「ふるさとづくり'93」掲載
<自治体の部>

営農センターを核に地域複合営農の実践で活性化
長野県 飯島町
飯島町の概要

 飯島町は、江戸時代190年間にわたって「飯島陣屋」が置かれ、明治元年には「伊那県庁」がおかれていました。
 昭和29年に町制を施行し飯島町となり、昭和31年に七久保村と合併して現在にいたっています。
 飯島町は、長野県の南部、伊那盆地の中央に位置し、諏防潮に源を発する天竜川の右岸(一部左岸)にあって、中央アルプス駒ヶ岳(標高2,842メートル)の麓から東方に傾斜した河岸段丘に拓けています。
 町の総面積は87.26平方キロメートル、その内森林57.98平方メートル(66.4%)・耕地14.79平方キロメートル(17%)・宅地2.38平方キロメートル(2.7%)となっており、中山間の農村といえます。
 本町は、日本列島のほぼ中間に位置し、東を南アルプス、西を中央アルプスの3,000メートル級の山に囲まれた盆地です。
 年平均気温11.6度、最高気温33.0度、最低気温マイナス10.4度、降水量は2,000ミリと多いものの、積雪は少なく冬期間の寒さは厳しく内陸的な気候に太平洋岸の気候を合わせ持っています。
 また、1日の温度格差は10度以上と大きく、良質な農産物生産の気象条件に恵まれています。
 主要な交通機関としては、JR飯田線(町内の駅は5ヵ所あります)。町を通る道路には、中央自動車道、国道153号線等があり、現在広域農道の建設も進んでいます。
 これらの機関を利用して、首都東京へは3時間、名古屋市へは2時間、大阪へは4時間で結ばれ、恵まれた交通条件となっています。
 町の人口は10,834人、世帯数は2,854戸でいずれも微増しています。
 産業別就業人口は、1次産業1,299人(20%)、2次産業3,067人(49%)、3次産業1,920人(31%)となっています。


農業の概要

 当町は、昭和30年代まで農業中心に振興を因って参りました。
 農地は、1,180ヘクタール(耕作面積)で、その内の70%余が水田であり、中央アルプスのきれいな水に恵まれ、県下に名だたる穀倉地帯として稲作中心の農業が進められていました。
 40年代からは工業重視の政策に転換したことに加え、転作の導入、中央自動車道の開設等により、町の産業構造は第2次産業中心の形態に変わりました。
 しかし、町に及ぼす公益的な役割をあわせ、依然農業が主力産業であることに変わりはなく、その概要は次のとおりです。
 農業基盤面では、水田の98%、畑の50%が整備を完了し、第2次農業構造改善事業等により生産施設の近代化も道む等、生産体制は整いつつあります。
 農地の貸し借りは、170ヘクタール(14%)で増加しています。
 農家戸数は1,281戸(農家率45.4%)で、1985年センサスと比較すると170戸減少しています。
 農家戸数の内訳は、専業農家10.5%、第1種兼業農家10.7%、第2種兼業農家10.8%であり、専業農家は微増しているものの第1種兼業農家はこの5年間に半減しています。また、農業従事者の高齢化が造んでおり、中でも、上地利用型の担い手育成は緊急の課題となっています。
 平成元年度の農業粗生産額は35.6億円で、水稲12.3億円(34.5%)、花き6.9億円(19.3%)・果樹6.4億円(18.8%)、野菜2.7億円(7.7%)、菌茸2.3億円(6.5%)で、昭和63年度を底に増加に転じています。
 作目構成は、転作の実施以降果樹や花き等の高付加価値作目の導入が進み、中でも、二十世紀梨は伊那梨として名声を博し、リンゴを加えた果樹の栽培面積は120ヘクタールに及んでいます。
 花き栽培も盛んになり、新鉄砲ユリは全国的な産地として知られています。
 また、農閑期の余剰労働力利用を目的にスタートした茸栽培は、本シメジが主力となり、健康食品としてのニーズの高まりとも相まって基幹作物のひとつに成長しています。


