「まち むら」125号掲載
ル ポ

外国とつながりのある子どもたちの学習をサポート
広島県東広島市 こどものひろばヤッチャル
多国籍の子どもたちが集う学習支援教室

 インドネシア、中国、フィリピン、ベトナム、ケニア、ブラジル、ペルー、インド…これは放課後、宿題や勉強道具を持って集まってくる子どもたちとつながりのある国々である。日本で生まれた子、外国で生まれた子、母語が日本語の子、そうでない子。子どもたちに共通しているのは、親が研究や仕事のために帰宅が遅かったり、日常生活レベルの日本語は話せても学校の宿題までは教えられなかったりするため、自宅学習を一人ですることが難しいということだ。
 そんな子どもたちの駆け込み寺が、広島県東広島市で「こどものひろばヤッチャル」(以下、ヤッチャル)(代表・間瀬尹久さん)が開催している子ども(※注)のための学習支援教室「にほんごひろばU18」(以下「にほんごひろば」)である。「U18」とは、対象年齢がアンダー18、つまり18歳以下という意味だ。教室では日本語以外にもいろいろな言語が飛び交う。
(※注 基本的に小学1年生から18歳までを対象としている)

来たい時いつでも来ていい子どもの交流の場

 週1回、10人ほどの子どもたちが教室にやって来る。支援するスタッフ10名は教員経験のある日本人や、近隣にある広島大学の学生や留学生たちだ。真剣な顔つきで勉強を教えてもらう中学生、宿題は早々に終えて仲間と遊ぶ小学生、友だちと近況報告にいそしむ女の子たち。ここは来なければならない場ではなく、来たい時いつでも来ていい場であり、勉強しなければならないという緊張感はない。日本人や同じ境遇の子どもと出会い、会話を楽しみ、仲間作りをする場でもある。「やっていることは『ゆるい』。その『ゆるさ』を大切にしていきたい」と話すのは、発足当初から関わっている副代表の奥村玲子さんだ。
 日中、子どもたちは学校で、聞き慣れない日本語での授業を聞くともなく聞く。周りに自分を理解してくれる人もいない。心細さになんとか「耐え」、帰宅する。そんな毎日の中で、家庭以外の「ありのままの自分」を受け入れてくれる場はやはり居心地がいいのだろう。ここの子どもたちはどの子も笑顔なのだ。

きっかけは外国籍児童の親からの要望

「夏休みに漢字教室があればいいのに」。外国籍児童の親からの切実な訴えを受けた行政と連携し、教室をスタートさせたのが2010年。通常の活動に加え、夏休みは週3回ほど開催している。東広島市には4429人の外国籍住民が住み(2013年12月末)、同市全人口に対する比率(約2.4%)は県内でも高い。
 ヤッチャルの役割は学習支援だけではない。学校や勉強、進学、生活全般について、子どものみならず親からも相談を受ける。また、社会見学や体験学習などを取り入れ、子どもたちが外に出て、地域と交流を持ったり、体験学習をしたりする機会も作っている。さらに、市民・大学生ボランティアにとっても、多文化に触れ、子どもたちとの相互理解を図る中で自らの成長の場となり、「勉強になる」との声も聞かれる。
 これまでに訪れた子どもたちは、15か国に渡る。小・中学校に通う子どもが多いが、うまくなじめず、不登校になる子どももいる。また、中学卒業後、日本語が十分ではないため高校に行かれず、仕事にも就けず、宙ぶらりんな状態になる子どももいる。そんな子どもたちに、これからどんな人生が歩みたいのか、そのためには今何をすべきなのかを、自分で見つけるために、そっと寄り添うのもヤッチャルの重要な役割だ。

支援を受け、成長を続ける子ども

 中国から来たキ シコウ君(16)は、今でこそ明るいが、半年前まではその表情は暗かったという。3年前、日本で生活していた母親に呼び寄せられるかたちで広島へ。「にほんごひろば」との出会いは、それから1か月後。中学3年に転入したものの日本語が分からず、「授業中、寝てたこともあった。1週間に2、3日しか行かなかった」と当時を振り返る。
 卒業後は、進学も就職もせず、自宅で時間をやり過ごす毎日。「にほんごひろば」からも足が遠のいた。1年半が過ぎ、ようやく始めたバイトは、工場での立ち仕事。単純作業を続けていくうちに、将来について考え始めた。本当にやりたいのは、これじゃない。やりたことをするためには、やはり高校に行かなければ…そんな思いが無気力だった彼を揺り動かし、高校進学に再挑戦しようとする意欲がわいた。しかし、「家で一人でできない」。真っ先に思い浮かんだのが「にほんごひろば」だった。「ここしか(相談できる所は)ない」と思ったという。現在は受験に向けて猛勉強中である。夢を描き、目標に向かう彼の顔は活き活きと輝いている。
 昨年12月のある日、突如、彼が四角い箱を持って現れた。「おれの給料で買ったんだよ」と、小さな、しかし誇らしげな声で差し出したのはクリスマスケーキだった。「みんなに食べてほしかった。先生は忙しいのに毎日、ここに来る私たちに教えてくれる」と、記者だけに漏らしたのは、感謝の言葉だった。自分のことだけでも精いっぱいのはずなのに、世話になった人への気遣いを忘れない彼の優しさを感じた。

目指すは自立、そして巣立ち

「将来的には、ここに来なくても自分でやっていけるようになってほしい」ほぼ毎日のように「にほんごひろば」以外でも子どもたちと接する奥村さんの切実な思いだ。支援が良い意味で必要でなくなる、つまり、自立するということに他ならない。そのためには行政との連携をより密にし、ここの活動や子どもたちに対する地域住民の理解を得ることが必要不可欠だ。
 ヤッチャルの支援を受け、ベトナムから来日1年で高校受験を突破した八城拳君(17)がつぶやいた。「ここは大事な場所」自宅が遠くて来られない子や、ここにもなじめない子がいるだろう。子どもたちの支えとなる場所が市内各所で増え、全ての支援がそれを必要とする子どもに行きわたるよう心から願う。