「ふるさとづくり'93」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞

視覚障害者の心にゆとりとやすらぎを
静岡県・かたりべの会
「心に光をありがとう」。日本盲人経営者クラブから「愛の翼賞」受賞決定時の読売新聞のタイトルである。
 目の不自由な会社社長や商店経営者らで作る同クラブは、全国のアイボランティアグループから1団体と1個人を毎年表彰されるのだそうだ。平成4年の表彰にはからずも「かたりべの会」がその栄誉を受けることになった。会員一同思いもかけない受賞の喜びに浸ったのである。
 その時、新聞紙上に紹介された会の活動のあとに「純粋に市民活動として20年近くの歴史を持ち、製作した点訳本と録音テープの数でも全国有数というのが受賞の理由である」と記載されていた。


手さぐりのスタートから

 振り返ってみると昭和51年、ささやかな歩みを始めて17年目になるのである。一貫してボランティアとして視力障害者のために音訳と点訳活動をこつこつと地道に誠実に真剣に歩いてきたことを視力障害者の団体から表彰されるということは、会員一同大きな喜びである。当時は朗読ボランティアの仲間も少なく手さぐりの試行錯誤であった。
 歴代の浜松市立中央図書館長や静岡県立浜松盲学校・NHK浜松支局のアナウンサーの方々、利用してくれる浜松市および周辺の視覚障害の皆さん、励ましたり、苦言を呈してくれたり、陰に陽に私たちの活動を支え、見守り育てていただいた。
 声と声の交換で「かたりべの会」は活動を広げ、今日に至ったと思っている。
 1冊の本が録音図書に完成するまでにどの位の時間と人の目と手が必要なのだろうか、1冊の本を手にする、下読みを始める、読めない文字、難解な語句、人名、地名!!。資料室通いが始まる、幾種類もの辞書をひもとく、医療の本は専門用語が多く特にむつかしい。音読をして声が滑らかに出るようになってマイクに向く、車の音、電話のベル、犬や人声、紙をめくる音、すべてタブー。結局深夜作業にもなる。読み進むうちにつっかえる、誤読をする、読み直し聞き返しをしながら先へ進む。90分のテープ1本何時間で完成できただろう。もちろん文章の難易、自分の体調などなど条件によって異なるけれど、読み終えたら校正に出す。会では2校することになっている。ぎょっとするほど付箇がついて返って来る。訂正が始まる、この技術が上手になると完成も早くなる。訂正が済むとコピーを作り点字の標題や番号を貼付しケースに入れてやって完成となる。この間仲間や先輩、資料室の方などどれだけの目を、耳を、わずらわすことか。借り出した視覚障害者からメッセージが入る、そしてほっと一息!!。
 こうして録音図書が出来上るのである。


さまざまなサービスを

 雑誌類を始め情報誌、広報はままつ、市議会だより等々すべてこの手順を踏んで聞き易い音声と速度、明確な口調。誤読と雑音は排除する。これを原則として活動を続けている。
 ここで平成4年7月31日現在の活動内容を項目別に挙げて見ると、音訳関係では
 録音図書  総タイトル数 1,017
       総テープ巻数 9,603
 録音図書の製作
 (1)利用者(視覚障害者)の希望および会の選書による蔵書の製作管理
 (2)目録の作成(墨字、点字、テープ)を利用者、交流する他館、国立国会図書館へ送付
 録音図書の貸出
 (1)コピーテープによる利用者への発送、毎週火曜日〜金曜日
 (2)他館への貸出(北海道から沖縄県までの155館)
 プライベートサービス
 (1)対面朗読(図書館休前日を除き毎日)
 (2)盲老人ホーム訪問(毎月3回朗読劇)
 雑誌類の録音 月1回分の発行テープ数
 ○散歩道372巻 ○道づれ 51巻
 ○文芸春秋224巻 ○音楽の友22巻
 ○レコード芸術 21巻
 ○他に教育と医学、テレパル、短歌(NHK趣味の講座) 愛盲時報
 ○広報はままつ録音版 196巻
 ○市議会だより 294巻
 ○利用者広報「窓」 294巻
 平成4年4月〜7月までの実績
 ○録音作品総数 1,275タイトル
 ○貸出人数 4、105人
 ○貸出テープ巻数 16,903巻
 講座 浜松市立中央図書館主催「朗読奉仕者養成講座」 1日2時間 40回、「点訳奉仕者養成講座」 1日2時間 10回の講師をスタッフ6名で担当
    今年度 朗読第20期生 点訳第11回生を養成中
 このような活動を毎日展開し続けるには会員208名が常に視覚障害者のための録音図書、点字図書の作成を主とした奉仕活動を行ない視覚障害者にゆとりと、やすらぎの心を培ってもらうよう努めることを常に念頭に置き、特定地域に限定されることなく、県立浜松盲学校をはじめ、県(西部)盲人会連合に加わっている視覚障害者に知識、娯楽、情報等々の向上と吸収をもたらし、他の障害者との交流の輪を広げ、盲学校における教育資料作成の助成も含め、無形の分野に至るまでその成果は大であると考えている。
 また、晴眼者の活字離れと同様盲人の間でも点字離れの傾向が現われていると聞くが、ここ浜松では盲学校での点字普及への努力と、日本点字の創始者である石川倉次先生が浜松出身で、日本点字100周年記念事業として昨年中央図書館で催された石川倉次展には多勢の人々が関心を寄せ訪れていた。


