「まち むら」109号掲載 |
ル ポ |
生ごみ回収「食のUターン事業」で生命にやさしい町づくりに貢献 |
福井県池田町 NPO法人環境Uフレンズ |
家庭から出る生ごみを回収し、牛糞ともみ殻に混ぜて良質な堆肥(有機肥料)を作り、稲作や野菜づくりに生かす。福井県の中山間部にある池田町では、町民ボランティアで構成されているNPO法人・環境U(ユー)フレンズ(山本美紀子理事長、110人)が7年前に発足。「食のUターン事業」と名づけて、生ごみ減量とリサイクルを目指し、自然や環境に優しい地域資源循環型町づくりに、大きな役割を果たしている。 食のリサイクル推進に環境大臣賞受賞 池田町は県都福井市の南東で岐阜県境に接する中山間部に位置し、福井市中心部から、車で50分の距離。福井市と大野市、越前市、南越前町に取り囲まれた盆地に開かれた農山村である。平成の大合併で、福井県は35市町村が一気に17市町に集約されたが、ここ池田町は町民の“苦渋の決断”により、合併せずに残った町だ。38集落、1100世帯、平成21年4月1日現在の人口が3396人。昭和30年には8000人近くあった人口は、3分の1近くに減り、県内で一番小さい自治体。 周囲を1200〜1400メートルの山々に囲まれ、92%が豊かな森林を形成し、県都福井市を流れる足羽川の源流域になっている。澄んだ大気と清流に恵まれ、平野部は530ヘクタールの耕地面積を有している。美しい自然と風土の中で、営まれてきた豊かな歴史と伝統のある町だが、ここ数年、この自然環境を宝もののように生かした町づくりが全国的にも注目されている。それというのも、平成18年、「自治体環境グランプリ」環境大臣賞、平成19年「環境保全型農業推進コンクール」農林水産大臣賞、また、この年「日本観光ポスターコンクール」で国土交通大臣賞を相次いで受賞しているからだ。平成16年7月の福井豪雨の災害を克服しての快挙だった。 杉本博文町長(52)のリーダーシップのもと、町ぐるみの有機農業をベースにした自然環境保全型の町づくりに住民パワーが発揮されている。そして平成20年度に、池田町とこのNPO法人環境Uフレンズが取り組んできた「食のUターン事業」が食のリサイクル推進環境大臣賞の優秀賞に選ばれた。 町民ボランティア100人が参加 生ごみを年間80トン回収し堆肥に この「食のUターン事業」を立ち上げたのは平成15年7月。もともと池田町は早くから牛糞堆肥を利用した米づくり(有機米づくり)に取り組んできたが、平成14年11月に同町魚見の人里離れた山合いにある畜産基地に堆肥づくり施設「あぐりパワーアップセンター」が併設されたこと。また、平成12年から町内の女性数人がごみ問題に取り組んできたことから、このセンター完成を機会に改めて家庭から出る生ごみを「食品資源」として位置づけ、生ごみの減量と活用の一石二鳥の効果を目的として生ごみ回収のNPO法人を発足した。町内各集落から、20代〜70代の老若男女40人が参加した。 テストバージョンを繰り返して回収方式の創意工夫を重ねて、現行の週3回(月、水、金)のローテーションで、2人1組が早朝から出勤し、町内67ヵ所のごみステーションを巡回、生ごみを回収するかたちを確立し定着させている。この事業は平成6年に設立された池田町農林公社(町と池田町農協が出資。職員8人)からの委託事業として、この環境Uフレンズが引き受けて実施しているが、町にとっては業者委託よりはるかに経費が節減されている。 環境Uフレンズの参加者は現在100人を超し、回収する生ごみ(食品資源)は年間、80トンを超えている。あぐりパワーアップセンターに持ち込まれ、牛糞ともみ殻を加えて、機械でブレンドされ、40日間発酵させてさらに60日かけて乾燥させて350トン余りの堆肥を生産している。 生ごみは丁寧に清潔に取り扱う 回収作業は町民有志の交流も促進 そこで早速、平成21年12月中旬の水曜日の朝、環境Uフレンズの生ごみ回収に同行した。午前8時30分、池田町中心部にあたる同町稲荷の(財)町農林公社「ファームF」前に集合。