「ふるさとづくり'96」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

暮らし支えた豊かな心を掘り起こし
岩手県久慈市 山根六郷研究会
 キビなどの雑穀を作り、藍染めの麻を織り、収穫を神に感謝する−−山里の四季折々の心豊かな山里の暮らしを、16ミリカメラで記録する活動を通じ、老人会など住民との交流を始めているのは山根六郷研究会(代表・黒沼忠雄さん、メンバー6人)だ。この交流は、山里の住民に生活文化の伝承の大切さを知らせただけでなく、復元された水車を活用しての「水車まつり」「水車(くるま)市」の開権など地域が活牲化を図る大きな原動力になった。


山根六郷の暮らし、わざ、人の心に魅せられて

 青年会議所時代の活動がきっかけになり、黒沼会長たちが久慈市の深田、端神など6つの集落−−山根六郷を訪れるようになったのは、そこに先人の暮らしの知恵や技が確実に生活の中に生かされているのに、強い関心を持ったためである。
 その中で昭和58年、麻布を織る手技の伝承者との出会いが会の発足のきっかけになった。この地では幻となりつつあるこの文化を映像に残そうと、麻の種の採取から機織り、雪ざらしまでを、撮影はまるきり素人とという会員が約3年にわたり取り組んだ。この経験は次に、会員に食文化に目を向けさせ「山襞(やまひだ)の暮らし」の製作になった。そして、3部作の最後として神と共に暮らす生活をまとめた「ふるさとの源流」が完成する。


水車の里は地域のシンボル、交流の場

 こうした山根六郷研究会の撮影、また上映会は、地元の住民に閉ざされた心を開かせる大きな力になった。1作目ができてすぐ、山根六郷のひとつ、端神でそれまですたれていた精米用の水バッタを復元させた。また、老人クラブは廃校を利用し、生活民具の展示場にして、公開した。機運の盛り上がりは、研究会と行政の協力で水車の復元につながる。
 ここは「水車の里」となり、水車をシンボルに新たな地域絆を生み出すと同時に、町場との交流の場ともなった。平成元年からは「水車まつり」「水車市」が開かれ、豆腐づくりなど生活技術の公開も兼ねての、キビなどの農産品、農産加工品が販売されている。今では、月1回の開催日には、市外からもうわさを聞きつけて人が集まるようになった。
 伝統行事に新たな創造を加え「神楽まつり」を開催するなど、新しい方面の活動も活発になってきた。こうした中で、過疎や開発ということにこだわるのではなく、じっくり自分たちの暮らしを作っていく大切さを、山根六郷研究会は住民に気付かせた。更なる伝承保全を願って今後も研究会は山根六郷にこだわっていくことにしているという。