「まち むら」116号掲載 |
ル ポ |
9年目を迎えて広がる町民節電所 |
山形県庄内町 地球温暖化対策地域協議会 |
節電は夏から冬へ 東日本大震災と原発事故は、それまで普及啓発という名のスローガンでしかなかった節電を、電力危機を回避するための社会的要請へと変えた。 震災は原発事故を引き起こしただけでなく、発電所や送電施設をも破壊し、東北電力と東京電力管内で広範な電力不足を招いた。その後、原発事故の影響から定期検査を終えた各地の原発は再稼働できず、電力不足は全国に広がった。 政府は、北海道と沖縄を除く全国に節電を要請。東京電力と東北電力管内の工場など大口需要家に15%の節電を義務づける「電力制限令」を発令し、事業者や家庭にも15%の節電を求めた。 自動車業界が休日を土日から木金に変更したのをはじめ、多くの企業が早期出勤や在宅勤務を採用。メディアは、毎日の電力供給量と消費電力量の予測値を発表し、LED電球はじめとする節電商品は大きく売り上げを伸ばすなど、節電が広く社会に浸透した。 その結果、今夏の平均気温は観測史上4番目に高かったにもかかわらず。電力10社の電力販売量は前年比で11.3%減少。東京電力と東北電力管内の減少率は16.8%と16.9%に達し、大規模停電は回避された。 11月末現在、震災前に電力供給のおよそ30%を占めていた原発の9割が定期検査後に再稼働せず、停止している。暖房需要が高まる冬を前に、政府はふたたび節電を要請。原発の割合が高い関西電力と九州電力にはそれぞれ10%以上と5%以上の節電を求め、節電は冬に持ち越されることになった。 自然エネルギー100%をめざし、節電運動を開始 こうした節電が広がる9年も前から、町ぐるみで節電運動に取り組んでいる自治体がある。山形県庄内町だ。きっかけは全国に先がけて風力発電に乗り出した旧立川町が、町内で消費されるエネルギーの100%を自然エネルギーでまかなう目標を掲げたことに始まる。 だが、町内の送電線の容量が不足していたうえ、電力会社が風力発電からの電力の買い取りを制限するなど、目標の実現には厚い壁が立ちはだかっていた。そこで、町ではエネルギー消費を増えるにまかせたまま自然エネルギーの供給を増やすのではなく、省エネによってエネルギー消費量を削減することによって自然エネルギー100%という目標の達成をめざすことにした。そして、実効性のあるしくみを模索するなかで町民節電所を構想した。庄内町環境課の橋本昌和さんは次のように語る。 「欧米では、1000キロワット単位で発電能力を表す『メガワット』に対して、『使われなかった電気』という意味の節電を『ネガワット』といいます。節電した分だけ発電所を建設する必要がなくなるので、節電には発電と同等の価値があると評価されています」 2005年、立川町が余目町と合併して庄内町が誕生すると、活動は庄内町地球温暖化対策地域協議会(温暖協)に引き継がれ、全町に拡大した。 環境と経済の両立をめざす 町民節電所には、特別な建物がない。節電の意思をもち、温暖協に登録すれば、家庭がそのまま節電所になる。節電期間は7月と8月の2か月間。町民節電所に登録すると、節電方法を例示した資料がもらえるほか、地域や団体で出前講座の開催を依頼したり、「節電セミナー」に参加して効果的な節電方法を学ぶことができる。努力の結果は電力会社の請求書で確認し、前年の請求書と比較する。 温暖協では、結果を報告した先着150世帯には町内で使える500円の商品券を、節電率の高い最優秀世帯には5000円の商品券を配布するなどの特典を用意し、意欲を高める工夫を凝らしている。会長の工藤時雄さんは、そのねらいを次のように語る。 「結果を報告するのは夏の2か月だけですが、節電は習慣化するので、1年中実践するようになります。また、商品券は町内でしか使えないので、町外で買い物をするより二酸化炭素の排出が抑えられ、地域経済の活性化にもつながる、環境と経済を両立させるしくみです」 今年初めて参加した柿崎寿一(としかつ)さんは5人家族。家族が1人増えたため、7月は昨年の消費電力量より増加してしまった。しかし、この結果を受けて一家で奮起した結果、8月には前年比10%の削減に成功した。 「昨年はクーラーを使いましたが、今年は扇風機を併用したほか、冷蔵庫の扉の開閉数を減らしました。8月の検針票を目にするまではどきどきしましたが、結果を見たときはうれしかったですね」 一方、参加9年目を迎える工藤さんは、7月から9月までの3か月間、電力だけでなく、ガソリンや水道、ガスなどの消費量削減をめざす「環境家計簿コース」の常連。昨年にはヒートポンプ式電気給湯器を、今年は電気自動車を導入したため、ガスとガソリンの消費量が電力に転嫁されて消費電力量は増加したが、二酸化炭素の排出量は減少した。 広がれ! 町民節電所 昨年までの8年間で町民節電所に参加した世帯数は1432。削減電力量は3万5692キロワット時、二酸化炭素の削減量は19.8トンになる。 今年は節電意識の高まりを受けて、参加世帯数は693、報告した世帯数は488と、ともに前年比で約4倍に増加。参加世帯数の全世帯に占める割合も10%に高まった。庄内町の1世帯あたりの家族数は3.5人なので、約2400人が節電に取り組んだことになる。 その結果、平均削減率は10.7%。削減電力量の合計は4万2143キロワット時、二酸化炭素の削減量は23.2トンと、今年だけで8年間の合計を上回る成果を上げた。 「猛暑だった昨夏に増加した家庭が多かったので、それまで蓄積した削減量を減らしてしまいました。しかし、継続は力なりです。9年間続けてきたので、今年の節電に対応できました」(工藤さん) この夏は、山形県でも6月から9月までの3か月間「山形方式節電県民運動」を展開した。滋賀県の嘉田由紀子知事とともに「卒原発」を提唱する吉村美栄子知事は、運動の開始にあたって「庄内町で取り組んでいる町民節電所を県民節電所に拡大したい」(山形新聞7月1日付)と述べ、庄内町の先見性を高く評価した。 このまま定期検査を終えた原発の再稼働にめどが立たなければ、来年5月にはすべての原子力発電所が停止し、節電社会が常態化する。これを地球温暖化を防ぐ低炭素社会に転換するチャンスにするためには、省エネの技術開発を進めながら、節電をまちづくりにつなげるしくみが必要だとして、工藤さんはこう語る。 「節電は、どんなエネルギーよりクリーンです。これからも町内の参加率を高める努力を続けながら、より多くの地域に広げていきたいと思います」 |