「ふるさとづくり'96」掲載 |
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞 |
谷戸を生かした公園づくり |
神奈川県鎌倉市 山崎の谷戸を愛する会 |
山崎の谷戸は、鎌倉市のはぼ中央部に広がる水と緑の豊かな地域で、雑木林の傾斜林、そこからしみ出てくる小川、その涌き水を利用した水田、日当たりのよい斜面の段々畑、溜池、湿地、体耕田などが織りなす谷戸景観は、日本のふるさとの原風景でもある。 旧鎌倉地域は古都保存法で守られているが、その周辺の市街地は宅地開発の波にさらわれて、鎌倉時代以来の谷戸の原型を保つ場所は、今や山崎の谷戸くらいになってしまった。そういう意味でも貴重な歴史的遺産であるが、同時にここにはまとまった生態系が残っていて、市内では一級の自然度の高さを誇る場所でもある。 身近で親しめる自然があるために私たちはここを根拠地に、幼児の青空保育の会を10年続けて来た。その山崎の谷戸の西側24ヘクタールが「鎌倉中央公園」になることを知ったので“谷戸の魅力を最大限に生かした公園づくりがしたい”と考え、1990年9月に「山崎の谷戸を愛する会」を結成し活動を始めた。私たちが目指すのは次の3点である。 1、谷戸の自然生態系を保護し、自然観察、自然教育の場として生かす。 2、市民の手で、田畑の耕作や雑木林の手入れを続け、農文化、里山文化の伝習、体験の場とする。 3、市民も、計画の段階から管理、運営にいたるまで公園づくりに参加する。 谷戸での活動 1.自然観察会 初めて谷戸を訪れる人を案内しながら、当会の活動や生物への接し方を理解してもらう。案内する方も素人なので、参加者とともに四季の移り変りを新鮮に発見しようとする。 2.子ども自然探検隊 谷戸の自然の中でのびのびと自由に遊ぶことで、自然の大切さを体感し、動植物との触れ合い方、数少なくなった生物を大事にすること、農作業中の田や畑を踏み荒らさないことなどを学ぶ。谷戸を生かした公園を市民の手で維持していくために必要な、次の世代の育成でもある。 1年間に隔月でほぼ6〜7回、20〜30人の決まった小学生隊員が、終日谷戸で過ごす。山に入って道なき道をきわめたり、川に入って水性生物を見つけたり、沼にはまって泥投げを楽しんだり、木登りをしたり、つるでブランコをしたり、急な崖滑りのスリルを味わったり、少し寒くなると、たきぎを集めて火を起こし、葉を摘んでみそ汁を作ったり焼き芋をしたりする。幼児期から谷戸に慣れ親しんできた子どもたちが、初めて谷戸に来た子どもたちを先導する。 3.たんぼ修行 涌き水が豊富な谷戸は、吉くから水田稲作が行われて来たが、現在は休耕田の方が多い。谷戸本来の景観を復活させ、トンボを始め小動物の生息を可能にするたんぼで、市民自らが米作りの体験をし続けたい。 会発足当初に、谷戸内の1軒の地主さんの協力で稲刈りに参加、里年には2軒の地主さんの快諾を得て稲刈りをさせてもらった。 ’92からはそのうちの1軒のたんぼで、年間を通して稲刈り仕事すべてにかかわらせてもらえることになった。それ以来毎年たんぼ班5〜15人が苗床づくり、田うち、くろつけ、しろかき、田植え、田の草取り、稲刈り、稲干し、脱穀までを地主さんに教えてもらいながら、将来市民が維持管理していくたんぼ目指して修行している。 4.はたけ仕事 谷戸の畑は、昔から丘陵地の斜面の段々畑である。日当たりがよく、周囲の雑木林の落ち葉による自然堆肥は欠かすことなく、自然の有機農法が可能であった。谷戸の特徴を生かした有機農法を復活、再生させ、また谷戸景観を維持するためにできるだけ広い畑が欲しい。2年目から約1年間、孫借りのような形で小ざい畑つくりをさせてもらったが、現在は谷戸内での耕地の貸借関係はむずかしくなり、別の場所3ヵ所で共同での畑作りをやっている。 5.雑木林班 谷戸内の樹木は、植林による人工林、自然植生の常緑広葉樹の部分もあるが、大半は落葉広葉樹である。そのため古くから里山として機能し、人がほどよく手を加えることで成り立っていた。現在ほとんど放置され、荒れてしまった雑木林を生き生きと復活させるために、下草刈り、枝払い、間伐そして最後に炭焼きを行うことで資源のリサイクル、自然の循環を完結させることができ、里山体験は人々の自然との触れ合い願望を満たすことができる。 谷戸内では自由に活動できる場所がないため、草刈り、掃除、道の補修、枝払いを時々やる程度である。炭焼き体験は別の場所で、92年から指導者に炭窯づくり、炭材づくりに始まる一連の作業を習い、現在は参加者も増えて農閑期の主要な活動となっている。 6.谷戸工芸 谷戸の自然を生かして日常生活に応用することで、古来から知恵を学ぶとともに、自然の恵み、奥深さに触れることができる。