「まち むら」114号掲載
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地域の足≠ンどりっこバス
岐阜県岐阜市 芥見東自治会連合会
 岐阜県岐阜市の北東部に位置する芥見東地区。関市とも隣接するこの地区は山の緑が美しく映えるまちである。地域住民の足となって走るコミュニティバス『みどりっこバス』は平成22年4月に本格運行が始まった。


近い将来を見据えコミュニティバスを導入

 黄色の丸みを帯びた少し小振りのバスが緩やかなカーブを曲がってきた。ノンステップバスに乗り込むと緑色の帽子とベストを着て乗車口に立つボランティアのヘルパーさんと「おはようございます」と互いに挨拶。自転車や歩きではつらいほどの坂道が続く中、バスは大きな団地内を巡っていく。
 バスの名は『みどりっこバス』。地域で一番大きな「大洞緑団地」の緑が由来。愛称と同じく公募したかわいらしいキャラクターも誕生した。
 芥見東地区には昭和40〜50年代に山を開拓してできた大規模の団地が数多く存在する。約2500世帯、7800人から成る総称「大洞団地」は県内でも最大級。55もの自治会を有する。当時20代、30代の子育て世代が各地から集まった。その世代が今は子育てが終わり、高齢化が進みつつある。
 「この地域では元々コミュニティバスの要望があったんです」と芥見東自治会連合会会長の多田喜代則さんは言う。「団地は高低差のある高台。車が運転できなくなったら、荷物持って自転車というわけにいかない。昔は高台の上にも店があったが、今は全くない。病院なども全部下。コミュニティバスでなくとも何らかの足が必要だった。皆が長年求めていたものと市の助成の形がぴったり合致した」と多田さん。
 岐阜市では公共交通拡充策の一環として『市民協働の手づくりコミュニティバス』をと平成18年に市内4地区が先行してコミュニティバスの試行運行を開始していた。以前から必要性が言われていた芥見東地区も平成19年に自治会加入全世帯にアンケートを実施。コミュニティバスの導入に70%の同意を得た。自治会連合会と市および公募で委託された運行会社、そして芥見南地区も加わり「運営協議会」を立ち上げ、ルート・ダイヤなどの運行計画を作成。平成20年に試行運行が始まった。
 「何回も何回も走って。キロ数から時間を計って。バス停を置く許可を取ったり、協力をお願いしたり」と話すのはバスにも同乗して下さった吉澤頼宣さん。自治会連合会の副会長であり、運営協議会の副会長も務めておられる。試行運行中はバス内にアンケート箱を設置し、ルートやダイヤの改正を行なってきた。一日当たりの平均乗客数は当初の目標100人を大きく上回る170人。運賃収入も安定していたため、平成22年4月に本格運行に移行できた。


『ヘルパーボランティア』は親切な車掌さん

 みどりっこバスには市内の他のコミュニティバスにはない、全国でも珍しいヘルパーボランティア制度がある。「みどりっこヘルパー」は現在40名ほど。月に一回くらいのローテーションで毎日一人が4時間ほど、混む時間帯にバス内で運賃回収、乗降の誘導などをして高齢者や障がいのある方の手助けをしている。乗客の声も日々ヘルパーが日誌に書きとめる。
 この日のヘルパーは渡辺さん。定年まで名鉄バスの運転手として働いていたという。その経験が大いに役立っている。「バスの動き始めが一番危ない。転倒などの8割が動き始めの時。だからお年寄りが転びそうになった時に支えられるよう準備しておくんです」と教えて下さった。実際、ご年配の方が気づかれないほどさりげなく後ろから手を出されていた。5年前に定年で仕事を辞めた時期がちょうどコミュニティバスの試行開始と重なり、志願されたそうだ。「ありがとうと言われることがうれしい」。本当にこのバス内の会話には「ありがとう」が多い。昨年の夏休みには地元の藍川東中学校の生徒10人が志願し、ほぼ毎日サポーターとしてヘルパーボランティアと一緒に乗降の援助や誘導を行なった。今年も募集を予定している。


コミュニケーションバス

 乗車時には数人だった乗客も数分間隔の停留所ごとに増えていき、当日は雨だったこともありみるみる満員になった。「発車します」そう運転手さんが声を発すると、乗客たちが「お願いします」と応じる。「お久しぶり」顔見知りの人もその場に居合わせた人も、自然と会話ができる。アットホームな雰囲気の寄り合い所や待合所のようだ。「にぎやかだったでしょ。路線バスとは全然雰囲気が違うでしょう?」と寺井和雄参与。寺井さんは総合広報を担当されている。運営協議会の事務局長は吉澤さんと一緒に乗車してくださった山田正行さん。自治会連合会の副会長も兼任。以前山田さんは自治会便りに「ここのコミバスはコミュニティバスというよりコミュニケーションバス」と書かれていたが、乗車して実感。コミュニケーションが楽しいと感じた。
 運転手との距離も近い。停車時のドアの開閉タイミングで乗客たちと笑い合う場面もあった。
 乗客に話しかけてみると「これまでは家の中にこもっていたけれど、行動範囲が広がって本当にありがたい」「目の手術をしてから車の運転ができなくなった。しょっちゅう利用している。みどりっこバスさまさま」との声。また、夫に気兼ねしながら送り迎えをしてもらっていたが、自分で自由に行けるようになったと喜ぶ声もあったそうだ。
 初めはもっと小さなバスを想定していた。しかし、今では大きなバスを望む声もあるほどで、台数もゆくゆくは増やせたらという思いもある。


地域でできることは地域で

 「市が運営するコミュニティバスが一般的だが、岐阜市の場合は地域が運賃や広告収入などで負担して、足りない経費を市が助成してくれる。地域が頑張れば乗客が増えて市も助かる。頑張りがいのある制度を作ってくれた」と市役所幹部出身でもある多田会長。「市が全部やると住民が頑張らない。頑張らざるを得ない制度」と寺井さんも笑う。利用者を増やすため様々な工夫もしている。例えばみどりっこバス限定の特別割引回数券。3000円で35枚、5000円で70枚と他地区に比べずいぶんと割安である。そのためリピーターも多い。
 情報共有化への地道な努力も欠かさない。以前は業者に委託していた自治会報を編集・印刷・配布まで全て自分たちで行なっている。しかも年に1〜2回の発行だった自治会報を月刊化して既に5年が経つ。芥見東公民館の事務室が編集室兼印刷室にもなっているため人が集まりやすくまちづくりの拠点にもなっている。
 「コミバスが終点ではないんです」とプロジェクトを進めた寺井さんが、運行会社である日本タクシーにバスで補えない部分をカバーしてもらえたらと先の夢を話してくれた。任期に左右されないよう、自治会連合会の役員候補には支部長歴任者などから声をかける。「多田会長に太ーいロープで縄つけられて釣られました」と山田さんたちの笑い声が響いた。
 自治会活動がオープンであること、うたごえ喫茶まで仕掛けるリーダーたちの楽しそうな姿、住民の笑顔、これらが地域の抱える問題を解決していくパワーになると感じた。