「ふるさとづくり'97」掲載
<個人の部>ふるさとづくり振興奨励賞

農産加工施設「大杉茶屋」ができるまで
石川県山中町 辻 栄子
 山中温泉から大聖寺川を2キロ溯った過疎の集落で、辻さんは豊かな自然には魅力があり可能性を秘めていることを思い、昭和61年身近な農産物を加工し、町起こしをしようと「あした葉の会・メンバー8人」を誕生させた。以来メンバーは知恵と労力、野菜や山菜、米や調味料を出し合い、惣菜づくりや味噌の製造、弁当の仕出しに取り組んだ。こうした活動が功を奏し、自然薯加工の特産品開発、5年前に山村振興策による農産加工施設が完成した。


夢やロマンを育てる活動

 メンバーの活躍は、温泉街の祭りやほうずき市で、集落に伝わるダンゴの即売、焼き鳥コーナーを設け、採算度外視の対応に喜ばれ、気分を良くしたエプロン姿の女性たちで始まった。青年会議所北信越大会では400人の野外パーティーを引き受け、地場産の竹の子、椎茸、ぜんまい、うど、ふき、茗荷や水ぶき、木の芽などを材料に、手打ちそば、ダンゴ、柿の葉ずし、山菜味噌汁、山菜オードブルなどの料理を披露した。
 こうした中で、山中町農協が特産の自然薯加工を考えていて、辻さんたちにはまさに夜明けを告げる鐘の音だった。それからは、自然薯の漬物、菓子の試作品づくりに作業は変わり、農産物生産と加工事業の連動を農協も共に考え助成へと、新しい道が開かれていった。


神社に聳える樹齢2千年の大杉の下で

 これまで辻さんは、大きなイベントにも飛びつき活動することの喜びを取り柄に「赤字でもいい」とひたすら前進だけを考えてきた。ところが平成2年11月第3期山村振興による農産加工施設「大杉茶屋」(直売所併設)が村の神社の前に建設された。儲からないと定評ある農産加工で採算の取れる商品作りは恐怖でもあった。しかし、神社にまつわるダンゴをメイン商品に、特産の自然薯そば、梅干し、味噌などで開店に備えたところ、2時間程で売り切れてしまった。後はお詫びの連続で頭を下げながら、明日の仕込みをする日が2週間も続いた。疲労困憊の仲間は愚痴も言わずに主婦業との板ばさみになって努力した。
 辻さんは、何時の日か山中町の観光・漆器産業に次ぐ基幹産業に上げられる日を夢見ている。そして、この産業にとって地域で働きながら子育てができること、つぎに余剰農産物を市場より少しでも高く買い取り加工をする、最後は高齢者の生きがいづくりの場にしたいと思っている。