(1)自然を味わうために、どこにでも生えているヨモギ、セリなどを摘み、ドングリを拾い、そのまま食べたり、火を起こして料理したりする。(2)取っても量的に問題のないクズ、ノイバラ、カナムグラなどで草木染め、紙漉きをする。(3)米づくりで残ったワラは、次の年の稲作過程にも重要な役目を果たすが、それ以外にも幅広く便える。ワラ草履、正月飾りづくり、また紙にもなる。(4)つるで籠編み、リースや短冊づくり、竹で食器、楽器、玩具づくり、葦で炭俵づくりもできる。 対行政活動 1.担当課との話し合いの場づくり 会発足と同時に提出した陳情書は、今後も話し合いを続け、公園課が「鎌倉中央公園基本計画修正案」を出すということで取り下げた。その後は公園工事計画が進むごとに要望書を提出し、話し合う機会を多くつくるよう心がけている。 2.行政の企画や、催しものへの積極的な参加 (1)都市政策課主催の「まちづくりシンポジウム」市民4団体出場申し込みに応募、93年11月に初めて中央公民館ホールの舞台にて、当会の活動を発表する。翌年には「鎌倉で炭を焼く会」の名前で再び出場した。これがきっかけで駅地下道ギャラリーにパネル展示することもできた。 (2)教育委員会が毎月第2土曜の学校休みに配布する「サタデープランの催し物一覧」に当会の自然親察会が掲載され、山崎の谷戸を訪れる親子がふえた。また社会教育課企画の「生涯学習指導員」に炭焼き指導者3人が登録し、セミナーなどが開催された。その他、「秋まつり」「ホタル観察会」など当会の催しものには、教育委員会からの後援がもらえる。 (3)みどり推進課は「神奈川県みどりの団体」の窓口で、92年からこれに登録している。 (4)環境総務課、環境整備課は、下水道施設の遅れから生ずる河川の汚れに対応して、95年3月から炭による浄化作戦を展開し、このための炭の供給を当会が任されることになった。 (5)産業課は農業振興の一環として、市民農園を昨年から開始しているが、鎌倉中央公園内の農林作業体験づくりやたんぼ復活には協力が欠かせないので、情報交換を常に行っている。 (6)環境政策担当課は、環境自治鎌倉の新市政(93年11月〜)と同時にできた課で、ここが主催で95年6月に「環境フェスティバル」が開催され、市民団体展示コーナーに当会が出展依頼された。 (7)各種委員会等の市民委員に募集、「みどりの基本計画策定委員会」に1人が選ばれる。また環境審議会等の傍聴にもなるべく多くの会員が参加するようにしている。 3.市民版検討会の開惟と複数の課との学習会 鎌倉中央公園が市民によって管理運営されるためには、早い段階から行政と市民が同じテーブルで検討を重ねる必要があることを、当会では繰り返し主張しているが、行政側からの働きかけはないので、93年2月より当会の呼びかけで市民版討論会を開催している。その中で前記の各課に順番に講師となってもらう学習会を企画し、行政を理解しょうという態度を表した。 広報活動 1.機関紙「谷戸だより」の隔月発行。 2.全労済の環境活動助成金により、小冊子「かまくら山崎の谷戸」1万部を刊行(94年7月)。 3.「谷戸展」を独自に開催し(94年5月)、1週問の入場者は1、000人を越えた。 4.マスコミ関係の取材と報道 新聞各紙、NHKテレビ、鎌倉ケーブルテレビ、鎌倉FM他、雑誌、研究誌、単行本等で紹介ざれ、自然保護団体、ボランティアグループからの原稿依頼も多い。 5.他団体との交流と他市の公園見学 他団体との機関紙の交換、シンポジウム等への参加、パネリストとしての出場なども欠かせない。また、自然にやさしい工夫をうたい文句にしている他の公園を数多く見ることも大切である。 6.新企画「谷戸学校準備講座」開惟とビデオ製作 (1)当会がめざす公園づくりのためには、人材養成、後継者育成が是非とも必要となるので、「谷戸学校」開設が早急に求められる。当初からこれを行政に要求しているが全く動かないので、こちらから開いて、教育委員会に後援をもらっている。 (2)谷戸学校には、座学と実践活動があり、座学は今までの総会記念講演を含めて既に5回、講師を呼んで行っている。これはまとまったところで本として刊行する予定である。 (3)実践活動に人る前の初心者向け、あるいは当会の活動紹介のためのビデオを製作し「たんぼ」「雑木林」「谷戸と子ども」「自然観察」「山崎の民俗」等のシリーズ別に編集する予定である。 成果と今後の展望 幼児の青空保育から出発した当会もこの5年間で会員数400人となり、その構成員も多岐にわたっている。老昔男女人り交じり、谷戸での様々な作業を通しての世代を越えたつきあいは、新たな出会いと発見の魅力に満ちている。体を動かしながら自然保護に参加できる充実感が、活動の推進力になっている。この厚い市民層が「谷戸を生かした公園づくり」の母体となることを願い、また他の地域での「みどり保全」のモデルとなることを予感している。 |