「まち むら」70号掲載
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高齢者生きがいセンター「正田の館」が完成
山口県山口市 小鯖地区自治会
 高齢者の生きがいと世代交流などを目的にした高齢者生きがいセンター「正田の館」が、山口市小鯖(おさば)地区に完成した。地区のほぼ中央部分に位置する標高110.6メートルの正田山のふもと。真新しい館を拠点に、お年寄りたちは囲碁や俳句など趣味の活動をスタートさせ、楽みながら交流の輪を広げている。正田山のふもとは、小学校、幼稚園、出張所、公民館、郵便局など公共機関が集まる場所でもある。
 小鯖地区は、山口市内を流れる椹野川の上流部にある。山口市と防府市と結ぶ幹線道路の国道262は約7キロにわたってほぼ真っ直ぐに地区内を貫き、国道沿いには様々な商業施設が並ぶ。しかし、幹線道路を少し外れると、ほ場整備を終えた田園地帯が広がり、発展する街の姿とともに中山間地域の様相を強く残す地区だ。神社仏閣や景勝地など、今後の観光開発が期待される地域資源も多く残されている。人口は約5200人、そのうち約1000人が65歳以上の高齢者。ここ約20年の間に、他の都市にも見られるようなスプロール化で宅地開発が進み地区外からの転入者も多くあった。


設計案まで住民で描いて

 高齢者生きがいセンターは、山口市が1996年から市内に16地区ごとに1か所ずつ建物を建設する事業として進めている。高齢者の生きがいを創出し社会参加をうながし、子どもたちを含めた様々な世代の人々を結ぶ交流拠点だ。小鯖より先に建設した3地区は高齢者が集う交流の場とともに、ニュースポーツや折り紙教室など独自の事業を考えながら子どもたちとの交流方法も模索している。高齢者だけが利用する施設にしないという考え方は、活用の幅を広げる上で重要だ。
 「正田の館」は市内で4番目に建設された高齢者生きがいセンター。山口市が計画をスタートさせた年に地区内で話が持ち上がり、地区自治会や地区社会福祉協議会、子ども会などの代表27人で建設委員会を組織。市に建設を要望するとともに、建設場所の選定を進め、部屋の購成案を練り上げた。「よその地区の施設と同じようなセンターの建設はやめよう」と考え、設計案まで描いた。設置の検討を始めた当初から、行政任せでなく地域住民主体の取り組みを貫いたと言える。
 建設場所を決めると、自治会が中心となって寄付を集めて土地を購入。山口市が5000万円を助成して建設した。今年3月完成、4月1日開館。敷地面積991平方メートル。木造平屋建て、延床面積141.514平方メートル。和室は10畳と7.5畳の2部屋、その他ホール、調理室、事務室を備えている。車椅子のお年寄りが出入りできるよう玄関前までゆるやかなスロープを設け、男女トイレとも大きなスペースを確保。部屋はできるだけ広い空間を確保しようと、出窓を取り付けた。玄関を入って両側には、地元の人が寄贈した小鯖産のヒノキの柱が使われている。
 名称は自治会広報誌で募集した。約100点の応募があり、そのうち「正田」の名称が含まれたものが6点あった。名称を決める際、新しく転居して来た人からも「正田という名称を知らない人はいない」という発言があり、「正田の館」に決めた。昭和36年に作られたという小鯖小学校校歌にも「正田の森の花かげにまりもみんなでつきました」と、「正田」の文字がある。正田の森こそ、地域のお年寄りたちが小さい頃遊び回った場所であり、胸に刻んだ遠い日の思い出を今も重ね合わせる正田山である。


子どもたちとの交流拠点に

 建物の管理と事業は地区社会福祉協議会が行う。土曜日と日曜日は開館、月曜日を休館としている。現在は、囲碁や将棋、フォークダンス、お茶、編み物など趣味のサークルが利用したり、老人クラブが会合を開いたり、市の健康相談が行われている。開館間もないことから、生涯学習の拠点となっている公民館で行っていたサークルの活動場所を変えただけという見方もあるが、今後、地区自治会も支援しながら様々な交流活動や高齢者の生きがいづくりにつながる活動が打ち出される見込みだ。
 地区内で採れる竹を使った竹炭作り、あるいは陶芸活動を始めようと、地区自治会が準備を始めている。正田の館の計画当初から設置に向けて中心的役割を果たした志熊玄雄小鯖地区自治会長(65歳)は、このほど開かれた竹炭作りの講習会に参加した。講習を終えると早速、竹炭を焼くドラム缶を手配。竹の水分が少なくなる夏を待って、子どもたちと一緒に挑戦する予定だ。また、正田の館に陶芸用のロクロを回す作業場を作る準備も進めている。志熊会長は「これまでは高齢者が幼稚園や小学校に行って、子どもたちに竹馬作りなどを指導してきた。これからは子どもたちが正田の館に来て、インターネットのような新しいことを高齢者に教えるといったことも考えられる」と話す。
 志熊会長によると、建設場所として当初、現在地以外の候補地も上がっていたが、中心部に建設しなければ多くの高齢者が利用するのに不便だと、地区中心部への建設を強くうながしたという。出張所や公民館から正田の館までの距離は150メートルほど。出張所の隣に小学校があり、小学校では毎年、冬の寒い時期に竹馬大会を開いている。この時使う竹馬作りに一役買ってきたのが地区のお年寄りだ。お年寄りと子どもたちとの交流が小学校行事を支えていると考えれば、正田の館と小学校との関係の在り方も、今後一つの研究課題となりそうだ。


地域の可能性を広げる起爆剤に

 また、志熊会長は「正田の館」の活動を、地域活性化という大きな構想の中でとらえている。小学校、幼稚園、出張所、郵便局など公共機関がある地区中心部に、にぎわいが創出されると、広く地区全体の活性化が期待できる。地区中心部に集まった人たちが、景勝地である鳴滝一帯に完成間近の鳴滝公園や、地区内の神社仏閣などに足を運ぶようになる。進む道路整備も睨みながら、小鯖地区全域アピールにつなげたいという。昨年、子どもたちに呼びかけて、正田山山頂にある上水道貯水タンクに描かれた、鳴滝や小鯖神楽の絵に色を塗った。今年は鰹のぼりも掲揚した。国道を通って小鯖に入って来た人が正田山を見上げたとき、「珍しいものがある。変わったものがあると意識してもらえれば」と志熊会長は話す。
「正田の館を色々な行事に使っていきたい」という言葉は、小鯖地区全域を見渡した大きな構想実現のための出発点でもある。正出の館、そして正田山を中心とした中心部の公共施設、そして地区内全体に点在する地域資源。「前に動きだすことによって物事は実現する」という志熊会長の言葉。正田の館の活動は、地域の新たな可能性を広げる起爆剤としても期待されている。