広く参加できる朝市としての運営基盤の円滑化を図りました。そして、ひがし会の長年の夢であった住民会社『智里東農事組合法人』を発足させ、ひとつの産業の基盤を構築しました。そんな中から遊休農地1へクタール余りを地元農家から借りあげ、りんごのほか、プルーン・ラズベリー・ブルーベリー・スルミナ等、多種類の果樹栽培を手がけ、加えてキャンプ場やパターゴルフ場・山菜園や体験農場を徐々に整備してゆく「コメット構想」をかかげ、農業生産意欲高揚のため、着実な1歩の上に堅実な1歩を重ね確実な前進をつづけています。 レストラン・売店を経営 村は、彼等の行動に刺激されて、観光案内のできる館・展示会のできる館・集会のできる館として「昼神温泉観光センター」を建設し、その中に智里東農事組合法人の使用するレストランスペースを設けました。朝市に訪れる人達のやすらぎの場として、また昼には、“あちむらそば”の賞味の場として、朝早くから夕方までこのレストランを訪れる温泉客が絶えません。さらに国道153号線沿線には、そばの加工から食事までを紹介するそば道場「おんびら」レストランを開設し、昼神温泉郷を訪れる人ばかりでなく、国道を行きかうゆきずりの人までも魅了する施設を完成させました。 現在では無農薬で有機質肥料を使用した果樹や野菜の生産、もちや漬物、うどんやそばの加工、朝市やレストランの経営等、生産・加工・販売の部門にわたる幅広い経営に携わり、年間の販売額は2億円余りにのぼります。従業員は専従職員13人、パート職員12名。粗合員の数は村内外85名と、名実共に産業おこしによる地域の活性化が図られています。 他地域との交流を大切に 組合員のモットーは、今の自分達に満足せず仲間づくりを大切に…です。イベントに追いまくられる昨今、彼等はどこでも、いつでも、だれでもが「自分達の商品のPR」を合い言葉に声のかかったイベントには全て店を出します。イベントではこの組合の名付けのユニークさ、商品開発のアイデアに加えて村民の見守る心の温かさに支えられて、いずれのイベントでも大好評を得ています。そして商品を販売するだけでなく、昼神温泉への誘客宣伝や特産物を通じての、他地域の人達との交流も忘れてはいません。 「物産展のようなイベントで何よりもの喜びは、その商品のつくり方を聞いた人がうなずいてくれることだ」と販売主任の熊谷正秀さんはいいます。 農事組合に学ぶ、熱意と意欲 この智里東農事組合法人の活動は、村の若者に勇気と活力を与え、「追い着け追い越せ」を掲げたサークルが誕生しています。例えば、奥深い山々の清流を皆で味わうことができ、魚のつかみ取りができる『山川体験フィッシングセンター』を、国土庁のリフレッシュふるさと推進モデル事業を導入して成功させた「智里西開発協同粗合」。地場の野菜を直接中京の市場に出荷する「伍和生産組合」等、いずれも智里東農事組合法人に刺激されて活動をおこした地域活性化集団で、農事組合の「地域の発展は地域住民の手で」の教訓が生かされているものであります。 こうした動きに小松勝文組合長は、「意欲を発想の原点に、我われの使命として地域の発展のための活動を続けてゆく。今後は、村の中の他の地域活性化集団と手を取り合って、お互いに切瑳琢磨して自立型の地域おこしを続けたい」と意欲的です。 同組合には、全国から視察団が訪れ、平均週1回を超える来訪のペースは「付加価値の高め方」と「アイデアの商品化」の智恵を学んでゆきます。 国際的な地域づくりの発展を “愛情こんにやく”“ただ今恋愛中”“山くらげ”“絹の華”“やわやわもち”“ふるさと漬”“初恋かくれんぼ”いずれも智里東農事組合法人の商品です。今後は、こうしたユニークな地場産品をダイレクト販売や、外国との交流による国際商品化としての方向も検討しており、ゆくゆくは国際的にも通用する商品の開発に意を注いでいます。 全国的にみてすでに追われる立場となった同組合は、他の追随を許さないアイデアとセンスに加え、活性化は自分達の手以外にはないという『自立型ふるさとづくり』の自信で着実に地域の活性化や、ふるさとづくりをリードすることでしょう。 こうした地域を思う地域の心が日本全国に伝わり、小さな事を題材にした地域おこしやふるさとづくりが各地で活発になることを期待して『智里東農事組合法人』の紹介にいたします。 |