「まち むら」111号掲載 |
ル ポ |
多胎児を安心して産み育てられる地域づくりを目指して |
秋田県秋田市 多胎サークル ひなっこクラブ |
双子ちゃん、三つ子ちゃんのママたちの悩み 双子を見かけると思わず顔を見比べて、かわいらしさに目を奪われる。そんなとき、もし自分が親だったらと考える人が、どれほどいるだろう。「かわいい」と通り過ぎ、忘れてしまうのが一般的だ。一人の赤ちゃんを育てるのも大変なことなのに、同時に二人以上を産み育てるということは、どういうことなのだろう。 「ひなっこクラブ」のある日の集会をのぞく。全員、二人以上の子どもを連れて集まる。ここでは誰に遠慮をすることもなく、一人ずつベビーカーから降ろしたり、靴を脱がせたりできる。泣かせっぱなしにしていても、うるさがられることもない。急いだり、あわてたりしなくてすむだけで安心する。同じ境遇の者同士、話さずともわかりあえる場だ。ここで悩みや不安を話すことで、「自分だけが大変なのではない、また頑張ろうという気持ちになれる」と、参加者は口をそろえる。 多胎児を産み育てる大変さを聞いた。まずは多胎妊娠がわかったとき。まさかと驚いた人がほとんど。「なんで私が」と、信じられなかったと振り返る人も。夫や両親が素直に喜んでくれるか心配した人。中には、「ほんとに産むの?」などと、心ない言葉が返ってきたという人も少なからずいた。また、多胎妊娠は妊婦への負担が大きいため、早産や帝王切開への不安、胎児の栄養状態や発育遅延などへの不安、また、経済的な不安など、一度に多くの不安に押しつぶされそうだったという人が多かった。 出産を終えたら、育児のスタート。初めてのことばかりのうえに、想定外のことが次々起こる。産後、母体もまだ回復しないうちから、一人が寝るともう一人が起きて眠れないのが辛かった。授乳中もう一人が泣き始めて、泣かせっぱなしで身を切られる思いだった。一人をお風呂に入れていたら、もう一人に目が届かない。もっと抱っこしたいのにできないもどかしさがあったなどなど、こちらも枚挙にいとまがない。 育児に悩んだ末にサークル設立 「ひなっこクラブ」は、双子や三つ子などの多胎児を持つ母親同士が、悩みを話しながら親睦を図り、不安を解消することを目的に、秋田市を中心に活動している。 会員は現在、多胎児を持つ親子33組。そのうち入園前の親子が22組。11組は入園後も会に残り、うち5組はスタッフとしてサークル運営に携わっている。活動は主に、月1回の集会と年1回の多胎児交流会の開催、2ヶ月に1回の会報発行、多胎児関連図書の無料貸し出しなど。会費は年会費として1200円徴収している。 そのスタートは、平成15年6月。3番目の妊娠で双子を授かった4児のママ、高橋祐子さんが、当時4人の子どもを育てながら、外出もままならない状況に悩み、行政に助けを求めた。それをきっかけに市政学習会などに参加するようになり、そこで様々な出会いがあったという。まわりのサポートやバックアップがあり、同じ境遇にある多胎児を持つママたちが交流できる場として「ひなっこクラブ」を立ち上げた。2代目代表は看護師だった中川まゆ子さん。1代目、2代目の代表が仕事に復帰したことから、平成18年4月、現代表の小玉雅子さんが3代目を引き継いだ。 小玉さんが「ひなっこクラブ」の存在を知ったのは、出産の入院中だったが、出産後2年間は、実家の母親や叔母さん、いとこなど、借りられる手はすべて借りながら、なんとか育てていた。入会は、双子の帆夏(ほのか)ちゃん、萌夏(もえか)ちゃんが2歳になったころ。入会してみたら、自分がいちばん大変と思っていたのに、上には上がいた。頑張っている人を見て、弱音なんか吐いていられないと、前向きな気持ちになれた。入会していなければ思い詰めて、夫に八つ当たりばかりしていたかもしれない。同じ境遇の友人に出会ったことで、がっちり心が通い合い、育児に対する気持ちが大きく変化したという。 行政や市民団体、助成金の支援を受けながら 「ひなっこクラブ」の活動は、行政や市民団体の支援を受けながら継続されている。毎月開く集会には、秋田市「子ども未来センター」の無料出前保育のサービス、時には「NPO法人子どもネット」の無料おもちゃサロンを利用、「NPO法人あい」には、秋田市から交付される子育てクーポン券が使える「多胎児だけのピクニック」を企画してもらった。なにより育児に奮闘する会員に喜ばれるような集会の運営を心掛けている。それらの情報は活動を続ける中で自然に集まっている。 多胎育児が一部の人のことと片づけられることが多い中で、多胎育児に関する体験談をまとめた冊子の発行は、特筆すべきことだ。平成17年、多胎児ママの妊娠・出産体験談集「ようこそふたごちゃん・みつごちゃん」を、秋田県「みんなで育てるのびのび秋田っ子事業」からの助成金で発行。翌18年には続編として、多胎児ママの育児体験談集「続ようこそふたごちゃん・みつごちゃん」を、キリン福祉財団の助成金を受け発行した。 それらの活動が、社会資源を活用した団体運営をしていると評価され、任意団体「多胎育児サポートネットワーク」(のちの一般社団法人日本多胎支援協会)から声がかかり、平成19年には「あきた・多胎育児の勉強会〜秋田の多胎育児の今とこれから〜」を、独立行政法人福祉医療機構「長寿・子育て・障害者基金」(WAM)助成事業として開催した。その成功で、翌20年、同じくWAMの助成により、「多胎育児支援地域ネットワーク構築事業・東北ブロック研修会〜みんなで聞こう 話そう 多胎育児〜」を開催。地域でのピア(注1)サポート活動の促進を目指した。 (注1)ピア=仲間 多胎妊娠・出産・育児を経験した同じ仲間 今まで助けられてきたからこそ、これからはサポートする側に 多胎育児で悩み、困っている人は多い。集会など、外に出てこられる人は一歩を踏み出せているが、一人で大変さを抱えている人もたくさんいる。多胎育児を経験した人でなければ分からないことがあるし、多胎児独特の成長過程もある。今後は、様々な専門家のネットワークをつくり、多胎育児を取り巻くまわりの人々の理解を得たい。 代表の小玉さんは、「双子のお母さんになれて、本当によかった。幼い頃はあまりの大変さに、貧乏くじを引いたと感じたこともあったが、小学校に入学した頃から、二人で助け合うほほえましい光景がよく見られるようになった。宿題を教えあったり、丸付けをしたり、犬のトイレの掃除も、二人で一生懸命やっている。そのときは気づかなかったが、双子だから周囲の皆さんに励ましの声をかけていただいた。多胎児を育てている方々に、『今は大変でも、後で必ずよかったと実感できるよ。誇りと自信を持って育ててください』と、声を大にして言いたい」と、語る。 厚生労働省人口動態・保健統計課による2007年の人口動態調査によれば、双生児出生率はおおよそ1%。今まで一部の人のことと、片づけられがちだったが、誰もが安心して暮らせる社会を築くためにも、医療、行政、福祉の専門職が連携した多胎育児の環境整備が望まれる。 |