「まち むら」136号掲載 |
ル ポ |
子ども育ち・子育ては地域づくり!―「学び合い塾」生活学校の活動家ら― |
福岡県春日市 NPO法人子育てネットワーク春日 |
子どもは地域で遊び・学ぶ権利がある NPO法人子育てネットワーク春日(現代表理事・森山久子さん)は、1997年神戸の少年Aの残虐な事件をきっかけに1998年準備会として発足し、学び合い塾は2003年から活動を行う。立ち上げた初代代表理事の近藤幸恵さんに全容を伺った。 地域の教育力の崩壊と言われる中、子どもの塾通い、ゲームの普及などで子どもは家庭にこもり、地域に子どもの姿が見えなくなった。地域のおじさん、おばさんに叱られて善悪を学んだ時代がはるか遠くに感じる社会背景だった時に事件が起きた。大人たちは「ますます子どもが分からなくなった」と嘆くばかりで策を講じる術さえ見当たらずおろおろしていた。 「子どもは地域で遊び・学ぶ権利がある。地域をつなぎ、子どもを育むシステムを再構築する必要がある。おじちゃん、おばちゃんの無関心は子どもを不幸にする。私たち大人は子どもの生きる権利を保障しなければならない。子どもはいつの時代も本気で向き合ってくれる大人の存在を求めている。だから活動を始めた」と発足理由を熱く語った。 学び合い塾のコンセプトはハードルが高い コンセプトは、自然体験を通しての「大人との出会い」「地域を越えた子どもの出会い」が子どもの成長を健やかにし、創造性を培い、「人」を学ぶ。 @ 次世代のリーダー育成及び青少年健全育成を目指します。 A 子ども自らの疑問、質問には真剣に応え、子どもの考えや意見を尊重し、自主性を大切にします。 B 五感を使った自然体験活動を通し、生命や自然の不思議さや大切さを学びます。 C 子どもがホッとでき、お互いが認めあえる空間を作ります。 以上のように高いコンセプトを掲げ、子どもと本気で向き合うことを約束し、決して大人の考えを押し付けない。大人も子どもも成長し合う貴重な活動である。 子どもの興味関心が一番強く、心が解放できる自然体験活動を行うことにしたが住宅地で自然が少ない春日市では活動場所探しは毎年苦労をする。 家庭ではできない活動で自己解放と豊かな自己実現を! 活動は年間6回〜7回。いずれも子どもの育ちに必要と思われることをスタッフで十分検討を行い決定する。子どもの一番人気は「秘密基地づくり」であり、毎年恒例の活動。また、大学講師や専門家に講師をお願いし、歴史や自然の不思議、大切さ、自然と人とのかかわりなどを本格的に学ぶ。学びが終わると子どももスタッフも思いっきり遊ぶ。これが大人と子どもの距離を近づけ信頼関係を育む基になる。 「子どもに正面から挑んでいくスタッフは素敵です。こんなスタッフだから子どもは安心と信頼で満ち、キラキラと輝いた子ども本来の姿を見せます。この子どもの姿がスタッフの活動の源になります」と目を細くして近藤さんは語る。 活動内容は、絆の大切さと暗闇体験を学ぶ鍾乳洞のケービング、観察&泥んこ遊びの干潟観察、歴史と水の大切さを感じる源流探しの小石原(福岡県東峰村)へ行こう、時計がなくスケジュールの全てを班で計画し協調性を育むサバイバルキャンプなど非日常的で家族ではできない体験。塾生は軽度の学習障がいを持つ子どもの参加もあり、個性豊かな塾生たちであるためトラブルはつきもの。スタッフの力量が問われる。また、感情を豊かにするために五感を使うことを意識し活動を行う。さらに、毎回活動のまとめを文章で表現させ、表現力をさらに引き出していく。 塾生の約束は親子の自立のための約束 募集は春日市全域の小学校4年生から中学生まで30人(延べ500人参加)。対象者を4年生以上としているが、思春期の子どもたちは家庭からの自立に目覚める時期である。また、専門的知識の習得も十分可能である。さらに、子どもも真剣勝負ができる。真に向き合う専門家と大人に触れ合った子どもは強くなれると考えている。申し込みは本人の意思確認のため、子ども自身が申し込む。 学び合い塾の約束は @ 挨拶ははっきりとしましょう。 A 時間は守りましょう。 B 忘れ物をしないようにしましょう。 C 自分のことは自分で。送り迎えは自分で頼みましょう。(保護者は頼まれない限り行わない) D 欠席・遅刻は自分で連絡をしましょう。(熱があっても自分でします) E弁当は自分で作りましょう。 F 活動に必要と思う物は持ってきてもよい。 当たり前の約束であるが現代社会の子どもにとっては、ハードルが高く、守ることが難しい。活動はあくまで子どもの自主性を尊重するものであるため、親は子どもの発信を黙って見守らなければならない。ある意味、親の我慢が必要とされる。活動の最後のまとめの会で、親子で成長を確認するのがスタッフの楽しみである。 スタッフの活動の源は子どもが心を解放した時の輝き スタッフの登録者は15名ほど。遊び心がある大人を募集し、現在は小学校教諭、会社員、パートなど全てのスタッフは仕事をしている。ほとんどが元塾生の保護者であり、活動に意義を感じ長年スタッフとして活動。また、卒業生である子どもが高校生スタッフとして関わっている。これは嬉しい成果である。 スタッフは子どもの可能性を丁寧に引き出すために毎回、丹念な下見や打ち合わせを行う。また、活動の目的や確認、さらに子どもの個性に合わせた導きや助言を確認する。活動終了後も助言が適切であったか振り返りを行い、次の活動に結び付ける。この振り返りが子ども一人一人に向き合う活動につながる。なかなか大変なことである。また、このことが子どもの心の解放と活動の空間と権利の保障につながり、スタッフの成長になる。学び合い塾はスタッフにとっても出会いの場と共に成長の場となっている。スタッフは子どもだった頃「近所のおじちゃんとおばちゃんに叱られた」と思い出を語る。地域の一員として、このホッとした温かい思い出を子どもに与えたいと頑張っている。 |