「ふるさとづくり'99」掲載 |
<市町村の部>ふるさとづくり大賞 内閣総理大臣賞 |
都市と農村の新しい交流をめざして |
長野県 四賀村 |
四賀村は、長野県の中央に位置し、北アルプスの雄大なパノラマを展望することができる緑豊かで静かな山里です。 江戸時代には善光寺街道・江戸街道の宿場として栄え、人びとの往来も盛んでしたが、過疎化が進み1万人弱あった人口も平成10年4月1日現在、6447人となっています。 松本市に隣接し、交通の便も車社会のいまそれほど悪くもないのですが、取り立てて目立った観光資源もないといった、どちらかというと中途半端な環境にありました。 都市住民に市民農園を提供 そんな中唯一残されたのが、手つかずの自然環境でした。総面積90.25平方キロメートルの本村は、その約85%が山林や原野などで覆われており、緑がとても豊富です。そして、以前は養蚕が盛んであったため、柔畑が多く散在しているのですが、養蚕が不振となってからは、荒廃した遊休桑園が増加してきていました。 そこで、この恵まれた自然を活かして何とか村を活気づけることはできないだろうかと思案していました。 当時、全国の養鶏経営者会議の会長職にあった中島学(現村長)氏が、ヨーロッパを歴訪したおり、ドイツ、オランダの歴史ある市民農園(クラインガルテン)に感銘を受け、ぜひ日本でも実現させたいと考えました。 村では、農家の高齢化と遊休荒廃農地の増大という状況の中で、新しい農業の切り口として都市住民に市民農園として提供し、村民と交流し合うことによって、村に新しい農村文化を起こそうという構想を描きました。 そして、ドイツのクラインガルテンの精神やスタイルを学び日本でクラインガルテンの実現を提唱するグループ「日本クラインガルテン協会」の創設に参加し、本格的に事業推進に向けて動き出しました。 第1回市民農園フォーラムの開催 村では、自然を大切にする農のあり方に関心が高まり、昭和60年に有機野菜の栽培事業が始まり、有機無農薬農業の実践団体「アルプス自然農法研究会」が発足しました。 生産された有機野菜は、東京・大阪に本拠をおく「日本リサイクル運動市民の会」の有機野菜・自然食品の宅配事業「らでぃっしゅぼーや」を通じて都市住民に提供され、消費者の都市住民が生産地四賀村を訪れて、有機野菜や自然食品が生産されていく過程を見学・体験する交流会が開催されました。 このような交流を通じて、都市住民から「自分自身で有機野菜をつくって味わってみたい」「週末には四賀村のようなのどかな田園農村で生活したい」「四賀村民ともっとお付き合いがしたい」という強い希望が出され、こうした人びとの市民農園利用ニーズを実感することができ、四賀村のクラインガルテン事業に弾みをつけました。 クラインガルテン事業は遊休農地を市民農園として活用するため、平成2年の市民農園整備促進法の施行を待って急速に動き出しました。 平成3年、四賀村には村民有志による「信州クラインガルテン研究会」がつくられ、本村ならではのクラインガルテンのあり方を考える動きが盛んになっていきました。 平成5年、クラインガルテンのモデル区画を3区画整備し、都市住民に実際に1年間のモニター利用をしていただき、日本ならでは、四賀村ならではのクラインガルテンのあり方が練られました。 1世帯が手入れをしながら利用できる菜園の広さ、各区画を庭としても楽しめるような花壇や芝生、各区画ごとの休憩小屋ラウベには、シャワーや、寝室としても使えるロフトを、といった要望に応えるような計画に形づくられていき、農林水産省とも試行錯誤が繰り返されました。 また、第1回「市民農園フォーラム」が村民会館で開催され、グリーンツーリズムに関するディスカッションが行なわれました。 緑や農を守りながら生活文化を共有 本村には、有機無農葉農業のノウハウ、善光寺街道の宿場町だった歴史、そして人情のある人びとの、家族や地域社会を大切にするのどかな農村文化があります。これからの村づくりとして、四賀村を『エコビレッジ』と称したいと考え、本村ならではの市民農園「坊主山クラインガルテン」を誕生させました。 会員制の「ぼうずやまクラインガルテン倶楽部」は、四賀村に親しみ、四賀村ならではの市民農園を楽しむ、日本で初めてのクラインガルテン・クラブとなりました。貴重な緑や農を守りながら自然と親しむ市民農園の精神や生活文化などの多くをドイツのクラインガルテンに学び、野菜づくりや花づくりの方法を支援する農家、市民農園に土地を貸与提供する経営者会議の皆さん、地元住民も含めて、自然と親しみ自然を大切にする農を愛する生活文化を共有しようとする都市の人びととの新しい交流が広がっていきました。 