「まち むら」113号掲載
ル ポ

子育て支援しながら三世代交流 地域の茶の間「Cafe亜麻人(あまんと)」
北海道札幌市 麻生商店街振興組合/NPO法人子育て支援ワーカーズ・プチトマト
世代を超えたあたたかい人と人の交流を願って

 札幌市の地下鉄南北線の北の終点、麻生駅から徒歩約5分。麻生商店街ビルの2階にある「Cafe亜麻人(あまんと)」を訪ねた。
 ここは、麻生商店街振興組合が、札幌市の商店街活性化支援を受け、「あさぶ商店街地域力アップ事業」として地元のNPO法人子育て支援ワーカーズ・プチトマトと連携し取り組んでいる三世代交流サロン。
 亜麻人の扉を開けると、「こんにちは〜」とスタッフの明るい声。取材日は月3回のおやこの広場の日。奥の6畳ほどの畳敷きスペースには、小さなお子さんを連れた若いお母さんたちが楽しそうにおしゃべりをしている。もうすぐお昼とお弁当を広げるところ。ちびっこたちはまるでわが家のようにくつろいだ様子で遊びに熱中。
 喫茶カウンターでは、立ち寄ったご近所のお年寄りがスタッフとおしゃべりしながらお茶を頂いている。そこへちびっこの一人が組み立てたおもちゃをお年寄りに見せにとことこやってきた。「ほら〜」「いいねー」と世代を超えた笑顔の交流が自然であたたかい。


安心安全なまちづくり、人々の信頼関係の再構築のために

 札幌市北区麻生町は明治期から昭和32年まで繊維製造の亜麻工場で栄えた町。昭和30年までは畑が広がり、サイロの姿もあった。道営住宅が建ち始めるころから、現在の麻生駅周辺である五又路を中心に商店が並び始めた。
 市電も延長され、昭和48年(1973年)には札幌市市営交通地下鉄が開通。喜びもつかの間、大型スーパー進出の脅威の中で、地元商店街は「街づくり」を命題に89店で「麻生商店街振興組合」を創立する。以来、同組合は次世代にむけた郷土愛の育成を願って積極的に取り組んだ。
 平成5年、麻生商店街振興組合創立20周年には記念行事として古典芸能の薪能(たきぎのう)を見る大規模イベントを企画、3千人もの観客でにぎわった。
 以後15年の歳月が過ぎ、住宅街はしだいに麻生を交通起点として北へと広がっていった。ますます顕著になる少子高齢化に加え、郊外型大型店の進出で商店街は空洞化が進む。かつては繋がり合い支え合ってきた人と人との信頼関係も薄れ、商店街も安心安全で「温もりのある街づくり」にむけ新たな課題を抱えることとなる。


実験カフェ「あさぶみんなのプチカフェ」の実施

 一方、子育て支援ワーカーズ・プチトマトは、自分たちで出資・経営し働くワーカーズ方式による市民事業団体。「自分たちの住む街で子育てを支援する仕事をしたい」という願いで平成7年(1995年)に設立し、平成19年(2007年)にNPO法人格を取得した。
 0〜12歳までの子どもの在宅での一時保育(ベビーシッター)や、グループや団体の講演会、講習会などでの出張保育のほか、あそびの広場、子育て家庭にむけた遊びの会、絵本の読み聞かせ、人形劇、音楽会、子育て講演会、情報の提供など、子育て全般の支援活動を行なっている。
 子育て支援ワーカーズ・プチトマトが活動拠点を麻生に設けてからは、地元麻生会館での子育てサロンを開催するほか、夏祭りの出店、よさこい麻生会場やあさぶ亜麻そば祭でのキッズ広場開催など商店街のイベントにも担い手として参加し、まちづくり活動に積極的に関わってきた。
「まちづくりの活動を通して、地域の人たちが顔見知りになり、あいさつできる関係ができたら、住みやすい地域になるのではと感じました。また子育て中のお母さんが幼い子を抱えて孤立し追い詰められている現状を知り、何とかしたいと仲間たちと話しあいました」
 そう語るのは、NPO法人子育て支援ワーカーズ・プチトマト代表の喜多洋子さん。
「さまざまな世代の人たちが交流できる場所を地域に作りたい。そんな場づくりを目指してコミュニティカフェの視察に大阪まで出向き、地域の茶の間にたどり着いたのです」
 麻生商店街地区でコミュニティカフェをすることを目標に、平成20年(2008年)11月8日、秋山財団社会貢献活動助成事業費を受けて、麻生地区会館にて第1回実験カフェ「あさぶみんなのプチカフェ」を開催。
「たくさんの方に来てもらおうと、商店街、町内会に呼びかけました。まちづくりセンター長さんは老人クラブ、民生委員など地域の要の人物と私たちを結びつけてくださり、とても感謝しています」
 一品30円で手作りのおかずをあれこれ提供。ぬりえセラピー、木のおもちゃ、昔あそびのお楽しみコーナーなど子どもからお年寄りまで楽しめる場を演出した。同年12月2回目をバレースタジオで開催、翌年1月第3回目は近隣の明星幼稚園を借りて行なった。
「実験カフェはいずれも大盛況でした。来てくれた方が、こんな場所待っていたと大変喜んでくださり、麻生にこうした交流の場が本当に必要なのだと確信しました」


