「ふるさとづくり'93」掲載
<自治体の部>ふるさとづくり奨励賞

「紫式部」「源氏物語」をテーマにしたまちづくり
京都府 宇治市
活動の概要

 本市では、平成元年にふるさと桐生事業として、市民からのアイデアをもとに、本市が主要な舞台である源氏物語・宇治十帖の作者にちなんだ「紫式部文学賞」を創設した。そして、その第1回受賞式に合わせて、市民参加の実行委員会の主催で、源氏物語をコンセプトとした多彩なイベント「源氏ろまん」を開催するとともに、ハード事業として市内に散在する史跡や観光施設をネットワーク化する「源氏物語散策の道」整備事業を実施し、地域文化の向上、観光振興、うるおいのあるまちづくり等、地域振興に大きな成果をあげている。


はじめに

 宇治市は、古代より京都・奈良・大阪を結ぶ水陸交通の要衝として発展し、古事記や日本書紀、万葉集の中にもたびたび登場する、歴史と文化に育まれた都市である。
 とりわけ、平安時代にはその温暖な気候と風光明媚な自然によって貴族の別業地として王朝文化の隆盛に大きな役割を果たした。そして、現在もなお当時を代表する建築物である平等院鳳凰堂や宇治上神社が現存し、宇治十帖の古跡も整備されるなど、宇治川の清流とあいまって、千年の時の流れを越えて、王朝文化の優雅さを実感出来る唯一の都市であると言っても過言ではない。
 しかし、近年、京都・大阪のベッドタウンとして急速に発展していくなかで、本市の優れた歴史や文化をよく知らない市民が過半を占める状況にあった。
 そうしたなかで、昭和63年および平成元年に、いわゆる「ふるさと創生事業」として1億円の地方交付税が各自治体に交付されたので、その使途のアイデアを市民から広く募集し、279件の応募作の中から、本市のふるさと創生事業を選考した。
 それは、本市が世界に誇れる古典文学である源氏物語の宇治十帖の主要な舞台になっていることから、その作者である紫式部にちなみ、全国の女性作家を対象とした「紫式部文学賞」と男女を問わず市民を対象とした「紫式部市民文化貢」(以下「紫式部文学賞」と総称する)の創設である。
1.源氏物語をコンセプトとしたまちづくりの推進
 ふるさと桐生事業の目的は、地域の資源や特性を生かした地域振興にある。そこで、紫式部文学賞の創設をそれだけに終わらせるのではなく、地域振興にいかに役立てるかという視点からさまざまな検討を行った。その結果、「源氏物語」をコンセプトに、地域文化の向上、本市の主要な産業である観光の振興、地域産業の振興、歴史・文化都市宇治にふさわしいうるおいのあるまちづくり、ふるさと意識の醸成等を主要な目的とした総合的な事業を推進することとした。
 その中心的な事業としては、紫式部文学賞の受賞式を中心とした多彩なイベント「源氏ろまん肌」の開催と、宇治十帖の史跡や平等院等の観光施設をネットワーク化する「源氏物語散策の道」整備事業である。
2.源氏ろまん'91の概要
 紫式部文学賞の受賞式を中心に実施するイベントであり、紫式部文学賞とともに毎年継続して実施する予定である。
 平成3年度は、第1回ということもあり、また市制施行40周年に当たっていたことから、その記念事業という位置付けで特に盛大に実施したものであり、その概要は次のとおりである。
(1)源氏セミナー
「源氏ろまん」を単発的なイベントに終わらせるのではなく、源氏物語をより広範な市民に理解してもらうことを通じて、イベントの定着化と市民参加を推進するため、プレイベントとして8月、9月、10月の3回にわたって源氏セミナーを開催した。その内容は、源氏物語に造詣の深い学者による講演であったが、いずれの回も約400人収容の宇治市文化センター小ホールが満員になる盛況であった。
(2)宇治十帖スタンプラリー
 10月19日(土)・20日(日)・26日(土)・27日(日)、11月の2日(土)・3日(日)・4日(月、休)の7日間にわたり、宇治川周辺の宇治十帖の古跡や観光施設をめぐる宇治十帖スタンプラリーを開催した。天候に恵まれたこともあったが、4キロと6キロのコースのいずれかを完全走破したものだけでも8,200人を越え、全体では約2万人の参加者があったが、これは事務局の予想を大幅に上回る参加者で、スタンプラリーの当日はスタンプ手帳を持った人達でまちがあふれ返る状況であった。
 参加者は市民以外に大阪や神戸あたりからも多数あり、しかも60歳以上のお年寄りの数が非常に多かった。そして参加者の感想も、宇治のよさを再認識した、来年以降もぜひ継続して実施してほしいという意見が大半を占め、本市の優れた歴史・文化を市民が認識あるいは再認識する絶好の機会となり、ふるさと意識の醸成に役たったものと考えている。また、地域の飲食店や土産物の売り上げが大幅に伸びるなど、観光振興にもおおいに貢献した。
 今年度以降も、毎年コースやスタンプ等に工夫を凝らしながら実施し、観光イベントとして定着化を図っていきたいと考えている。
(3)受賞式イベント
 授賞式は、11月17日に宇治市文化センター大ホールで開催されたので、それに合わせて11月16日(土)・17日(日)の2日間、市内各所で多彩なイベントを開催した。
@宇治公園
 16日は、平等院や宇治十帖の古跡に隣接した宇治川の中州にある宇治公園で、平安貴族の代表的遊びであった蹴鞠の実演や、平安時代の衣装や風俗を再現した「雅び、王朝絵巻」を中心に、宇治十帖クイズ、にこにこぷんショー等の多彩なイベントを展開した。
A平等院
 平等院鳳凰堂の前に仮設舞台を設置し、音と光のパフォーマンス「宇治絵巻・浮舟幻夢」を上演した。これは、宇治十帖のヒロインである浮舟をイメージしたパフォーマンスを中心に、シンセサイザー演奏やライト・レーザー光線によるライティングによって、源氏物語の背景となった平安文化を代表する建築物である鳳凰堂の建立当時の華麗さと荘厳さを今様に再現することを目的としたものである。主な出演者は、シンセサイザー演奏・東祥高、パフォーマー・木佐貫邦子、ナレーター・大滝秀治である。入場者については、会場の関係で2回公演で1,500人しか入場出来なかったため、あらかじめ入場者を公募し、抽選で選んでおいた。
 また、入場出来なかった人のために、隣接する宇治公園に250インチのビデオスクリーンを設置し、実況中継を行った。
B文化センター
 16日・17日の両日、文化センターにおいて、受賞式を中心にさまざまなイベントを展開した。16日は、午後から小ホールで北野誠等の人気タレントによるトークショーを開催した。17日は、大ホールで午前中に源氏物語の重要な道具立てである「香り」をテーマに、志野流香道松隠会家元蜂谷宗玄宗匠の講演や京都文教短期大学香道部による源氏香の実演を行った。また午後からは、第1回紫式部文学賞・紫式部市民文化賞の受賞式を行い、引き続いて紫式部文学賞選考委員である梅原猛氏、大庭みな子氏、瀬戸内寂聴氏による鼎談「源氏物語と宇治」を開催した。また、午後からは中央公民館会議室で、市民にお香のお手前を楽しんでもらうため「聞香会」を開催した。
 そのほか、16日・17日の両日、文化センター全体を使って、源氏物語に関連した市民作品の展示や関連商品の販売、宇治の特産品である宇治茶のPRを兼ねてお茶席を設けた。また、文化センターについては、当イベントを地域産業の振興に結びつけるため、商工会議所等が実施している産業フェアーと同時開催とし、物品販売をはじめとしてさまざまな催しが行われた。
 さらに、関連雅宴として、16日・17日をはさんで、文化センターの中にある中央図書館では、源氏物語関連の本の収集と展示「源氏物語へのいざない」が開催され、同じく歴史資料館では、源氏物語関連の美術工芸品を一堂に展示した「源氏物語の世界」が開催された。
 今回の取り組みは、源氏セミナーから受賞式まで非常に長期にわたるイベントであったが、いずれも非常に好評であり、のべ10万人以上の参加を得る中で成功のうちに終了することができた。


