「まち むら」104号掲載
ル ポ

NPOと集落との連携による新たな「クニ」づくり
新潟県上越市 NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部
 上越市「桑取谷」は、人を引き付ける地である。ここはNHK大河ドラマ「天地人」に登場する上杉方の重要な米の生産・輸送、防御の地であった。
 春日山城の裏に位置し、里海、里山を一本の桑取川がつなぎ、その川筋に17の集落の住民1000人が、全国から集まった9人の若者と山里のNPOを始めて10年。様々な地域資源を生かし、もがきながら切り開いた道に内発的自治が芽生え、今、新たな集落集合体の形として、「クニ」と呼ぶすがたが見えてきた。その活動の一部を紹介したい。
 この地は海からの入り口は狭く、川を登ると川はいく筋にも広がり、15キロほどで森林に入り、その奥が2000メートル級の山岳にぶつかる。森林、水資源、棚田、温泉、現在も雪国民俗文化を色濃く残す伝統技術や伝統行事、伝統芸能が残っている。


かみえちごと地域の結びつき

 このNPOが出来るきっかけとなったのは、「NPO法人木と遊ぶ研究所」という、新潟県第1号のNPOである。杉林の下草刈りや枝打ち等、桑取地区の演習林でも森林ボランティアとして活動していた。そこで、森林の荒廃はただ森林に関わっただけでは防げない。周りの人々の暮らしや自然、景観、文化が深く関わっていることを痛感した。
 一方、当時桑取地区には「明日の桑取を考える会」等の地域づくり集団が従来型の「お願い行政」に頼らず、住民アンケートをもとに地域課題を洗い出し、河川清掃、地域マップ作り、地域伝承行事の復活等、地域に根を下ろした活動を活発に展開していた。
 この森林と間伐材を活かした木工産業が起点となって、外からのNPOと内なる桑取地域の相互の距離が縮まり、さらに、地域実施の桑取川清掃にNPOが参加させてもらった小さな協働をきっかけに、両者のつながりが生まれた。
 かみえちごは、平成14年に法人化し、その活動地域は、桑取、谷浜、中ノ俣、正善寺地区で、里山、里海の地域振興、環境保全、文化芸能の継承、育成を目的に「守る、深める、創造する」の基本理念を掲げ取り組んでいる。
 若いスタッフ8名を除いて、個人会員300名(70%は外の人)と理事の大部分は地域住民である。


多彩な活動を展開

(1)地域活動の支援
 住民が中心になって行なう民俗行事、伝統芸能の保存・育成等、様々な地域活動の活性化を支援している。市指定西横山地区の無形重要文化財「小正月行事」、中ノ俣地区の「牛の田掻き」「大持引」、小池地区の「虫追い川舟」があげられる。
(2)受託事業
@上越市くわどり市民の森
 桑取谷の一番奥にある水源の森「上越市くわどり市民の森」270ヘクタールのフィールドと施設の運営管理を行なっている。四季折々変化する自然の中で樹木、草花、昆虫等、様々な生物の観察、里山保全の下草刈りや間伐等の林業体験や炭出し体験ができる。このような森の中の遊びや活動を通して自然との結びつきや関わり方を学んでいる。また森のオーナー制度も実施し年間6000人の人が訪れている。
A上越市地球環境学校
 上越市の環境教育の拠点であり、全国への発信の中心となる環境学習施設「上越市地球環境学校」の運営管理を行なっている。拠点施設は、旧中ノ俣小中学校である。中ノ俣地区の里山をフィールドに地元の人を先生に、自然との共生のヒントを与えてくれる貴重な体験ができるほか、中ノ俣での体験と自分の身の回りの生活とを対比し、地球規模の環境問題まで発展させて考えることができるように、カリキュラムを工夫している。年間5000人を超える小中学生が学んでいる。
B地域資源事業・調査
 地域活動支援で培った経験を活かして地域資源の掘り起こしと活用を目指し、様々な体験事業や販売等の事業である。
 さらに地域の伝統芸能、自然、生活技術を調査して記録に残し、活性化へのきっかけづくりとしている。例えば、こども対象のユニークな体験事業(夏のふるさと体験、冬のさんぞくライフ)、藁細工、かんじき作り、棚田学校、菜園学校、絵はがき販売、四季のまかない塾、伝統技術手順書作成等多様である。放っておけば消滅する生活技術も多い。どの一つをとっても大きな事業である。
 これらの活動は、単に体験すればいいという内容ではない。この地の資源と今滅びようとする地域の生活技術を学び、身につけて、自分を“まかない”、人を“まかなう”共に生き抜く力を身につける活動である。“四季のまかない塾”の実践を見ると、現在各地で行なれているグリーンツーリズムを乗り越えた新たな次元の活動といって過言でない。
Cこどもと活動、地域教育事業
 若いNPOのスタッフは、自分たちは地域の一員であるという自覚から、地域のこどもを育む活動を学校と連携し、月3回放課後活動として、「遊びの達人教室」を実施している。学校近辺の生きもの探しや桑取川に遡上するサケを観察しながら粘土による型作り。手作りカルタを使ったカルタ大会等、地域の兄さん姉さんの役割を果たし子どもたちに喜ばれている。
Dインターン生の受け入れ
 全国各地の大学、専門学校からインターン生が集まってきている。こども向けの体験事業のお手伝い、地域の盆おどりに参加し住民との交流、農林作業の実践等これまで40人の学生が参加し、年々希望者が増えているという。


「クニ」の萌芽

 かみえちご専務理事の関原さんは言う。従来の自治会は、横のつながりが希薄になりやすい。NPOという組織が谷全体にかぶさる緩やかな傘のような役目を果たすことにより、集落のことは自治会で、中山間地全域はNPOでという二重構造を作り出し、初めて谷全体に関わる討議機能が生まれた。加えてNPOが地域に関わることによる効果として外の目による“地域資源の再評価”があるという。
 今、われわれは桑取谷を「クニ」と呼ぶ。この表す意味は、水の大循環、自分たちをまかなえる食物、海・川・山の多様な資源、エネルギー、人間、文化、少量多品目の付加価値ある産物、「外に開かれながら内の生存自給と命の保持ができる場」こそ、ミクロな「クニ」であり、この「クニ」づくりに今燃えている。
 今後の課題としては、受託事業が多いことから、安定した財政運営と力量ある人材を安定して維持できる運営だという。
 新しい「クニ」づくりをめざすNPOかみえちごに大きなエールを送りたい。