「まち むら」127号掲載 |
ル ポ |
NPO活動の新しい分野を切り拓く―指定管理施設の外部評価― |
秋田県由利本荘市 NPO法人矢島フォーラム |
NPOはボランティア活動と重なるものが多い。また、被災地支援に見られるようにその活動は現場主義である。NPOが行政や企業では対応しきれない第3セクターでの問題解決を期待されていることの表れでもあるが、しかし社会構造や経済システムを変えないと解決しない課題もある。社会の仕組み作りにも参画するNPOもあってよい。NPO法人矢島フォーラム(理事長・太田良行さん)は、政策提言などNPOのシンクタンク機能を果たすべく活動している。 これまでの活動 矢島フォーラムは地域の活性化を目指すNPO法人として2006年に設立された。地域づくりを主に活動しているが、一方で自治体やNPOの施策、事業を評価し、ときには代替案を提言する、政策提言活動にも力を注いでいる。 2009年には秋田県の国際交流政策のなかの「多文化共生」に関わる施策・事業を外部評価した。県内に住む外国人に対して地域住民と等しいサービスと情報提供が行われているかどうかを評価し県に答申しただけでなく、市民を対象にシンポジウムを開催し、また新聞に論考を発表して成果を公開した。在住外国人に対するヒアリングのなかで、自分たちを被対象者としてのみ扱わないでほしい、自分たちも地域住民として地域づくりに参加したいという意見は印象的だったと太田理事長は言う。2010年には県内の大学生・大学院生に呼びかけて「政策評価研究会」を立ち上げ、勉強合宿や外部評価の専門家を招いて研修会を実施した。 由利本荘市は平成17年の合併で誕生した新市だが、住民主体の事業を応援する「地域づくり推進事業補助金」制度がある。毎年70を超える団体がこれを活用している。矢島フォーラムは、補助金を活用している団体がそれぞれの成果と課題を市民に公開する場を設けることを直接市長に提言した。これは「由利本荘市地域づくり推進フォーラム」として毎年開催されている。 湯沢市ふるさとふれあいセンターの外部評価 秋田県湯沢市岩崎地域には「湯沢市ふるさとふれあいセンター」がある。同センターは平成20年に竣工、新施設は指定管理期間5年で岩崎地区自治会議に委ねられた。2011年矢島フォーラムは自治会議の要請を受け、同センターの外部評価を実施した。 a 指定管理者 指定管理とは、公共の施設を民間組織が経営することで、行政コストの縮減を図ると同時に利用者へのサービス向上が制度の狙いになっている。指定管理者となった岩崎地区自治会議は、「岩崎モデル」と呼ばれる独自の自治会活動40年の歴史をもつ、市内の先進的自治組織だ。 自治会議は、公共施設としての適正な管理と運営レベルに自己限定することなく、進んで参加・協働の意義を問い、利用者のサービス向上、情報活動の充実を目指して、センターを管理運営してきた。 b そもそも評価とはなに? 評価の手法として一般に行われているものは、事業計画や施設の利用目的に照らして、それが十分に達成されたかどうかを確かめることだ。評価項目は評価の目的によって多岐にわたるが、指定管理者の場合は公共の施設という性格から、経営、保守、安全などその管理運営が適切に行われたかという評価項目が多くなる。一方で指定管理者が自発的に行うさまざまなイベントや運営上の工夫は、評価項目には盛られないのが普通である。これらはいわゆる自主事業であって、いわばやってもやらなくてもいいものだからである。 ところが、指定管理者は自主事業の方も評価してもらいたい。自分たちの熱意と創意と工夫を盛り込んだのが自主事業だからだ。自治会議は、子どもからお年寄りまで世代間交流を目指した「みんなであそばねガー!」、地域の子どもたちをひとり残らずほめる「子ほめ運動」など独自な事業を次々と考え出し、継続していた。 c 基準は満足と共感 これらの事業は、「自主」的であるがゆえに、評価の基準や観点は新たに考え出す必要があった。それぞれの事業のいちばん特徴的なところを映し出す工夫が評価には求められた。基準を利用者及び地域住民の満足と共感に置き、平等性、有効性、効率性、経済性、自主性という五つの観点を定めて、上記の二つの事業を含む五つの自主事業が評価の対象となった。外部評価の長所は、当事者がやれば身内に甘い自己評価との批判を避け、また自治体がやれば評価外に置かれてしまう事業を客観的に評価できる点にある。 評価は5段階ランクやABCで表記されるが、これは達成度をわかりやすく表示するためであって、単に○×式に採点してほめたりダメ出しするものではない。評価の本来の目的は、よい面があればそれをさらに伸長し、期待にかなわなかった点があればどうしたら改善できるか、PDCA(plan-do-check-action マネージメントサイクル)に活かすことにある。 外部評価で成果を共有 外部評価は評価それ自体が目的ではない。評価の客観性にこだわると評価対象事業を固定して定量的に評価したくなるが、それでは外部評価の特性が削がれる。評価される組織の特徴がもっともよく表れる事業を評価することにこそ外部評価の意義があると太田理事長は言う。 「評価のメリットは事業効率を明確にすることにあります。企業なら赤字黒字がいやでも明らかになりますが、NPOの場合ボランティアというフィルターがかかるために、成果が努力に見合ったものであったかどうかがチェックされずに終わっている場合が多い。そのため、やりっぱなしと自己満足に終わってしまう傾向にあります。NPOには主体性と独自性を視野に入れた業績を引き出す評価手法が用意されなければなりません」 評価は、される側だけではなくする側にとってもメリットがある。批判することではなくどうしたらもっとよい成果を上げられるか、また成果が上がっているものについては、それをほかのNPOと共有するのが評価の狙いでもある。評価によるニーズの発見、新しい気づきは、評価をされる側だけでなく、これを公開することで評価者を含めたNPO全体の資産にもなるのではないだろうか。 NPOへの外部評価はまだ例外的なものにとどまっている。評価コスト、人材不足、ノウハウの未蓄積など課題は多い。しかし、地域のNPO力を高めるためにも「シンクタンク機能をもつ」NPOが存在している意味は大きい。 |