地域産業の振興への成果も

 また、今年度観光客が大幅に増えたことや、今回のイベントに合わせて、市内の酒広が市が定めた紫式部文学賞のロゴマークを使用した「紫式部」という銘柄のお酒を販売し、相当な売れ行きを示すなど、地域産業の振興と直接的に結びついた成果も見られた。
 なお、今回の取り組みについては、宇治市・宇治市教育委員会および源氏物語のサークルをけじめとして約50の市内各種団体により構成されている「紫式部文学賞イベント実行委員会」の主催によって開催されたものであり、イベントそのものへの出演やスタッフとしての参加等、さまざまな形での市民参加によって、はじめて実現できたものである。
3.源氏物語散策の道整備について
 源氏物語散策の道整備は、宇治十帖の古跡をけじめとして、宇治川周辺に散在する古跡・観光資源をネットワーク化することを目的としたもので、その内容は、古跡をつなぐ散策道路の整備、道標や総合案内板等のサインシステムの整備、宇治十帖案内パンフレットの作成、万葉歌碑の整備、宇治を一望できる大吉山の風致公園としての整備、公衆便所の建て替え等で、平成3年度より毎年計画的に整備を行うものである。
 また、並行して、散策道路に面して建っている本市の産業と文化の象徴である市営茶室「対鳳庵」の建て替えを実施している。
 地域の資源を生かした個性あるまちづくりが課題となっている中で、源氏物語という世界に誇れる題材を活用した今回の取り組みは本市のまちづくりに大きな役割を果たしたものと考えており、3年度の成果をさらに発展させる方向で継続した取り組みを行う予定である。