「まち むら」75号掲載
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「かかし」で地域を活性化する
山梨県韮崎市 平成かかしカーニバル実行委員会
 甲府盆地の北西部に位置する山梨県韮崎市。宝塚の創設者として知られる故小林一三氏の出身地であり、サッカーの中田英寿選手が高校時代を過ごしたまちでもある。市の北西部には円野町という地域があり、釜無川を水源とし、日本三大堰にも数えられる徳島堰の水を利用した良質な米の産地として知られている。


一地区の小さなイベントから始まる

 円野町では毎年夏代、下円井地区にある水田を会場に「平成かかしカーニバル」というイベントが開かれている。中田選手をはじめ、大リーグの野茂英雄投手やオウム真理教(アレフに改称)の麻原彰晃被告、ガングロの「ヤマンバ」など、その時々に活躍した著名人や話題になった事件の中心人物、時代を反映したかかしが水田の周りに並ぶ。
「作品」のジャンルも政治、経済をテーマにしたものから、社会現象をとらえたものまで幅広い。いろんなアイデアを凝らしたユニークなかかしが飾られ、写真撮影に訪れるカメラマンの姿も目立つ。出展するグループも地域や職場の仲間同十六親子などさまざま。毎年楽しみにしている人もいて、地域にとっては夏の風物詩になっている。
 カーニバルに関連したイベントとして、出展作品の出来映えを競う「かかしコンクール」や写真コンテストも開かれている。コンクールの入賞グループを表彰する「犬祭典」の日には、会場に売店が出て、地元の農作物や特産品の販売が行われる。
 イベントを主催しているのは地元住民でつくる平成かかしカーニバル実行委員会だ。円野町には4つの地区があるが、そのうち約40世帯の宇波円井地区が1994年に地域活性化を目的に開催したのが始まり。3回目の96年からは上円井、下円井、大戸野の3地区の住民も実行委員会に参加し、円野町全体のイベントに発展した。
 実行委員会のメンバーは約70人。区長や公民館長ら地区の役員が兼務しているため、役員が代わるたびに実行委員会のメンバーも代わる。兼務にしているのは、地域全休をイベントに巻き込もうという狙いがあるためという。


観光バスのツアーコースにも

 最初のカーニバルに出展されたかかしは31体。イベントが年々注目されるようになってからは出展作品も増えた。途中で一時的に減ったこともあったが、昨年は約210体が出展されるまでになった。かかしの出展数が増えただけでなく、昨年は県外から観光バスがツアーコースの1つとして訪れるようになった。
 観光バスの乗り入れは実行委員会にとって悲願だった。実行委員会のメンバーは「将来は観光バスが来るまでにしよう」とよく話していたという。観光バスの乗り入れは1地区の小さなイベントが大きなまちおこしのイベントヘと変化していった証として受け止められている。メンバーはこの成果を励みにイベントをさらに発展させようと意気込みをみせている。
 イベントはカーニバルの事務局長を当初から務めている韮崎市職員の真壁静夫さんが宇波円井地区の公民館長を務めていた時、公民館活動を充実させようと考えたのがきっかけだった。真壁さんは「親子映画会」のような単発の公民館活動にとどまらず、地域活性化につながるイベントに取り組もうと地域住民に提案した。しかし、「この地域には観光資源は何もない」として、年輩の人は乗り気ではなかったという。真壁さんは「何もないと諦めてしまっては物事が進まない」と考え、「米どころ」という地域性を生かして、かかしをテーマにしたイベントを仲間と企画、スタートさせた。イベントの名前に「平成」と付けたのは、「単に昔を懐かしむだけでなく、世相を反映した現代的な要素を盛り込みたかった」(真壁さん)ためだ。
 実際にイベントを始めると、マスコミが話題として取り上げたことも手伝って、周囲の理解が得られるようになってきた。一方で、住民の中にはイベントに協力的ではない人もいて、年によってはカーニバルに任意参加になった地区もあるなど、すべてがうまく進んだわけではなかった。しかし、これまで続けることができた要因として、真壁さんは「地域住民に趣旨を広く理解してもらい、みんなで取り組もうという姿勢ができたからではないか」と指摘する。
 イベントが大きくなるのに伴って、観光客の受け入れ態勢の充実をはじめとする課題も浮上してきた。昨年、県外の旅行会社からカーニバルをツアーのコースに組み込みたいとの要望があり、ツアーだけで約一万人の観光客が見込まれた。そのため、住民有志が実行委員会の取り組みとは別に「ふれあいかかし市組合」を設立した。


農産物や「かかし人形」の販売も

 実行委員会は従来通りかかしの募集などの実務を担当。組合は実行委員会と連携しながら、会場に出店する売店の募集に関する業務など祭りに伴う商業活動を担当した。こうした取り組みの結果、従来は「大祭典」の日だけに出店していた売店を、昨年はイベント期間中の約一か月間を通して出店したり、カーニバルの開催期間も例年より延長するなどスケールアップにつなげることができた。売店の出店期間が長くなったため、販売する農作物を遊休農地で栽培する動きも出始め、遊休農地の解消にも役立っている。
 イベントの規模拡大への収り組みのほかに、売店で販売する商品に工夫を凝らそうという取り組みもあった。これまで地元産の農作物をメインに販売していたが、一昨年のカーニバルでは地域の婦人グループが「かかし人形」を70個試作して販売した。かかし人形はトウモロコシの皮を材料に作った小さな人形で、すべて手作り。売れ行きが良かったため、昨年は量を大幅に増やして約500個作ったところ、前年に続いて完売となった。
 地元婦人会が作り、カーニバルがスタートした時から販売している「かかし汁」も人気商品の一つだ。地域で援れた米で作った三分粥に、みじん切りにした鳥肉のささみやニンジン、マメなどを加えている。しようゆで味付けを施すなど工夫を凝らした名物は「大祭典」の日だけに販売されている。
 今年は8月26日から9月16日まで開催。9月9日には会場近くの山をハイキングするイベントも計画し、「かかし」以外のイベントも新たに盛り込んでいる。財団法人地域活性化センターが後援になったほか、同センターの長寿社会ソフト事業として認められ、活動費の補助金を受けることができるなど、規模拡大に向けた取り組みが着実に実を結んでいる。年々イベントを発展させようと、実行委員会の取り組みは今後も続く。