「まち むら」104号掲載 |
ル ポ |
地域の文化・歴史・自然を愛し、子どもたちに伝えていこう |
岡山県岡山市 御南学区ボランティア |
「子どもたちには、いろんなことを知って大きくなってもらいたい」「家庭で親が教えてやれないことを地域のお年寄りたちが教えてあげられたら」――そんな思いから始まった「ベターライフ御南(みなん)親子土曜塾」。隔週土曜日には、旧白石幼稚園の園舎から、楽しそうな子どもたちの歓声が響いている。また、小学生に伝統的な農業を伝えていこうというボランティア活動「御南田んぼの学校」を開校。地域の農家が中心となって、苗作りから稲刈りまで、さらには田の畦(あぜ)で栽培した大豆を使った豆腐作りまで、子どもと一緒に取り組んでいる。 伝統行事や自然に親しむ「親子土曜塾」 御南学区は岡山市西部の田園地帯にある。2002(平成14)年、岡山市立白石幼稚園が、幼保一体化政策により廃園となったのをきっかけに、御南学区連合町内会が岡山市教委から園舎を借り受けた。そして、この施設を拠点として活動する「ベターライフ御南」という会を発足し、隔週の土曜日に「親子土曜塾」を開催。季節ごとの伝統行事や自然に親しむ遊び、創作活動、食育イベントなどを行なっている。参加者は幼児、児童とその親から高齢者まで三世代にわたり、核家族化が進む家庭に代わる世代間交流の場として、地域の子育てに一役買っている。 例えば2月の第1土曜(旧暦の1月)に、七草をみんなで探して七草粥作り。4月の第1土曜(旧暦の3月)には、土手に生えているヨモギの新芽を摘んで草餅作り。6月の第1土曜(旧暦の5月)に、柏の木のある家から葉っぱをもらって柏餅作り……。そのほか味噌作りにしても豆腐作りにしても、極力、地域で取れたものを素材にしようとこだわっている。学区の中央部を流れる笹ケ瀬川を中心に豊かな自然が残るこの地区では、旧暦に従って行事を設定することで、自然の中から子ども自らが素材を見つけ出すことができるのだ。 土曜塾のメニューはまだまだ盛りだくさん。石釜でパン作り、絵手紙、草木染、野鳥の観察、魚釣り、竹馬作り。さらに、粘土で作った器を野焼きで完成させたり、園庭の桜の木の剪定で得た材料をチップにして鶏や魚の燻製を作ったり。しかも、ピザやパンを焼く石釜も、燻製を作るドラム缶も、みんな地域の人の手作りという。講師の先生も地域のお年寄り。自分の持てる知識や技術を子どもたちに教えたいと張り切っている。最近では、凧作り名人、絵手紙名人、草木染名人など、学区内外の“名人”がボランティアで教えてくれるケースも増えてきた。 川舟で地域を巡る「舟ゆうさん」 御南学区には、流れの緩やかな小川が網の目のように巡っている。この小川は昔の人々がつくった農業用水路で、人々は風呂、洗濯、炊事、米とぎなど生活用水をまかなっていた。そして農家は必ず川舟を1、2艘備えており、米やい草などの農産物や肥料、農業機械などの運搬に使っていた。 「昔の地域の人々が用水と強く結びついた暮らしをしていたこと、また、用水を川舟が行き交う特色ある風景を子どもたちに知ってもらいたい」と、御南小学校では1999(平成11)年、川舟に乗って学区内の用水を巡る「舟ゆうさん」を実施した。「舟ゆうさん」というのは、この地域で昔行なわれていた伝統的な舟遊び。旧暦の3月4日の裏節句に、母親が作った巻き寿司や煮しめを持たせて、用水に浮かべた舟に子どもを乗せてやり、舟の上で一日中遊ぶという風習があったのだ。 今も御南学区の西半分では、古い用水がそのまま残っており、用水に沿った古い農家もたくさん残っている。また、川舟も壊れているものも含めると20艘余りあった。そこで、地域の人々が協力して川舟を修理し、船頭となって昔の暮らしを話したり、「橋が道路より高く渡してあるのは舟が通りやすいようにだよ」と先人の知恵を紹介したりした。児童たちは「おじいちゃんの話で昔のことがよくわかった」「初めて乗って怖かったけどだんだん楽しくなった」「舟を引かせてもらったのがよかった」などと感想を寄せ、特に「川をきれいにしたい」と言った児童が多かったのは嬉しい驚きだった。久米連合町内会・ベターライフ御南では、子どもたちに伝統を継承するという意味でも環境意識の啓発の意味でも、この素晴らしい行事を地域に定着させようと、以後、毎年実施している。 農業体験をサポートする「御南田んぼの学校」 御南学区連合町内会では2004(平成16)年から、小学5年生の米作りを支援する「御南田んぼの学校」の活動を続けている。昔から米栽培に尽力してきた純農村だけに、米作りの楽しさ、苦労、一生懸命育てた米の美味しさを、子どもたちに心から感じてもらいたいと願ってのことだ。種籾や苗土の準備から、苗作りの説明、播種機による実演、田植えの準備、田植えの後には青サギが傷めた苗の補植……「田んぼの学校」の先生≠スちは手間ひまを惜しまない。 ただ単に米を作るだけでなく、もち米を作って収穫後に餅つきを楽しんだり、アイガモ農法を実践したり、また、収穫した米を使って、米のピザや米のお好み焼き、米のクリームなどユニークな米料理に挑戦するなど、「田んぼの学校」は児童の好奇心を巧みに引き出している。 さらに、小学3年生を対象に、田の畦を利用した大豆の栽培を指導。このあたりの農家では、大豆は「畦豆」といって、田の畦で作る作物だったことにちなんだもの。収穫した大豆を使って作った豆腐は、四角ではなかったが甘くて美味しいと好評だった。 広がる「地域の力」 御南学区では、老人会が中心となって児童の登下校を見守る「見守り隊」も朝晩活動しており、そのおかげで不審者がいなくなったという。御南学区連合町内会長で、ベターライフ御南の実行委員長を務める佐藤芳範さんは「地域の力はすごい。探せばいろんな道のプロがいるし、時間とやる気さえあれば大抵のことはできる。要は、地域のこと、子どもたちの置かれている状況に、みんなが関心を持つことだ。関心を持つことが、生活をより豊かに明るくすると思う。そして、地域活動を長く続ける秘訣は、自分が楽しむことが一番だ」と話す。 川と共に暮らしてきた御南地域の祖先たち。彼らが残した歴史的遺産や文化、水辺周辺の自然や動植物の生きる環境など、大切に守り、後世に引き継ぐべきものは多い。自分の暮らす地域を愛し、地域の人々が連携し、次代を担う子どもたちの育成に知恵と時間を提供する。しかも、自分自身も楽しみながら。御南学区の取り組みとその精神は、住みよい地域づくりの大きなヒントになると思う。 |