「まち むら」107号掲載 |
ル ポ |
伝統食名人、グランママシスターズの活躍 |
秋田県三種町 グランママシスターズ |
JA秋田やまもと本店2階の和室で、もうすぐ開催の「JAまつり」について話し合っているのは、グランママシスターズの皆さん。 この日は、八森、峰浜、山本、八竜、琴丘の5地区から、1人ずつグランママが集まった。もぎたての枝豆「晩酌茶豆」や、お盆に仏前に供える赤紫蘇とおこわを押して漬けた「赤づけ」をつまみながら、「JAまつり・グランマご当地自慢」に持ち寄る料理を決めていく。 「昔の料理を掘り起こして、今に伝えたい。野菜を食べないという今の子どもに、野菜のおいしさを伝えたい」という、八森地区の佐々木レイ子さん。お隣が、「自分では料理上手と思わなかったが、果樹園の梨を輪切りにして天ぷらにして持ってきたらおいしいと喜ばれ、うれしかった」と話す、峰浜地区の銭谷八重子さん。グランママシスターズの会長で山本地区のソバ打ち名人、袴田フチヱさん。袴田さんは、「食べ物を囲んでいると、知らない人ともすぐに仲よくなれるし、仲間が集まればいいことがある」と、活動を通して友だちができたことを喜ぶ。その隣は、「見ず知らずの人が集まって、初めは戸惑ったが、今は楽しくやっています」と、琴丘地区の鎌田ハルヱさん。鎌田さんは馬肉の煮付けがお得意だ。右端は、「皆さんから、峰浜地区の南蛮べっちょや、八森地区のクジラ料理、ナダテなど知らない料理を教えてもらった。話をすることで人間的にもいい」と、「赤づけ」を持参した八竜地区の寺田了さん。平均年齢は74歳。はじめは、スローフードも、ファーストフードもわからなかったと笑うが、皆さん、食を通した活動を楽しんでいる様子で、シスターズと呼ぶにふさわしい若々しさが伝わってくる。 JAやまもとのスローフード運動 秋田県の県北地域に位置する三種(みたね)町は、平成18年3月、琴丘町、山本町、八竜町の3町が合併した人口2万人弱の町。交通、経済の中心部は旧琴丘町の鹿渡(かど)地区。のどかに広がる田んぼの中を国道7号線が南北に走り、国道沿いにJA秋田やまもと本店はある。 JA秋田やまもとは、3町の合併をさかのぼる平成11年に5地区のJAが合併してできた。便利で手軽なコンビニやファーストフード店の味に慣れてしまった現代の人たちに、農村に昔からある食べ方の良さを伝えたいとの思いから、平成13年5月、食と農を結ぶ運動「スローフード運動」を開始した。「スローフード運動」、すなわち地場産で生産者の顔が見える安心で安全な食材を、より多くの地域の人々に提供しようと活動を進めてきた。 活動の柱は、@郷土料理などの地域伝統食の復興、A子どもや若い世代に向けた食文化の啓蒙、B安全で良質な食材や加工品を提供する生産者の支援、の3本柱で、その活動の一環として生まれたのが、「伝統食名人・グランママシスターズ」である。5地区のJAが合併したことで、それぞれの地区に独自の伝統料理があることが判明し、人材発掘の幅が広がったことが、「グランママシスターズ」が生まれるきっかけになったという。 「グランママシスターズ」の誕生 「スローフード運動」が始まった年の「JAまつり」において、さっそく各地区から推薦を受けた伝統食名人5人が選出された。1代目の「グランママシスターズ」である。その後、5年間で5人ずつの名人が選出され、計25人の「グランママシスターズ」が誕生した。 得意料理はそれぞれ異なり、巻きずしや巻き物などの行事食、地域の特産品を使用した保存食、自家生産したソバから作った手打ちのソバなど、レパートリーは豊富だ。 現在は主に20人ほどで活動中のシスターズ。普段は農業に従事し、依頼があればグランママとして、活動に赴く。活動内容は、小中学校が行なう伝統料理実習の講師や、地域の栄養士向けの講座講師。県内で開催される各種イベントに、得意料理を携えて出かける。特に冬場のきりたんぽ鍋やだまこ鍋づくり、ソバ打ち講習にひっぱりだこだ。 平成14年に行なわれた、秋田県内の学校給食栄養士研修会では、「スローフードバイキング」と称して、持ち前の腕をふるい昔懐かしい郷土料理を披露した。その味が好評を博し、参加した栄養士が学校給食にスローフードを取り入れるきっかけになった。 現在、この地域での学校給食にスローフードが占める割合は、八竜地区47.6%、山本地区21.9%、琴丘地区51.5%(平成20年度の実績)となっており、21年度からは新たに給食センターが一つになったこともあり、ますます学校給食のスローフードへの移行が進みつつある。 また、平成13年から17年にかけて、初代と2代目グランママの伝統料理の集大成である「まるごと・やまもと・料理集」を刊行(2回・全50品目)し、県内向けに販売した。 JAの安心で安全なコンビニ、JAンビニANN・AN 平成19年3月、スローフードの発信基地としてオープンしたのが、「JAンビニANN・AN(ジャンビニアンアン)」。明るい店舗内では、JAやまもとの女性部員が、活き活きと立ち働き活気がある。店名の由来は、「JAの安心で安全なコンビニ」で、「食の安全」と「地域密着」がコンセプト。地元組合員から直接仕入れた新鮮な食材を用いて、日持ちしない弁当、きれいな色の付かない惣菜などを売り物に、漬物やパンにはさむソーセージまで手作りして、店内で調理したものを販売している。もちもちっとした米粉パンも人気。いずれの商品も着色料や参加防止剤などの食品添加物は使用していない。店舗に来られない高齢者には、弁当宅配も行なっている。営業時間は朝7時〜夜7時で、定休日はない。 「グランママシスターズ」も開店当初からメニュー作りに加わり、「切り干し大根の煮物」など、定番メニューになっているものも多い。米粉を利用した「花見だんご」や「草もち」を商品化。また、季節ごとに「グランママの日」を設定し、お盆の時期には昔ながらの「赤飯」「赤漬け」「ゴマの巻き物」「タラの甘煮」の4品を店頭に並べ、若い人たちにも好評だったという。 これからに向けて JA秋田やまもと営農生活部ふれあい課の内藤美幸さんは、「グランママさんたちには、JAの行事や地域のまつり、学校での指導などで大変お世話になっています。お元気な皆さんに圧倒さされることもしばしばですが、現在平均年齢72歳です。グランママさんの熱意を引き継いで、今後、食の伝道師の役割を果たしていく人たち(ポストグランママ)の育成が必要だとも感じています。また、JA女性部の中の子育て世代を介して、次世代に食の大切さを伝えていきたいと思います」と話す。 「食べるという字は、人が良くなると書くでしょ」とは、グランママのお一人の言葉。なるほど、健康にもなるし、人との関係も取り持ってくれる伝統食。「農業」と「食」の大切さを地域に伝えていくために、これからも「グランママシスターズ」の活躍が期待されている。「JAやまもと」が母体になって、進められてきた「スローフード運動」は、地域の人々を巻き込みながら着実に浸透しているようだ。 |