「まち むら」122号掲載 |
ル ポ |
新美南吉童話の里で花のおもてなし |
愛知県半田市 矢勝川の環境を守る会 |
童話「ごんぎつね」「手袋を買いに」「おじいさんのランプ」などで有名な新美南吉は、大正2年7月30日、愛知県知多郡半田町(現:愛知県半田市岩滑)に生まれた。半田市は、知多半島の中央に位置し、名古屋市からも中部国際空港からも近く、気候は温暖で、江戸中期から醸造業・廻船業を主として発展し、知多地域の政治・経済・文化の中心を担ってきた。 隣接の阿久比町との境を流れる矢勝川は、童話「ごんぎつね」で兵十がうなぎを捕っていた川として登場する。この川の堤の彼岸花の植栽をはじめとした環境美化活動を行なっているのが「矢勝川の環境を守る会」(会長・榊原幸宏さん)。 新美南吉の顕彰と彼岸花の植栽 新美南吉は病のため、昭和18年、29歳という若さで亡くなっているが、短い生涯の中で、童話・幼年童話・詩など多数の作品を遺している。しかし、生前に発表されたものはわずかで、南吉の死後、生前の師・巽聖歌らの尽力で童話集が出版され、徐々に評価が高まっていった。 童話「ごんぎつね」は、昭和31年に小学4年生用の国語教科書(大日本図書)に初めて掲載されている。この頃から新美南吉の顕彰気運が高まり、昭和36年1月に新美南吉顕彰会が発足している。昭和40年代・50年代は、養家の修復公開、岩滑コミュニティセンター内に南吉資料室を開設するなど、地域に支えられた顕彰活動が展開されている。 昭和60年から平成にかけて、「新美南吉展」「生家の復元公開」「全国巡回展」など、顕彰事業は大きな展開をみせる。中でも、昭和63年に半田市が「新美南吉記念館建設計画」を発表し、関係者の長年の思いが実現に向けて大きく動き出す。 平成2年、岩滑在住の小栗大造さん(当時、新美南吉顕彰会広報部長)が、童話「ごんぎつね」に描かれた彼岸花を植える「ふるさとづくり」を計画し、球根を集め始めた。顕彰会の広報部長であったことから、顕彰会事業として位置づけられ、7月には矢勝川堤に初めての植え付けが行なわれ、秋には約1000本の彼岸花が咲いたと記録されている。 その後小栗さんは、矢勝川堤に100万本の彼岸花を咲かせる…という大きな夢に向かって動き出す。半田市を通じ県に二級河川への植栽・堤防管理の了解を取りつけ、矢勝川土手道の葦の根を2年がかりで取る作業をしている。草刈り・植え付けには岩滑区民・事業所・小中学生も参加し、「彼岸花大作戦」が展開され、平成5年の秋には25万本が開花する。 新美南吉記念館の開館、矢勝川の環境を守る会の発足 新美南吉記念館は「ごんぎつね」の舞台である中山に建設され、計画の発表から6年後の平成6年6月に開館。隣り合う「童話の森」は、中山様のお城があったと伝えられる場所で、北に目をやると秋には彼岸花が咲く矢勝川が、その奥阿久比町には権現山が見える。この年の秋の彼岸花の開花は、50万本に達している。 彼岸花の植栽活動の賛同者が増えた平成7年12月、新美南吉顕彰会事業「矢勝川堤の景観整備事業」の推進を図ることを目的とした「矢勝川の環境を守る会」が発足し、小栗大造さんが初代会長に就く。現在、小栗大造さんは顧問として会の活動を見守り、2代目会長の榊原幸宏さんが活動を牽引している。 会員のみなさんは15名ほどで、平日の午前中、植栽や除草活動をしており、彼岸花のほかにも、近くの休耕地を借りて、ポピー(4月〜5月)、マツバボタン(7月〜8月)、コスモス(8月〜10月)、菜の花(1月〜4月)など四季の花を育てている。南吉童話の里は、一年中花で楽しめ、リピーターへとつながっている。 案内所の開設そして秋まつりへ 矢勝川堤の彼岸花は、新聞・テレビでも紹介されるようになり、会員は、平成10年から彼岸花の開花時には、東橋(ごんの橋)の南にテントを張り、案内所を開設している。この年、2週間ほどの開花時期に5000人ほどの来場があり、会員は、会の活動を紹介するチラシを配布し、来場の方々に新美南吉のふるさと岩滑の様子をお話しするなどのおもてなしを続けた。 小栗さんが球根を集め始めてから10年目を迎えた平成11年の秋、100万本の彼岸花が開花する。その後も植栽の拡がりとともに毎年来場者は増え、幹線道路の渋滞、駐車場等が課題となっていった。 平成20年からは、2代目会長の榊原幸宏さんが実行委員長となり、地域・NPO・行政・観光協会等も参画し実行委員会を構成し、「童話の村秋まつり」と名付け、お休み処・シャトルバスの運行・PRポスターの作成などを行なうようになった。 矢勝川の環境を守る会の会員は、秋まつり期間も変わることなく早朝から活動を開始し、案内所のテントに立ち寄るみなさんの質問に応えたり、道案内をするなど、ふれあいの時間を大切にしている。案内所で人気になっているのが、会員のひとり三井みな子さんがコツコツとつくり、この期間限定販売しているペットボトルの彼岸花。 岩滑地区は、ゴミの分別・防災で全国的に評価の高いコミュニティ活動をしている。そうした住民の意識の高さと彼岸花に因んだお土産があると…が形になり、赤・黄・白のペットボトル彼岸花を販売している。ペットボトル彼岸花片手に矢勝川堤を散策するお客様の姿もあり、売上は会の貴重な活動資金として還元されている。 新美南吉生誕百年を迎え 「童話の村秋まつり」が始まり、新美南吉生誕百年の声が聞かれだした頃から、隣接する阿久比町側の矢勝川の土手にも彼岸花を咲かせ、市町の境で途切れることなく矢勝川堤を花で飾ろうという活動が始まった。矢勝川の環境を守る会は、阿久比町のみなさんの声を受け止め、球根の手配、植栽の応援などサポート活動をしており、「矢勝川の環境を守る阿久比地区会」という団体も発足している。 本年5月には、恒例となった阿久比町の社会を明るくする運動の一環として、地元の中学生が彼岸花の球根の植栽に取り組む姿があった。半田側の堤では、半田ライオンズクラブの会員さんが、矢勝川の環境を守る会のみなさんに手ほどきを受けながら球根の植栽を行った。 例年、秋の彼岸から2週間ほど開催される「童話の村秋まつり」は、「新美南吉生誕百年ごんの秋まつり」と改称し開催される。実行委員長を担う榊原幸宏さんは、「童話の村秋まつり=彼岸花のイベントとして衆知されてきたが、子どもたちも知っている「ごんぎつね」の名前に変え、南吉さんのふるさと、南吉童話の原風景がある岩滑に来ていただき、彼岸花、新美南吉記念館の展示、童話の読み語り、そして地元の人々の触れ合いを楽しんでもらえる秋にしたい」と話している。 そして榊原さんは、「自然は生きているので開花の時期も色合いも決められませんが、あるがままの姿を愛でていただき、「彼岸花に近づきたいから」とか「写真を撮るために」というような理由で踏み荒らさないでもらえれば」と締めくくった。 |