点字活用も始まる

 視覚障害者へのサービスには、どうしても盲人の文字である点字が必要である。
「かたりべの会」の中の有志で点字を学び合い、点字の部が出来たのは昭和52年だった。その後、中央図書館主催で毎年点訳奉仕者養成講座が開かれ、修了者が入会するようになり現在は部員50名を数えるまでになった。それまでの仕事は作成された録音図書に点字の題名表示、送り先の宛名、あるいはテープ毎に巻数の点字を貼る作業、加えて朗読者宛に来た礼状や次に借りたい録音図書の注文の手紙の点字を墨字に直す程度のことだった。
 昭和58年、部員も増えて来たので蔵書づくりがはじまる。蔵書ゼロからの出発は勇気がいった。校正、修正、製本とまさに手さぐりの歩みだったけれども、年毎に手作りの蔵書が増えて来た。もうそろそろ100タイトルになる。「かたりべの会」の点字図書は読みやすいと言われたり、貸出カードに「予約」と書き込まれていると、嬉しくて点訳作業の苦労など吹き飛んでしまう。
 平成2年からは、浜松市が作成する全世帯配布の「5つの市民運動カレンダー」の点訳に取り組んだ。カレンダーには市の年間行事や催し物などが詳しく載っているので情報不足の視覚障害者には大変喜ばれる結果となった。
 この実績により、市の障害福祉課から点字の依頼が入り、東海郵政局の「愛ある郵便サービス活動」の協力も依頼された。これは市内約600ヵ所の郵便ポストに収集時刻の点字表示である。この「愛ある郵便サービス活動」が広がって、視覚障害者が返却のため郵便局へ持って行く点字図書や録音図書を配達員が来た時に持ち帰ってもらえるような「声かけ運動」にまで発展しつつある。


あらゆる要望に対応するために

 もう一つの事業にプライベートサービスがある。ラジオで漢詩を聞く人にテキスト(NHK漢詩)をよむ。電子レンジを購入した人には取り扱い説明書と料理の作り方を、カラオケ教室に通う人には歌詞集の点訳、冷凍食品の購入カタログー覧などもあった。また盲学校の教科書や個人の希望図書もある。
 これからの課題は、「英語の熟語集」「自分の住む周辺の地図」「住居の最寄りの駅の時刻表」等々、1人1人の細かい注文にどの様な方法でどれだけ応えられるかである。
 情報の80%は視覚からと言われている。残りの20%からしか情報を得られない視覚障害者は、情報障害者でもあるわけである。
 点字ばなれの中で、中途失明、高齢失明で点字触読が出来ない人が増えているが、まだまだ要求は多い。求める人がいるならば、修得した点字の技術をさらに生かしたい、そして視覚障害者の目となって役立ちたいと努力している日々である。
 平成4年7月31日現在の点訳図書の製作及び利用状況を見ると
 点字図書  総タイトル数 99  総冊数 497
 貸出状況 平成4年4月〜7月 タイトル 43  冊数 165  利用者数 39
となっており、今年度後半にむけては市主催の、友愛広場、ボランティア広場盲入会主催の各種行事、浜松盲学校主催の諸行事への参加、「かたりべの会」と視覚障害者との交流の強化等を積極的に推進すると共に、あらゆる需要に十分対応するために機能の充実と新人の養成に努め、活動を続けたいと念じている。