「ふるさとづくり'94」掲載 |
<市町村の部>ふるさとづくり振興奨励賞 |
せせらぎ遊園のまちづくり |
滋賀県 甲良町 |
地域の概要 @ 位置 滋賀県甲良町は、琵琶湖の東部湖東平野にあり、滋賀県の中央部を占める犬上郡のほぼ中央に位置し鈴鹿山脈から琵琶湖に向かって開けた地域である。東は、多賀町、北は彦根市、西は豊郷町、南は愛知郡秦荘町に隣接した東西5.32q、南北5.15q、面積13.66kuの平地農村である。 東には鈴鹿山脈の山麓が西から東に高地や丘陵部が続き、東から西へ北境部を27.3qに及ぶ1級河川である犬上川がながれ、なだらかな傾斜を保ちながら平地が扇状地状に広がっている。町域の犬上川左岸扇状地は古くから「甲良の荘」として拓け、数多くの文化財を有する穀倉地帯である。 A 交通 交通は、東部に名神高遠道路が通過し、国道307号線が彦根を起点に本町を通過、大阪府枚方市までつづいている。町西部には東海道新幹線が通過し、国道8号、私鉄近江鉄道が通っている。 周辺市町村との連絡は、1主要地方道と4県道により結ばれている。 また、本町から名神高遠道路の彦根インターチェンジまでは車で15分、八日市インターチェンジまで約20分と中間点に位置し、県庁所在地の大津まで約55分、京都まで約65分、吹田まで約120分、小牧まで約65分で連絡できる。 いずれにしても、鉄道機関において大阪、京都、名古屋と1時間30分ぐらいで連絡できる位置にある。 B 人口 本町の人口は、合併時の昭和30年では9,043人であったが、30年代後半から始まる高度経済成長期において京阪神方面への流出が著しく、40年には8,945人と減少した。しかし、経済が安定成長に移行して都市部への人口流出が沈静化するとともに町内および近隣市町への工業立地が進んだことなどにより、人口は増加に転じたが、現在では微減している状況である。 C 土地利用の動向 本町の総面積は、1,366haで内訳は農用地784ha(57.4%)、宅地等158ha(11.6%)、山林原野206ha(15.1%)、その他218ha(15.9%)と農用地が60%近くを占めている。 平成4年度に策定した甲良町国土利用計画では、平成2年度に策定した甲良町農村活性化土地利用構想に位置付けられた工場用地や商業集積地等以外は集落周辺の農地の宅地化としての方向を定めたほか、基本的には農地を保全するといった土地利用の方向である。 D 産業 基幹産業は農業であるが、近年の兼業農家(第2種兼業農家)の増加や従事者の高齢化、後継者不足等多くの課題を抱え、他産業との所得格差は年々大きくなり、自立農家をめざす中核農家にとって苦しい状況である。 本町においても、社会構造の変化と共に第2次、第3次産業へと構造が移行するなか、農業は生業としての役割がもてなくなってきている。 せせらぎ遊園のまちづくり実施状況及び成果と課題 @ はじめに 甲良町のまちづくりは、『躍進するせせらぎ遊園のまち』のキャッチフレーズに集約されている。 滋賀県内、50市町村の中で自主財源が乏しく、財政的には赤字再建必至の危機状態が続き、現がち財政健全化に取り組んでいる。 昭和56年には地方債現在高比率637.1%に達し、財政危機を打開するため財政健全化計画を樹立し、一般公共事業の中断、抑制をするなど町民をあげた取り組みを展開して最悪の状態を回避することができた。 こういった状況は、『あきらめ』として町民意識に深く浸透し、「予算がないので何もできない」といった町政に対して『暗いイメージ』が漂っていた。 このように、財政的悪化状況は町民の町政に対する心理的マイナス要因を払拭することが先決で、『暗いイメージ』から『明るいイメージ』へ方向転換するため、平成2年6月には甲良町総合計画を策定し、「躍進するせせらぎ遊園のまち」を将来像に土地基盤整備事業等の進行に伴い、失われていく農村景観に対する憂いから、景観とは景色の変貌だけにとどまらず、昔から『甲良らしさ』として培っていた風土をも崩壊させているといった事の大事さを専門家等を交えながら町民ぐるみで学習することによってその具現化をめざそうとするものであった。 A 甲良と水 甲良町のある地域は、今も良質米の産地であるが、扇状地の砂礫土壌や犬上川の流域が小さいことに災いされて、干ばつになると水争いが絶えなかった。昭和7年の大水騒動が契機となって、貯水量450万トンの犬上ダム(コンクリートダム)と金屋頭首工が築造され、以来安定した用水供給のもとに発展してきた。ダムから金屋頭首工を経て供給される水は、先人の知恵と努力により、13の集落に分水され、居住地内を縦横に設けられた水路を通って水田に到達する方式となっている。 この集落を通る水は、飲み水、米とぎや野菜洗い、食器や洗濯、洗顔、風呂と日常の上水としての利用のほか、屋敷内の庭園を巡らせたり防火や融雪に利用されるなど、地域の生産と生活の全般を支える多重機能を果たしている。 多摩美術大学の渡部先生の水利用34ポイントチェックリストによれば、甲良水利用は25ポイントで、郡上八幡の27ポイントに続き、全国第2位となっている。 甲良は、このように水の恵みを大切にする伝統、卓抜した水の利用技術、水にかかわる伝統文化を地域の特徴として保持してきている町である。 