町を囲む部子山(標高1464メートル)から県境の山並みに向けて、薄く雪化粧が施された冷え込みの厳しい朝だった。当番の山本弘さん(62)=東俣=が待っていた。間もなく同じ当番の平井幸子さん(62)=稲荷=が駆け付けてきた。回収用の専用車、アグリパワー号(2トン)を山本さんが運転。その車に乗り込んだ。稲荷を出発し、寺島、学園、池田、山田、寺谷の順に上池田地区から下池田地区に入り、町内67ヵ所のステーションを回った。 生ごみの出し方は見事に統一されていた。@台所の生ごみの水切り、A新聞紙を2枚重ねにして生ごみを包む、B指定の紙袋に入れる、C紙ひもで紙袋の口をしばる、Dごみステーションに各世帯ごとに出す―ことが徹底され、生ごみの悪臭が漏れるようなごみ袋はひとつもなかった。当初は、生ごみの中に不燃物など生ごみ以外のものが混ざっていたが、紙袋ごと処理するので、最近ではそれもほとんどなくなったという。生ごみの出し方が丁寧で清潔なのに驚いた。 全集落を回り、回収してセンターまで届けるまでに3時間、午前中いっぱいかかり、走行距離は70キロに達していた。「水曜日はいつも生ごみは少ないですよ」と山本さん。それでもこの日は450キロあった。休み明けの月曜日に比べると、半分ほどだという。 走行中、気づいたことが3つあった。山本さん、平井さん2人とも、2ヵ月に1回ずつ当番が回ってくるのが楽しみな様子だった。ペアがその都度変わり、走行中の世間話や共同作業を通じて、町民同士コミュニケーションが深まることが素晴らしいという。そして、信号機が2ヵ所。コンビニが1軒もない代わりに、社会実証店「ゆいマート」があり、池田町の特産品とコンビニのような品ぞろいで、町内外の購買ニーズに応えている感じだった。 生ごみが有機肥料「土魂壌」に変身 稲作や野菜づくりに還元へ 回収された生ごみが堆肥となり、大地に百姓魂を吹き込む有機肥料「土魂壌」、また、堆肥から出る有機液肥「土魂壌の汗」、園芸用の「ゆうきの土」として販売され、町内外で大地の恵みとして水田や畑に還元されている。池田町では農薬や化学肥料を極力使わない稲作を推進しており、同町産コシヒカリ、「うらら(私ら)の米」として販売。とりわけ、うららの米「匠づくり」は同町の「生命に優しい農業」の基準に基づいて、有機肥料のみを使用し、農薬は除草剤1回と殺菌剤1回に限定した特別栽培米のコシヒカリとして人気を呼んでいる。 また、この「土魂壌」を使い、減農薬、無化学肥料で栽培した野菜は「ゆうき・げんき正直農業」認定制度に基づき、同シールを貼って販売している。平成11年に福井市内のショッピングセンター「ベル」1階に、アンテナショップ「こっぽい屋」を開店して、10年余りになるが、朝採りの新鮮で安全安心な野菜として年々、需要も拡大。オープン当初は、出荷する農家は80人ほどだったが、今では倍増。年間販売高は初年度の4千万円から1億4千万円近くに飛躍している。 「こっぽい」とは池田町の方言で「ありがたい」という意味。「ゆうき・げんき正直農業」に登録している農業従事者は現在、120人余り。「消費者に喜んでもらえる野菜づくり」は大きな喜びであり、励ましにもなっている。 当たり前のことが 普通にある町としての誇り 生ごみ回収から堆肥づくり。それが有機農業の大きな広がりとなり、おいしい米づくりと新鮮で安全な野菜づくりへと発展され、人と自然が共生していく、昔からの、当たり前のことが普通にある町として、存在感を増している池田町。「10年ぐらい前までは、池田町に住んでいることが恥ずかしかったが、今では、ふるさとに胸を張っていると若い人や池田町から外に出た人に言われるとうれしいわ」と環境Uフレンズ理事長、山本美紀子さんは、強調した。 こうした町づくりの政策は、池田町農協青年部の「ザ百姓」米づくり体験交流事業で活躍した杉本町長の熱意と、農林水産省のキャリアから池田町に転進した、町総務政策課の溝口淳参事をはじめ福井県庁から引き抜かれた職員や営農指導員ら有能なスタッフの企画力、行動力に、共鳴した町民有志によって支えられている。 |