「まち むら」126号掲載
ル ポ

次世代を想い、次世代へ贈る、集団移転の挑戦
宮城県気仙沼市 小泉地区の明日を考える会
集団移転のトップランナー

 宮城県気仙沼市小泉地区は、被災間もない2011年4月に「小泉地区の明日を考える会」を結成した。同時に、同会が事務局となり集団移転協議会の準備委員会を立ち上げ、住民意向アンケートを自ら実施し、跡地利用も含めた住民間での合意を進めてきた。2011年6月5日には「小泉地区集団移転協議会」を設立し、被災直後の避難所生活の中で100世帯を超える地区住民の意向を集約、移転先の土地の候補を決めた。同年7月以降、協議会による住民ワークショップが隔週で開催され、その成果の移転計画はそのまま事業化されることとなった。2013年6月には造成工事の着工へとこぎ着けた。
 これまでの小泉地区の活動は、集団移転のトップランナーとして評されることが多い。だがそれは、決して大臣同意や造成着工が一番乗りという意味ではない。集団移転へ向けて被災住民が自発的に活動をスタートさせた地区は他にも少なくはなく、事業スピードだけでいえば小泉地区よりも進んでいる地区はいくつもある。小泉地区への国内外からの高い関心は、集団移転計画における住民の主体性、事業計画における住民の主導性である。


まちづくり体験型講座

 小泉地区は、震災前からの強い住民同士のつながり、コミュニティの復元力(レジリエンス)を持っていた。小泉コミュニティとしての結束力の強さが早期の集団移転への決断を可能とし、小泉地区の人々が「まちづくり体験型講座」と呼ぶワークショップの運営と持続の原動力となってきた。ワークショップにおいて常に中心に定めてきたのは、小泉コミュニティとは何かである。例えば初期の段階では、「小泉地区のよいところ」「よいところを引き継ぐアイデア」などのお題で、各々の思いをポストイットに書き出しながら、地域での共有価値を丁寧に確認してきた。その確固たる地域の価値基準のもと、集団移転先の宅地計画の骨子をまとめた。そのプロセスは、書籍『大好きな小泉を子どもたちへ継ぐために─集団移転は未来への贈り物』(2013年7月)にまとめられている。
 移転先の宅地計画は、向こう三軒両隣の関係を重視するクラスター形式が特徴である。かつての小泉の人々の日常的な交流を継承することを意図したものであるが、どの区画へ誰が入るのかは、将来の近所づきあいのあり方に大きく関わる。例えば「新町・中町・下町の振興会3組織があるじゃないですか、それで団地に全世帯が行くわけではないので、新町のTさんのところだと8世帯かな、だとすると、(8世帯で)同じブロックに入ったらいいんじゃないか」といった議論が、区画決めの際に行われた。小泉地区がこれまで醸成してきたコミュニティを引き継ぎながら、それを新しい関係として再構築していくことが、住民の中で強く意識されている。


小泉というアイデンティティ

 小泉地区は、合い言葉である「集団移転は未来への贈り物」のビジョンを一度も見失うことなく、現在も協議会事務局のリーダーシップのもと、小泉コミュニティの再生へ向けて邁進している。「ご近所さんが決まったことで、実際に移転した後はどのような生活をしようか、クルドサック(袋小路状)の道路の部分で、近所で集まって焼き肉をしよう、などの話が出ている」といった、新しい生活への夢を語る声は多い。
 しかし、被災から3年が経った現在、小泉地区といえども課題を抱えていないわけではない。例えば、集団移転への参加者が大臣同意を得た時点に比べ大きく減っていることもその一つである。実際、集団移転希望者の減少と災害公営住宅希望者の増加に対応すべく、着工後も設計変更に追われていた。また当然、小泉地区の被災者全員が集団移転に参加するわけでもない。被災エリア外で以前から所有していた土地に家を建てる人や、当初は集団移転に参加予定であったが様々な理由で自力再建を選択する人もいる。「集団移転した人たちと個別に家を建てた人たちとの関係が気がかりです。どっちが正しいとか答えはないので。関係をどう作っていくのかが難しいと思っています」との声もあるが、集団移転に参加しない被災者の多くは集団移転地の近くでの再建を進めている。事業に参加するか否かにかかわらず、小泉の人々は集団移転地を核とする新しい小泉の姿に大きな期待を寄せている。


株式会社・明日を考える会

 最近の画期的な展開は、被災直後から地域を牽引してきた任意団体の小泉地区の明日を考える会が、株式会社化したことである。その中心的な目的は建築協定の運用にあるが、大きな目標でいえば、小泉コミュニティのサスティナビリティの実現である。被災地の中には、震災前からすでに過疎化が進んでいた地域も少なくない。小泉地区もその一つである。そのような小泉が集団移転までして持続するためには、相当の知恵と努力が必要である。
 具体的には、防災集団移転の住宅建設にかかわる資材等の一括発注や商業施設・メガソーラーの誘致などの検討を進めている。前者については、明日を考える会を含めた地元工務店でJV(共同企業体)を結成した。明日を考える会が住宅建設に関わる相談窓口となり、各工務店や関連業者との連携をはかって中間マージンを工夫し、資材の高騰や職人不足といった中で可能な限りアフォーダブル(入手しやすい)な建設環境を整えることを目指している。
 自分たちが構想した住環境を維持・管理し生活し続けるためには、現実的にはやはりお金が必要である。小泉の人々には、自分たちで飯を食っていかなければならないという自覚と覚悟がある。株式会社の明日を考える会が様々な公共・民間事業に対して主体的に参画することで、小泉地区の復興まちづくりが実利的にも地域へ還元される仕組みが模索されている。