農業農村活性化の基本構想

 当町は、農業と農村の活性化を図るため、町の農業に関係する全ての機関や農業者の代表で組織した『飯島町営農センター』を昭和61年9月に設立し、これに併せて地域農業の計画・調整・実践主体として、町内4つの区(旧村)単位に地区営農組合を設立し、町ぐるみによる組織農業を進めています。
 なお、営農センターは町農業振興方策の企画立案と実践に伴う評価、地区営農組合は営農センターの振興方策を基本に地域の実状を生かしたマネージメントと実践機能を分担しています。


事業の実績

 センターの策定した飯島町の農業農村活性化計画「地域複合営農への道」に基づいた「営農センター」と「地区営農組合」による組織農業の実践の中から、次の実績が上がっています。
(1)地域複合営農推進組織の確立
「飯島町営農センターの企画機能」と「地区営農組合の実践機能」の一体化により町ぐるみによる組織営農の推進体制が確立されました。
 このことにより、個別完結経営の課題解決の場ができ農業構造の再編が進めやすくなりました。また、組織づくり活動を通じて地域リーダーが育ち、地区営農組合が自主的に地域の農業をマネージメントできるようになりました。
(2)土地利用調整システムの確立
 飯島町の農地の流動化率は170ヘクタール(14%)に及んでいます。
 新しい農業構造の再編に、農地利用の計画機能と調整機能を担う組織が求められていました。
 そこで、地区営農組合が農地の貸し手、借り手の意向を掘り起して、農地利用計画と作物栽培計画の素案づくりをし、農協はその計画に基づいて利用権を設定し力強い農家を育成する飯島型の「経営者育成・農用地利用調整システム」を確立しました。特に、農用地利用増進事業については全ての賃貸借を農協を通じて処理しており、平成元年度および2年度は全国一の実績を上げています。
(3)地域を守り担い手を育てる「共益制度」
 農地の流動化の進行に伴い農業者の農業離れと農村離れが進んでいますが、これ以上進めば農村の崩壊が危惧されます。
 そこで「共益制度」を確立し、地主を含めて地域を守り担い手を育て、農村の自然と村機能の維持を目指しています。
(4)水田農業の確立と効率の高い転作の推進
 @本郷地区営農組合では、全地域の話し合いによる合意づくりを進め、平成3年度から「固定転作配慮型ブロックローテーション」と、この事業を支援するため、「水稲所得補償方式の互助制度」を実施しています。
 A米を町の特産に、を合い言葉に、全町において水稲の用途別地帯鋼栽培とこの事業を支援するため米の価格共助を実施し売れる米づくりを進めています。
 B地域の実状を生かした効率のよい転作を進めるため、転作助成金の一括受領を町の農業者全員の合意と協力で実施しています。
 この制度は、担い手の育成・担い手組織の育成・地域振興作物の育成等地区営農組合を中心とした組織営農の推進に大きな役割を果たしています。
(5)担い手育成と農産物の高付加価値化
 @キノコ栽培と土地利用型農業の複合経営を行う農事組合法人として、『いつわ』・『越百農産』・『あすなろ』、花き栽培を行う農事組合法人として、『七久保花き生産組合』をそれぞれの営農組合活動の中から育成し、活発な活動を進めています。
 なお、組織型の担い手のメリットとして、次の事項があげられます。
  ア.労働条件の改善(休日・労働時間・身分保証・給与等)
  イ.雇用者の確保
  ウ.生産性の向上
 A花きを中心に個人の担い手の新規就農があり、国際競争力のある部門において担い手が育ち始めました。
 B『花とキノコと果物の里』づくりをキャッチフレーズとした、ブランド農産物の振興が進み始めました。
(6)コストダウン
 地区営農組合の機械利用部に、第2次農業構造改善事業により設置した13の水稲協業組合を統合し、共同利用によるスケールメリットに加え、栽培計画と機械利用計画の一体化によるコストダウン体制を確立しました。
 なお、作業計画及び代金の精算等は現在整備中の農業情報システムによりマップ情報をあわせて処理するよう計画を進めています。
(7)農業の情報活用
 農業面の情報活用は遅れているが、地図をベースに農地流動化管理・ブロックローテーション管理・農作業受・委託管理等にパソコンを活用し、農地の面的集積と活用・担い手育成等を支援するシステム作りを進めています。