「ふるさとづくり'93」掲載
<個人の部>

夏はほたる、冬はサケ-子供たちを主役にした都市の自然保護
東京都 箕輪一二三
 箕輪一二三さんは「はたるの里・三鷹村」を昭和61年の結成とともに『村長』となり、野川に清流をよみがえらせるために夏はほたる、冬はサケの放流など子供たちを主役にした自然保護運動に取り組んでいます。
 三鷹市の大沢という所は、地名のごとく、数多くの湧き水があります。
 水辺にはサワガニ、シマアメンボ、ヘビトンボ、フタスジモンカゲロウ、ゲンジボタルなどが棲息しています。
 湧水中には、アオカワモズクという藻類が発見され、いずれも清流だけに棲息する生物で、環境指標生物にもなっています。
 湧き水の源である涯線や台地上が、「富士山の見える一等地」との宣伝で乱開発され、緑も湧水も減少しています。
 「はたるの里・三鷹村」(メンバー数70人)は、こういった野川流域の実態を踏まえ野川に清流をよみがえらせるために生まれた活動です。


影響力は多摩全域に

 箕輪さんのプロフィール
 箕輪一二三さん69歳。農業。
 箕輪さんは、農業に従事するかたわら、永年にわたり三鷹囃しの保存や郷土史の研究に取り組んいます。そうした、郷土愛につながる気持ちから、清らかな自然を保護していくことを、次代を担う青少年とともに美しいふるさとを残そうと発起し、有志を募り「はたるの里・三鷹村」を組織したのです。
 活動の中心地区の大沢を「三鷹村」といい、この活動のために自分の土地も解放し、近隣の農家にも趣旨を広め協力をえています。
 箕輪さんを中心にする活動は、ほたる、サケにはじまり、「野鳥の保護」「稲の栽培」「湧水の保全」などを積極的に展開してきており、その活動の内容や活動の範囲の広さ、そして、その影響力や波及は、多摩地域にわたり、さらに中野や練馬にも広がっています。
 この活動は、自然保護をすすめながら、青少年の健全育成をからめた、近郊都市の「新しいふるさとづくり運動」として年々活動実績を挙げています。


ここがふるさとだ

 25年ほど前までの「三鷹村」の一帯は見渡す限りの水田や林、広々とした畑などが多く、小川に入ると真夏でも痛く感じるほど冷たい湧き水がどこにもあり、自然のほかに何もない素晴らしい場所でした。ここが急激に宅地化か進んでいるのです。
 こうした状況に箕輪さんらは、次のように考えたのです。
 @自然に対する感性は、ものごころついてから中学生くらいまでの間に磨かれるというので、わずかに残された自然を今の子供たちにともに体験しながら保護・保全し、自然を愛する大人に育てたい。
 A自然の中で遊び回った体験は、終生忘れられないほど素晴らしいことである。
 B子供たち自身の準備から成功までの体験が、大きな声で叫びたくなるほどの感動を与えるだろう。
 C熱心に活動している中学生らが大人になり「ここがふるさとだ」と言えるように、活動に取り組んだ心意気・やり遂げたすばらしさを心に刻んでほしい。


点から面への広がり

 箕輪さんらがめざす方向は、「点」として各湧水源にゲンジボタルを自然発生させること。「線」としてこの湧水が流れ込む川の源流から下流までが一体となって清流化をめざし、サケの孵化、飼育、放流そして回帰。
「面」として雨水地下水浸透、国分寺涯線保護・親木河川など土と緑そして水を保全する「地域ぐるみ」の自然保護です。
 今年のサケの放流は、2月16日、野川の大沢橋で、約3,000人が参加し、45,000尾を放流しました。
 サケの放流までには、サケの卵(発眼卵)と稚魚を育てる二つの方法があります。いずれも学校を拠点に各家庭にも持ち込み、地域あげての「放流運動」といえます。今年の参加学校数は53校。市町村は、国分寺、小金井、府中、三鷹、調布、狛江の野川流域に加え、中野や練馬、武蔵野が新たに参加し活動の輪が着実に広がっています。
 ここまでなるためには、多くの苦労がありました。活動の経過を振り返ってみます。
 61年には、通学する中学生にサケに関心をもってもらうために、サケの野外飼育したところ、すぐ反応があり、15人が一緒に世話したいという申し出があり、学習会を開き、飼育がはじまりました。この年調布の多摩川で放流しました。
 62年2月には、6校がサケの放流に参加しましたが、子供たちに「川をきれいにしよう」と説明しても、初めて多摩川に来た子供や川遊びをしたことのない子供にとって、多摩川は広すぎたようです。以後3ヵ月間、湧水源地や野川流域を目を皿のようにして歩き回り、サケの放流やはたるの発生が可能なところを探したのです。
 62年9月、野川流域にある小・中学校を訪ね、「サケの飼育をし、放流し、子供たちに川に関心をもってもらい、流域全体を清流化しよう」と説明しました。
 学校の反応は、当初は必ずしも良くはありませんでしたが、それでも国分寺、小金井、府中、三鷹、調布、狛江の23の学校や施設が参加することになりました。
 12月8日、サケの部(発服部)が到着。孵化から取り組む学校と稚魚から取り組む学校があるので仕分けをして配達。準備を確認したのに、まだ準備の出来てない学校もあり、1日がかりで準備。先生からの質問もありました。中学生は経験があるのでテキパキと準備に取り組みます。
 1月10日には、市民にも飼育、放流に参加を呼び掛け、市役所の庭で、稚魚と餌、育て方のパンフレットを配り、200人を超える人たちが集まりました。
 野川の清掃にも取り組みました。缶、瓶、自転車、バイクなど汗だくの一日で、やっと綺麗になりました。2月13日と14日とに分け、上流と下流で600人を超える人々が「期待と不安」の入り混じったなかで放流しました。


ほたる鑑賞の夕べを聞く

 恒例行事になった「はたる鑑賞の夕べ」が7月11日に行われ、4,700人も人が集まりました。
 ほたるは、野川を清流に取り戻す努力で、年々その数が増えており、「多くなった」と実感出来るようになりました。
 ここでも中学生の協力が欠かせません。水路周辺を整備し、飼育しているカワニナの生育状況を観察したり、川の校を切り、柵をつくるなど活動の協力者というよりも主役になっているといえます。
 このほかにも、野鳥保護の巣箱の設置、すずむしの飼育、稲の体験栽培など、子供とともに自然保護活動が続けられています。