「まち むら」76号掲載
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「子どもの目を生き物に」を合い言葉に
群馬県伊勢崎市 殖蓮地区自然環境を守る会
 伊勢崎市民憲章の一つに「自然を愛し、住みよい環境のまちをつくりましょう」と定められている。
 心豊かで住みよいふるさとを築くため、お互いに努力し、協力していくみんなの目標として定められているこの憲章にぴったりの活動に力を入れている団体、それが『殖蓮(うえはす)地区自然環境を守る会』(会長・下城茂夫さん)である。
 殖蓮地区は、伊勢崎市を八つに分けた地区の一つで、その中には15の町内があり、7000世帯、約21000人の住民が暮らしている。
 同会は、もともと釣り好きの仲間が集まって、サケの受精卵を取り寄せて、飼育放流をしていたのがはじまりであったが、現在では実行委員として20名ほどが中心となって活動をしている。
 平成4年に、殖蓮公民館主催の「環境講座」の受講生が主体となり、前会長故馬場昇氏の熱心な働き掛けにより、正式団体として発足した。
 地域子ども育成会・PTA・メダカクラブ等の協力のもとに、地元区長会、市内ライオンズクラブやロータリークラブの資金援助を受けている。現在は「こどもの目を生き物に」をメインテーマとして、種々の活動を精力的に行っている。


サケの飼育で友達との話題も広がる

 サケの孵化・飼育・放流事業として、毎年12月に子どもたちにサケの卵を配布して、各家庭で約2か月半、飼育観察をさせる。その間、子どもたちは卵のイクラからサケの赤ちゃんが出てくる『生き物の神秘』を観察し、その成長を気遣い、元気な姿を喜び、死を悲しみ、思いやりの心を体得する。
 また、その間、サケの飼育を通して、家族や友だちとの共通する話題となり、家族や友だち同士の交流がはかられるのも、大きなメリットとなっている。
 各家庭で大切に育てられたサケの稚魚は、毎年3月の第1日曜日に地元河川の粕川に放流する。このサケの稚魚の放流式には、毎年、天候に左右されることなく500人以上の親子が集まり、大きく成長したサケに別れを告げる。「もっともっと大きくなって帰ってくるんだぞ」「元気でね!」「なにごとにも負けずにがんばれ!」とわが子を旅に出すような気持ちで、また会えることを祈りながら川下を見つめている親子。少し寂しい気持ちを我慢しながら元気に送り出している。子どもたちはこれらの体験から、川に関心を持ち、川を汚さないように、自然と注意をするようになる。


調査を通じて自然の大切さを知る

 人が現代社会の中で、子どもから大人へと成長し、充実した毎日を送るためには、卵から稚魚になるまで大切に育てられたのと同じように、恵まれた環境と大きく健全に育つための自然環境の大切さ、社会環境の大切さを、親も教えられる。
 平成5年からは、市内粕川9地点の水質調査を年4回実施、平成7年から、夏期休暇中に小学生を集めて、水生生物調査学習を行った。
 飼育して川に放流したサケが元気に育つためには、川の水がきれいでなくてはならないことを学習した子どもたちは、水質調査をした結果、川を汚さないようにしなければならないことを強く心に止める。水生生物の調査では、自分たちで採取してきた川の水を、顕微鏡で覗き、自分たちの川に住んでいる生物を知り、この生き物のためにもやはり水をきれいにしなければならないと考えた。また、「お父さんが子どもの頃には、もっといっぱいいろんな生き物がいたんだよ」と聞くと、「水がきれいになると帰ってくるかもしれない」と考え、やはり自然環境の大切さを痛感する。
 この活動を通して、平成10年には粕川流域環境団体に呼びかけ、活動報告交流会を開催し、粕川村、宮城村、赤堀町、伊勢崎市、境町の21団体の名簿を作成し、その後の活動に大いに役立てている。
 また、平成11年からは、「子どもの目を生き物に」のテーマのもと、地元の二つの小学校全校児童に調査用紙を配布して、夏休み中に見つけた生物を調査し、絵に描いて提出してもらう。その調査書「生き物見つけた」を町内ごと・種類別に分類し集計して報告書を作成配布している。
 県流通園芸課の調べでは、利根川を遡上するサケが3年ぶりに増加、今年はすでに455匹が遡上、昨シーズンを上回っているという。県は11月18日、利根大関でサケに音波発信器を取り付け、産卵場所などの追跡調査を実施している。『殖蓮自然環境を守る会』も、他のサケの稚魚放流活動を行っている民間の団体と一緒に、サケの遡上の増加を願った。
 同会が発足して今年で10年、これを記念して今年は教育委員会を通じて、市内の小学校14校に呼びかけて、今年は8校の参加が予定されている。


戸外で遊ばない子どもたちに向けて

 最近の子どもたちは、昔に比較してみると、自然に接する機会が非常に少なくなっている。戸外で子どもたちが群れて元気に遊んでいる姿など、ほとんどないと言っても過言ではないほどだ。子どもは自然の中で遊びながら色々なことを体得していくものである。
 地域で子ども向けの野外イベントを企画しても、人を集めることに苦労しているのが現状だという。
 親は自分の生活に忙しくて(?)、子どもを戸外に連れ出して一緒に遊ぶ親は非常に少なく、学校の先生も休日に生徒を戸外に連れ出すことなどもちろん期待できないし、要求も筋違いである。
 その点、殖蓮地区では、子ども育成会組織が子どもをしっかり把握した上で活動しているので、子どもたちも親も双方が、喜び協力して数多くの活動に参加していることにつながっている。
「子どもの目を生き物に向けることは、子どもたちが自然に関心を持つ有効な手段だと思います。とくに、実体験として『自分で育てる』ことはおもいやりの心を持つ人格形成に非常に良い影響を与えるものと確信しています」と下城会長は話している。