「ふるさとづくり'95」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

人が輝き、地域が光る村づくり
兵庫県安富町 安富町「末広区」
 かつて、集落こそがムラ社会の根幹をなしていた。80戸、約340人の末広区(代表・小林敏昭さん)は、そんな歴史をほうふつさせる歴代区長日誌が大正時代から現代まで綴られている。この先人の足跡を集めた『郷土誌すえひろ』を編集・出版したところ、郷土を離れた人々からも求めが殺到。それらが契機となって新しいふるさとづくりの基幹となる共同墓地整備10カ年計画「やすらぎの里」が策定されるなど、新時代の村づくりが動き出した。


郷土誌すえひろの編集・発行

 戦後、区は新農村総合整備モデル事業をけじめ、圃場基盤整備、公民館建設、入会林野整備、区行財政改革、生活環境基盤の改良など、多くの事業を実施してきた。そしていま、村では、ハードからソフトヘと活動を転進し、新しいふるさとづくり実行委員会(委員長は区長)を組織、住民生活部や福祉部、保健体育部、教養部、学習部の5部を中心に活動を展開している。こうした中で『郷土誌すえひろ』の編集が始まったのである。
 村の歴史を知り、先人の汗と涙の足跡を理解することが“ふるさとづくりの根幹”という声が多く、郷土誌の編集が提案されたのである。歴代区長日誌や古文書を整理し、資料や写真の提供を求めたり聞き取り調査も行い、全住民の顔写真と名前が1度は登場するようにするなどの配慮もして、集落の全容を集大成した208頁の立派な郷土誌が出来上がった。
 この『郷土誌すえひろ』の配本を始めたところ、地区を離れて遠く住む人々からも注文が殺到した。しかも、懐かしいふるさとを子や孫に伝えたいという人々の思いが、郷土誌を縁に交流を復活させたのである。これが「やすらぎの里」づくりへと発展して行った。


郷土墓地整備10カ年計画を策定

 新しいふるさとづくり活動では、その一つに共同墓地整備10年計画が盛られている。これは、単に墓地の改修が目的ではない。末広で生まれながら都会に転居した人々で、この地を“来世”の「やすらぎの里」にしたい、と願っている人々がいたからである。だが、それに応えるには大変な決断を必要とした。しかし、閉鎖的なムラ社会の意識を改革するためには、その願いを受け入れることが必要、と考えた上の決断だった。いま、この大事業に挑戦して、先頭に立つ正副委員長はともに40代の前半である。かつてのムラで序列や家柄、前例主義が重きをなしていた時代には若造と呼ばれていた世代だった。“集落に新しい風”が吹き抜けるのを、住民は肌で感じている。