「まち むら」135号掲載
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地域に必要なサポート機能を創り出す
東京都世田谷区 NPO法人せたがや福祉サポートセンター
 NPO法人せたがや福祉サポートセンター(通称NPOリンク、以下リンク)は、「世田谷を暮らしやすいまちにする」をめざす活動を20年以上続けている。地域に暮らす多くの人をつなぎ、ネットワークして、主体的に様々な機能を創り出している。
 東京都世田谷区は90万人が住む大きなまち。そこで、1996年に「3人集まって、自分たちの居場所を作りませんか」という呼び掛けをしたのが、高齢者交流会「ひこばえ」の始まりだ。
 リンクの代表・光岡明子さんは「今でこそ、地域の居場所とか、高齢者交流会という言葉は当り前のように使われていますが、20年以上前に自らの意思で集い、支えあいの拠点づくりをすると言っても、なかなか理解してもらえませんでした」と振り返る。
 当時、福祉はまだ措置の時代で、高齢者は誰かの世話になるものという発想の福祉政策が打ち出されていた。光岡さんは「それに異議を唱えたのが私たちでした。高齢になっても住みなれた地域で尊厳をもって、自分らしく暮らしたい。そのために創り出した、世話する人とされる人という関係ではない地域の支えあいのシステム、それがひこばえです」と言う。
 リンクは、地域の人にひこばえづくりを呼び掛け、個人宅や都営住宅の集会所を会場に、集まった人たちが昼食を共に作り一緒に食べ、おしゃべりしたり、趣味を楽しんだりして過ごす現在のミニデイの前身のような場をつくり上げていった。現在、ひこばえは区内18ヵ所あり、「歩いて行ける地域に、世代を超え、男性も女性も、世話する・されるではない関係をつくる」をモットーに、自主的に多彩な活動を展開している。
 注目したいのは、リンクはひこばえの活動をサポートしながら、もっと多くの人が参加できるようにするには制度化が必要だと、世田谷区に政策提案などを行ったことだ。この居場所づくりの活動は2000年に世田谷区の制度に位置づけられ、世田谷区社会福祉協議会の活動として、サロンには1回1000円、ミニデイには65歳以上の参加者に250円の補助が出るようになったのだ。今では、世田谷区全域に800ヵ所を超えるサロンやミニデイができている。

男性の登場は「おとこの台所」から

 世田谷には、人気の料理サークル「おとこの台所」がある。家に引きこもりがちなリタイアした男性の「たまり場」をつくろうと2003年に3人で始めた活動だ。
 この活動も「男だけのひこばえ活動」として、リンクが生み出したもの。光岡さんは「地域にいるのは男女半々ですが、男性は地域でつながる術を持っていない人が多いです。ひこばえは順調に増えていったのですが、男の人の顔がなかなか見えてこなかったのです。地域活動に男性が参加するシステムをつくるのには時間がかかりました」と話す。
 2001年、リンクは世田谷区ボランティア協会の研修生として男性3名を受け入れ、半年間の調査活動を共に行った。調査終了後、集った仲間にひこばえの立ち上げを持ちかけた。リンクがサポートし、2003年に立ち上がったのが「おとこの台所」である。今では区内に9ヵ所の活動拠点があり、300人以上のメンバーが参加している。会の紹介には「不得手な料理が上達し、地域に仲間を作って、各種のレクレーションを企画・実施するなど、楽しく活発に活動しています。介護予防にも役立っています」と書かれている。「おとこの台所」は男性の地域デビューの受け皿として、大きな実績を上げている。

高齢者が安心して暮らせる地域づくり

 ひこばえやおとこの台所で出会う人も含めて経験豊かなシニアボランティアの力を地域のたすけあいに活かそうというシステムが「世田谷たすけあいネット」だ。それを光岡さんは「元気な高齢者がちょっと弱った高齢者を支える地域づくり」と呼ぶ。
 週1日「無料相談サービス」では、困りごとや悩みごとなど、何でも無料で応じ、情報提供などをする。また、日常生活を支える「出張サービス(交通費として1回1000円)」も請け負っている。庭木の枝落しと枝の整理、重い家具の移動、緊急の通院付添など、介護保険ではカバーできない暮らしのサポートだ。一人暮らしや老々介護の高齢者には「ちょっと手をかして」に、応えてくれる地域の人の応援が生活の質を高め、手助けする方も活動することで元気になり、人にやさしい地域づくりが広かっていくのだ。
 さらに、世田谷たすけあいネットは世田谷区住宅課とも協働し、定期的な見守りや声かけ、区営住宅の安否確認なども行っている。

心の不調を抱えた時の居場所

 さらに、リンクでは近年問題になっているこころの不調を抱える人や家族が気軽に集える居場所づくりも展開している。2010年に世田谷区の「こころの健康政策構想会議」に参加して他団体と連携し、2012年にこころとからだを元気にするための活動拠点「ここからカフエ」をオープンさせた。毎月第3土曜日に、ゲストスピーカーの話を聞く他、様々なプログラムが組まれている。リンクは事務局を担当し、光岡さんは「安心して暮らしたいと思う多くの人の居場所ですから、ここからカフェは19ヵ所目のひこばえです」と話す。

「世田谷型子ども食堂」を広げたい

 2015年に始めた「子ども食堂」をリンクでは地域の子どもと働く親の居場所づくりとして、運営のサポートをしている。光岡さんは「多世代が出会い、一緒に食事する居場所も地域には必要です。それに食事づくりは任せてほしい(?!)と思っているおとこの台所のメンバーがたくさんいます。高齢者が支援する世田谷型子ども食堂を広げていきたい」と話す。各地域での「おとこの台所」と「子ども食堂」のタイアップのような居場所活動の展開が、地域の中でお互いが支えあう本当の意味での地域包括ケアのシステムに育っていくことが期待される。
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 2016年度は「日常生活支援総合事業」にたすけあいネットのメンバーが参加し、要支援1、2の人も参加する「地域デイサービス」をひこばえグループが担っている。
 リンクは「市民もボランティア団体も区も会社も施設も医療機関も、大胆かつ自由にリンクして、世田谷に地域で支えあう新しいシステムをつくりましょう」と呼び掛け、20年以上活動している。
 常にたくさんの人を巻き込んで、一歩先を見据え、「地域で支えあう」ということの実態を創ってきたリンクの活動の今後に注目したい。