商店街と子育て支援NPOが、地域のために力を合わせて

 実験カフェの成功を受けて、今度は本格的コミュニティカフェの立ち上げに拍車がかかる。公的場所を借りるのもいいが、資金もかかるし、みんながわかる同じ場所で継続したい。どこかいい空き店舗はないだろうか、と模索していた時である。
「札幌市の地域振興課の方が空き店舗事業を紹介してくださった。さっそく麻生商店街振興組合の理事長に会って、私たちの思いを告げると、それなら共に『憩いの場づくり』をしましょうと喜んでくださったのです」
 ぬくもりのある街づくりを目指す商店街振興組合とプチトマトのメンバーの思いがぴったりと重なり合う。
 開設準備にむけてさっそく「平成21・22・23年札幌市地域商業魅力アップ補助対象事業」に応募。企画書は商店街で電気店を営む永倉さんに相談しながら作成し、商店街理事会の承認を受けて申請した。
 この永倉さんは過去20数年もの間、麻生地域のコミュニティ誌「五又路」を編集しているまちづくりのキーマン。年3回町内の各家庭に配布し、その発行数は100号を超え、麻生のまち活性化にむけ尽力してきた貴重な人物だ。
 苦労の甲斐あって事業申請は受諾され、「三世代交流コミュニティカフェ」づくりが本格スタート。空き店舗であった駅前の高橋ビル(1階のセブンイレブン)の2階を改修し、平成21年7月についに念願のカフェがオープンした。


まちづくりのコーディネーター役として

 広さ40平方メートルの空間に常設カフェのためのテーブルとカウンターの11席。おやこの広場として一角には6畳分の畳を敷き、子どもたちが遊べるスペースを確保。木製のおもちゃや絵本書棚も充実させた。手作り作品を展示販売するレンタルボックスのほかに、買い物や美容院、通院、急な用事に専属スタッフが店内で子どもをみてくれるスポット保育や、趣味やグループ会合、お茶会などでスペースを借りることもできる。
 常駐スタッフはプチトマトのメンバー4人と、地域スタッフ1人、ボランティアが数人。大学生やシルバー人材派遣センター登録者、将来カフェをやろうと運営の勉強に来ている人など様々。
 また地域の人が集う交流の機会として、子育てやおもちゃの講演会、みそ作り、お菓子作り、メイク講習会、花あそび、ハーブ講習会、タロット、落語会、雪像作り、フリーマーケット、コンサート…と毎月楽しいイベントを開催してきた。
 商店街振興組合と連携しカフェを切り盛りして1年半。NPO法人子育て支援ワーカーズ・プチトマトは、まちづくりのコーディネーターとしての功績が評価され、昨年北海道まちづくりコンクールで「北海道福祉のまちづくり賞」を受賞した。
 「プチトマトは隣近所の世話好きおばさんよ」と笑う喜多さんに今の思いを聞く。
「カフェ亜麻人の活動を通して私もたくさんの方と出会いました。麻生を歩いていると、いろんな人が声をかけてくれる。今では麻生はわが故郷。今後も亜麻人を拠点にもっと新たな活動が広がることを願っています」
 カフェの窓際の鉢に小さな亜麻の種が植えられている。ささやかだけどしっかりと双葉が芽吹いている。「どんなに小さな種でもみんなで力を合わせれば大きく育つのよ」小さな双葉からそんな囁きが聞こえてきた。