「まち むら」115号掲載 |
ル ポ |
親も子も、ばぁばも楽しい交流ひろば |
岐阜県関市 シルバー本町プラザとんてん館 |
刃物のまち、関市。単線の「長良川鉄道」関駅から少し歩くと東西に長く商店街が軒を並べている。その本町通り商店街の一角、本町ニ丁目に「シルバー本町プラザ とんてん館」がある。 中心市街地活性化を目指して 「とんてん館」というユニークな名前は、刃物産業が盛んな関市ならでは。戦国時代から名を残す関の刀鍛冶『孫六』にちなみ、刃物を鍛錬する時のトンテンカン、トンテンカンという音から名付けた。そのリズムが、子どもにも親にも心地良い響きとなって心に残るようにとの願いがこもっている。館内でも常時刃物研ぎを頼めるそうだ。 館内右手に親子が遊べる“ふれあいキッズコーナー”があり、絵本やおもちゃが並ぶ。左手にはコーヒーなどが飲める喫茶コーナーがあり、その後ろはシルバー会員手作りの品の展示販売コーナーとなっている。平日の9時から16時まで開館している。 とんてん館ができたのは平成20年10月。(社)関市シルバー人材センターが厚生労働省の企画提案方式による補助事業の採択を受け、親子三世代交流、会員・市民の交流の場として誕生した。目的は中心市街地の活性化。「昔はこの通りも人がいっぱい来ていたけれど、今はまばらになってしまった」とシルバー人材センター理事長の岡田充宏さん。「センター本部が中心街から少し距離があり、中心街にも会員が集まれる拠点が必要だった。子育て支援の企画も手作り小物の販売も以前はイベントとして開催していたが、常設できるといいねということで話が進んだ。この建物も元は靴屋だったんですよ」と話してくれた。とんてん館ができる前は、学習塾として利用されていた店内を、人が集える場にリフォームした。店内は古民家風になっており、くつろげる雰囲気である。 人が集まる「とんてん朝市」 毎週水曜はシルバー会員たちの畑で採れた、新鮮な野菜や米、手作りパンなどが館の入り口前で販売される。安くて新鮮な野菜が買えるとあって、朝8時半の市場オープン時からたくさんの人で賑わう。 「なすはない?」「なすは売り切れてしまったわー。最近高いからねえ」「あらー残念」こんな会話が交わされる。 「モロヘイヤはおひたしにしても美味しいよ」など調理法も教えてもらえる。「この“こしょ”(紫色をしたシシトウの一種)ってすごく美味しいらしいですよ」と他のお客さんが情報をくれた。野菜やパンは全て1袋100円。袋には生産者の名前も貼ってある。野菜市に出店しているシルバー会員は現在6人。人の出入りが落ち着いてくる時間には、店内の喫茶コーナーでコーヒータイム。このコーヒーがとても美味しい。シルバー会員同士のおしゃべりも盛り上がる。 横から「この服いいねえ。安いし、ええ柄」とお客さんが話しかけてきた。「素敵ですよね」と自然に答えてしまう。初対面でも話しやすい場だ。 店内で販売されているのは小物だけでなく、バッグや服に帽子、民芸品もある。着物をリメイクした品など全て手作り。かわいらしいベビードレス風タオルを買っていく小さい子連れのお母さんも見かけた。 多世代が集える交流の場 とんてん館の特徴は、三世代が交流できる場であること。館内には、コーディネーターとして子育て世代でもある松浦稚恵さんを中心に、子育てばぁばと呼ばれるシルバー会員が常時2人来ている。子育て支援コーナーでは平日9時半から15時半まで、いつでも遊びに来られる。子育てばぁばたちと遊びながら親子がふれあい、子育てに関する相談を受けたり、地域の子育て関連の情報をもらえる。 現在は月に2回ずつ講師を呼んでベビーマッサージやリトミックを開催。一時間550円で一時預かりしてくれるサービスもある。教員OBのシルバー会員たちによる小学3・4年生対象の「いきいき学び教室」も週に一度開催する。 毎月第4木曜日には、「子育てばぁばと一緒に遊ぼ!」というイベントが開催されている。8人ほどのばぁばたちと親子が一緒になって遊んだり、物作りをしたり、食事をしたりできる企画である。 8月の「牛乳パックチェアーづくり」には約20人の親子が参加。中にはおばあちゃんも一緒に3人で参加されている方もいて、まさに三世代が一緒に楽しめるイベントだ。イベント前の時間帯はちょうどストレッチ体操がある曜日でもあり、体操に来られた一般の方と、早めに来て体操もしてからイベントに参加するお母さんたちが同じ場にいられるのもいい。 この日は童謡を皆で歌った後、今子どもたちに大人気のマルモダンスを常連参加のお母さんに教えてもらい、子育てばぁばの紙芝居、牛乳パックで椅子を作るというプログラムだった。ばぁばたちはマルモダンスを「早くて覚えられないわあ」と息を切らしながらも「楽しい、楽しい!」と一緒に踊ってくれていた。 イベントには、関市内だけでなく岐阜市や可児市からも参加されていた。常連さんから初参加の人、友だち同士でと様々だ。とんてん館に遊びに来るうちに友だちになるケースもあるという。 子どもたちの年齢はその日は2歳児が多かったが、2人目を妊娠中の方、生後3カ月の赤ちゃんを連れて初めて参加された方もいて笑顔のばぁばたちに抱っこされていた。 11月には芋煮会を予定しているそうでタケノコご飯やほおば寿司など、作るのが好きなばぁば手作りの食べ物を頂けるとあってお母さんたちに好評のようだ。 子育て支援の場ではあるが、ばぁばたちは近所のお世話好きのおばあちゃんといった雰囲気。すぐに「抱っこしようか?」と手を差し伸べてくれる。子育ての大先輩でもあり、皆研修を受けられているので安心できる。 レジの横には『とんてん館 安全標語』が掲げられていた。 ◇親と子へ 心を込めて 見守りを ◇手を出さず 目を離さずに 幼子に ◇良いだろう 甘い考え ぬぐい捨て 全部で8つの標語を皆で考えたという。子連れで外出すれば、母親は周りの人に迷惑をかけないように気を使うが、ここはばぁばたちも見守ってくれるので一息つける場なのではないだろうか。よく利用しているというお母さんは「ばぁばたちが覚えてくれている」と話してくれたが、子どもも気を許して遊べるところなのだろう。 館の責任者で、シルバー人材センターの理事でもある石原きぬ枝さんはこども劇場の事務局長を17年務めた経験を持つ。シルバー会員それぞれが、自分の得意分野を持ち寄っていきいきと活躍できる。だからなのか、ばぁばたちは「当番でない日もちょこちょこ来る」そうだ。 「子どもと遊ぶのは楽しいもんねぇ」と子育てばぁばの一人、山田満寿子さんが言われたが、生きがいを持つことは年齢問わず喜びとなるのであろう。 石原さんに今後の展望を聞いてみた。「今は利用者のお母さんたちがお弁当を持ってきて食べていかれるけど、とんてん館で軽食を作って出せたらいいなと思って。料理のベテランが揃っているし」ばぁばたちの夢は広がる。 |