「まち むら」109号掲載 |
ル ポ |
頭の中がひっくり返るほど楽しい科学は、人生を変える! |
山口県岩国市 岩国科学をたのしむ会 |
次々に湧いてくる発想を体験する子ども 「おはよ〜! 今日は何やるん?」 土曜日の朝、公民館の階段を子どもたちがはしゃぎながら上がってくる。今日は、「岩国科学をたのしむ会」主催の「わくわく科学クラブ」の日。小学生たちがたくさん集まってくる。月1回第3土曜日の午前9時半から11時半まで、低中高学年の3クラスで仮説実験授業を行なう。会費は1回500円。年間登録制で、今年は75人が登録している。授業をするのは、学校の先生もいれば一般の人もいる。子どもに教えるというよりは、子どもと一緒に科学を楽しんでいるようだ。 「わくわく科学クラブ」は、単に実験を子どもに見せる会ではない。まず問題を提示して、その結果を子どもたちは予想する。例えば、「からっぽのコップを逆さまにして、まっすぐ水の中に入れます。コップの中に水がはいるでしょうか?」という問題には「ア、コップの中に水がいっぱい入る」「イ、コップの中には、ほとんど入らない」「ウ、コップの中に水が半分くらい入る」「エ、そのほかの考え」の選択肢があり、答えを予想する。そして、自分の選んだ答えで討論をする。それが楽しい。 選択肢の中には決められた答えだけでなく「そのほかの考え」があるところがいい。突拍子もない考えも出てくる。子どもの柔軟な発想のみせどころだ。子どもの頭の中では、今まで経験したことや知識や想像が総動員されて考え、発想し、さながら宇宙のように無限のエネルギーが発生しているのではなかろうか。そして、実験して結果が目の前で示される。でも「そうだったのか」では終わらない。このような体験をした子どもたちは、他の場面でも発想がどんどん湧いてくるという。この体験は、科学の原理を発見した科学者と同じ思考体験をしているのだそうだ。おもしろくてやめられなくなるという。 わくわくさせる仮説実験授業との出会い 「岩国科学をたのしむ会」は、1991年にスタートした。代表は、原田広子さん。1990年のある日、原田さんの小学生の姪が「先生がおもしろい授業をしてくれるんよ」と楽しそうに話してくれた。小学校の参観日に覗いてみると、今まで味わったことがないような、わくわくする理科の授業だった。これが、原田さんと仮説実験授業との出会いだった。仮説実験授業とは、1963年に板倉聖宣さんが、「科学のもっとも基本的な概念と原理的な法則」を教えるために提唱したものである。ここでいう「科学」とは、「社会科学」や「人文科学」も含まれる。 姪の先生が参加している「仮説サークル」という会を見学に行った。「仮説サークル」は、市内の中学校の先生が、仮説実験授業を学校で行なっている先生たちのために開いている会だ。その日は、「もしも原子が見えたなら、1メートルの立方体の中に分子はいくつ入るでしょう」という問題を大人たちが真剣に考えていた。1メートルの立方体を実際に作って、「ギシギシだったら身動きがとれんじゃん」などと子どものように熱い意見を交わす様子にびっくりした。と同時に「おもしろい!!」と思った。子どもの頃に出会っていたら、きっと人生が変わっていただろう。そして、自分も仮説実験授業を受けたいと思い、翌年会を開設した。 大人も楽しむ「わくわくフェスティバル」 「岩国科学をたのしむ会」には、「わくわく科学クラブ」のほかに月1回開く「大人のわくわく科学クラブ」、そして毎年夏に開催する「夏のわくわくフェスティバル」がある。 「夏のわくわくフェスティバル」は毎年お盆の頃開き、2009年は170人の大人と子どもが参加した。授業内容は、低学年のクラスは「ドライアイスで遊ぼう」「ふしぎな石じしゃく」、中学年は「電池と回路」、「もしも原子が見えたなら:この授業を受けて原子が見えてくると、今まで見ていた世界が違って見えるお勧めの授業」、高学年は「世界の国旗:世界国旗には、それぞれの国の希望や夢、理想までも表現されている。それを楽しく勉強する」、「燃焼」、大人のクラスは「不思議な石・石灰石」となっている。その前年、大人クラスでは「2つの大陸文明の出会い」と「蝦夷地の和人とアイヌ」という歴史の授業を開いた。歴史も予想を立てて事実を知るようにすると、思わぬ事実が明らかになってくる。そういう事実を知ってはじめて多くの問題を解決できるようになるという。 フェスティバルのお昼休みには、これまた楽しい「わくわくものづくり広場」が開催される。広い会場にブースがいくつも並ぶ。各ブースでは、「分子模型作り」、「折染め」、「巻きゴマ」、「紙ブーメラン」、「紋切り絵」、「キミ子方式色づくり」、「恐竜の卵」、「もちもちウインナー」、「スライム」など、子どもたちが喜ぶおもしろくておいしい実験が目白押しだ。このフェスティバルは、子どもだけでなく大人も楽しいようだ。その証拠に、付き添いで来た保護者から、来年はスタッフとして参加させて欲しいと言われるという。 身につけたものの見方や考え方は人生の宝 原田さんは、「やりたいというだけのいい加減な気持ちで動いてしまい、周りの人を巻き込んでここまで来ました」と笑う。「どんなものでも、目的意識を持って見ないと見えてこない。漫然と考えているだけでは真実は見えないということがよくわかりました。視点を与えてやれば、子どもたちは目的意識を持って考えるんです」という。子どもたちは、授業者の説明によってイメージを湧かせながら答えの選択肢を選ぶ。それは客観的なものだが、討論をして自分の考えにしていく。そして、実験によって結果が明確になる。この時、実験を漫然と見ているのではなく、目的意識のもと自分の視点を持って見ている。これを経験していくと、どんどん世界が広がっていくのだ。 「科学は娯楽。なんといっても楽しいのがいい! 子どもにとっては、楽しい時間を積み重ねることが大切なんです」と原田さんは言う。「しかし、何よりも大切なことは、実験の結果が出る前は、みんな平等に意見を聞いてもらえるということです。多数派の意見が正しいわけでもないし、どんなに突拍子もない意見でも無視されず聞いてもらえる。ここに、とても深いものがあると思うんです。」 原田さんは、職場で若い女性と話をしていて、彼女が小学生の時「夏のわくわくフェスティバル」に参加していたことがわかって驚いたという。彼女は小学3年生の時「もしも原子が見えたなら」の授業を受けて、自分が分子になったような気がして頭がひっくり返るほど楽しかったことを鮮明に覚えていると言った。また、小学5年生で仮説実験授業を受けた人は、「生きていくうえで、ものの見方はいろいろあっていいんだ」と思うようになったという。その思いは、人生に大きく影響している。 「科学」は、学校の授業というだけではなく、生きていく意味をも教えてくれるものなのだろう。「岩国科学をたのしむ会」は、わくわくして楽しい中に、生き方という深いエッセンスが入っている不思議で魅力的なグループだ。 |