会員に賃与される各区画では、有機無農薬で野菜づくりや花づくりができ、またバーベキューをしたりガーデンファニチャーを置いてくつろぐことができ、美しい庭を楽しむことができます。 各区画にあるラウベでは自家栽培の新鮮な野菜を使って料理を作ったり、のんびりした時間を過ごすことができます。 会員以外の一般の人びとも利用できる交流拠点である「クラブハウス(交流学習室)」では、コンサートや季節の食事会など様々な交流の企画が実施されています。 「坊主山クラインガルテン倶楽部」は、村の様々な人びとの協力によって運営されています。村内有志の集まりである「信州クラインガルテン研究会」や有機無農薬の実践団体「アルプス自然農法研究会」の他、様々なブレーンが事業運営をサポートしています。 申し込みが殺到した坊主山クラインガルテン また、第3セクターの「四賀むらづくり株式会社」が園内の管理運営を担当し、当社のシルバーセンターが清掃などを行なっています。倶楽部会員には四賀村の農家「田舎の親戚」が個別の支援者となって、有機無農薬での野菜づくりの方法や、四賀村の楽しみ方をアドバイスしています。 この坊主山クラインガルテンの利用者となるには、(1)最低月間3泊4日は滞在でき、草とりや水やり等の手入れができること。(2)菜園での野菜づくりは、原則として有機無農薬栽培で行なうこと。(3)四賀村民と交流する意志があること。(4)食材の安全性や環境問題に関心があり、健全な意見を持っていること。(5)より良い余暇の利用や健康増進に関心があり、積極的に取り組んでいること。(6)区画の申し込みは連名ででき、友人、親戚、職場や趣味の伸間などで交代で利用することが可能ですが、代表者が管理責任を持つこと、といった条件が課せられています。 また、申し込み希望者は、必ず事前に現地見学会へ参加し、倶楽部事務局から説明を受けることを条件とし、書類選考(調査書の確認)と面接、選考会と抽選会が行なわれます。 区画利用料は、年間利用料25万円以内、ぼうずやまクラインガルテン倶楽部会費10万円の合わせて35万円以内(最長5年の継続利用可能。契約者の相互の申し入れなき場合は、最長5年まで自動的に契約を継続する。)となっています。 平成6年4月に第1期21区画がオープン。想像以上の反響を呼び、都市住民からの申し込みは殺到し、見学会参加者350組・応募61組で、約3倍の申し込み倍率となりました。 季刊会報紙「信州四賀村クラインガルテン倶楽部」も発刊され、村の催事情報や季節の話題、倶楽部の交流プログラム情報、会員のメッセージなどを掲載。全国の「ぼうずやまクラインガルテン倶楽部」支援者にも送付されています。 また、第2回「市民農園フォーラム」も開催され、村民や利用者の参加のもと盛大に行なわれました。 平成7年には、第2期4区画が利用開始となり、6区画の募集を行なったところ、応募59組で約10倍近い申し込み倍率となりました。 平成8年には、第3期19区画が利用開始となり、21区画の募集を行なったところ、応募86組と人気は衰えず4倍以上の申し込み倍率となりました。 平成9年には、第4期最終期の8区画が利用開始となり、9区画の募集を行なったところ、応募39組で4倍以上とこれも高倍率となりました。 計53区画(一般利用可のゲストラウベ1区画含)の利用者の状況ですが、平成10年4月現在、県内在住者は17組で、松本市9・長野市3・上田市1・明科町2・豊科町2となっています。また、県外在住者は35組で、東京都11・神奈川県7・愛知県5・大阪府3・茨城県1・千葉県2・京都府1・埼玉県1・静岡県1・新潟県1・高知県1・沖縄県1となっています。 年間を通しての交流事業は活発で、4月 有機栽培講習会(4回)・5月 山菜採りツアーとそば会 6月 クラインガルテンの日・7月 夕涼み会、有機栽培講習会(4回)・8月 村夏まつりへの参加・9月 クラインガルテンの日・10月 収穫祭「DAIKON─RUN]・11月 野沢菜潰け講習会・12月 有機土づくり講習会(4回)といったように、毎月1回は必ず交流の機会があり活発に活動が行なわれています。 四賀村では、わが村独自の財産である『豊かな自然』『やさしい親切な村民』『食の安全性に関する蓄積技術』『住の快適性』を活かした交流機会の誕生により、田舎イメージの転換と、これからの新しい農村社会の構築に向けての、新たな夢がふくらんできています。 |