B 『せせらぎ遊園のまちづくりの発端』 水と密着した生活や豊かな農村景観を保っていた本町は、農業生産基盤整備による農業経営の合理化への欲求が景観保全を押切る形で、昭和56年から圃場整備事業が展開されている。 さらに、58年には大区画圃場にあわせ、既存の樹枝状の開水路を地下パイプ水路にするという水利系統の大変革となる用水改良計画がまとめられた。 このころから、住民の間で、連綿と息づいてきた農村景観が様がわりし、そのことを憂う声が高まったことから、京都大学西口先生を委員長とする「犬上地区環境検討委員会」が設置され、集落内水路の水量低下や環境変化や実態把握と将来予測、さらにはその対策を講ずるための検討が行われた。 その結果、60年3月に「甲良町農村景観形成構想」(水と緑あふれる農村を守り育てるために)がまとめられ、やがて、その実現に向けて本格的に展開する住民参加のまちづくりの発端となった。 C 住民参加のまちづくりと地域づくり推進事業について 甲良のまちづくりは、「甲良町農村景観構想」の実現にかかっていたが、形骸化しつつある状況のなか、総合計画(平成2年6月策定)においては、『せせらぎ遊園構想』をうち出し、財政難で凍結状態にあった一般公共事業を払拭する形で「ふるさと創生」1億円交付を機に集落事業として@花いっぱい運動、B集落の顔づくり事業の一律100万円交付事業を行ったところ、待望久しく事業のなかった各集落から創意工夫、地域住民主導型による独創的事業が展開され、平成2年度には、町単独のハード景観補助事業の補完のもと、にわかに集落が、まちが活気づいてきた。 懸案であった、甲良町農村景観形成構想は農林水産省で創設された「農業水利施設高度利用事業」・「水環境整備事業」で平成元年度から地下パイプライン分水工を利用して『滝』・『湧水』等による観水公園を町内14カ所に、集落内水路7路線の景観整備事業を推進している。 また、地域づくり推進事業(平成2〜平成4)では、事業姿勢として次の点に留意しながら具体的には『せせらぎ遊園景観整備事業』として、圃場整備区域内の樹林を残し、虫たちの森として3ヵ所を保存、ふるさとの道路景観整備として6路線が完成した。
『むらづくり委員会』とは、自治会、農業組合、公民館など既設のタテ割り組織ではなく、老若男女を問わず、自治会を構成している人たちの中から幅広くむらづくり委員として結集し、町総合計画に基づく字将来計画やまちづくりを実践する団体である。 現在では、13集落にむらづくり委員会が組織され、地域づくり推進事業をはじめとするすべての事業は何等かの形で住民の参画のもと、計画が進められ、事業展開を図っている。 【せせらぎ遊園景観整備事業の体系】 ここ数年の甲良町の地域づくりの特徴は、まちづくり事業と並行して、町民の学習活動が行われたことがあげられる。 平成元年度から、現水環境整備技術検討委員会(東京農工大学 千賀裕太郎委員長)の4人の大学の先生を講師に迎え、集落公民館で講座や学習会を開設。同3年度には村づくり委員会等から希望者を募り、「せせらぎ夢現塾」を開設するなど、このような学習の積み重ねが各事業のまちづくりの原動力となっている。 これらの学習活動は、各集落のむらづくりに対する気運の高まりをみせるだけではなく、甲良のまちづくりにかかわって、グランドデザイナーといわれる専門家知識人の全国的ネットワークが進み、国際的かつ全国的な情報を得られるなどよい方向に向かっている。 D成果と課題 再度、ここ数年の甲良町のまちづくりの成果と課題を整理すると次のようなことがあげられる。 成果としては、「公共事業への住民参加」「住民が主体のまちづくり」であり、はからずも住民が邁進している状況になりつつあるまでの学習プロセスと学習受け皿(各集落むらづくり委員会の結成)の整備が進んだことである。 さらには、この中で甲良町における水環境とは、単に水路整備や景観事業と一側面的にとらえるだけでなく、先人の知恵や努力が刻み込まれた『甲良らしさ』そのものであり、今後のまちづくりにおいて最も大事に守っていかなければならないことを確認することができ、そのことを町の基本構想に的確に位置づけたことである。 こういった中、地域づくり推進事業や水環境整備事業は、住民・行政・専門家のスクラムによる住民主体のねばり強いまちづくりの構築過程に、手段としておおいに貢献したといえる。 また、地域づくり推進事業で整備した『虫たちの森』、『景観道路』などの観水施設は、住民自らの憩いの場として活用されている。 課題としては、ここ数年のまちづくりの足跡を住民みんなで正しく見つめ直し、さらに発展させるため、学習を通して常に初志を再確認することが重要であることを基本認識することで、次のことが重要である。 (1)町づくり=生涯学習システムの再構築 (2)地域農業・経済システムの再構築 (3)自然生態系システムの再構築 (4)都市的価値観から故郷志向への転換 (5)地域生活空間・社会システムの構築 今後のせせらぎ遊園のまちづくりの理念・テーマ等について せせらぎ遊園のまちづくりは、水環境整備事業、地域づくり推進事業等を手だてとして構築しつつある『まちづくり集団(住民・行政・専門家)』の三位一体の重要性を認識し、学習プロセスと学習主体(むらづくり委員会)の更なる拡充をめざし、『ひとづくり』を基本に従前の取り組みの評価と中間総括を行ったうえで、粘り強く取り組むものである。 |