「まち むら」79号掲載
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行動する団体として、空港誘致、短大支援、民話の絵本づくりと多彩な活動を展開
秋田県大館市 大館まちづくり協議会
 秋田県大館市―、県庁不在地の秋田市から北へ車で2時間半、青森県境と接する人口6万7000の県内第二の中核都市だ。県北部を横断する米代川の中流に位置し、世界最大のブナ原生林で世界遺産に指定されている白神山地を仰ぎ見ることができる。
 かつては金、銀、銅の生産で全国有数の鉱山町、天然秋田杉の集散地として栄えた。そして、東京・渋谷駅前の忠犬ハチ公の生誕地として知られる秋田犬の本場だ。また、秋田杉の柾(まさ)目を生かした伝統工芸品の曲げわっぱ、日本三大地鶏に数えられる比内鶏をベースにしたきりたんぽも有名だ。どの一つをとっても秋田を代表する。


行政と協働してまちづくり事業

 そんな大館市も、今は元気がない。基幹産業であった鉱山が枯渇し、秋田杉も伐採し尽くして久しい。
「何とかして大館に元気を取り戻そう」―、大館まちづくり協議会は平成元年4月15日に組織された。現在の会長は丸山芳也さん(49)。会員数は個人170人、団体40。地域活性化、まちとくらし、市町村合併など七つの委員会に分かれ、“今、市民がしなくてはいけない”ことをテーマに勉強会を続けている。
 初代会長の伊藤碩彦さん(60)は発足当初を振り返る。「当時は青年会議所と市が共催して3年ほどまちづくりシンポジウムを開催していた。しかし、提案は毎回いっぱい出るけれど、言っているだけで一歩も前に進まない。これでは困る。具体的に行動する団体か組織が必要だということになり大館まち協が設立された。青年会議所のメンバーが中心でした」。
 伊藤さんが発案した“具体的に行動する団体”は、大館まち協の規約にも明記されている。そして、この行動力が会の最大の特色となって今も生きている。とくに行政のまちづくり事業には、市民団体として積極的にものを言い、積極的に行動している。その典型的な事例を空港誘致、短大支援活動、そして現在推し進められているエコタウン事業についてみてみたい。


空港誘致で30万人の署名を集める

 大館能代空港(愛称・あきた北空港)は県が設置運営する第三種空港として、平成10年7月に開港した。県内二つめの空港。高速道からも、新幹線からも取り残された県北地域の住民にとって、まさに悲願だった。現在、東京、大阪ヘ1日6便が就航している。
 大館まち協が、まだ海のものとも山のものともつかない空港誘致の署名活動を始めたのは平成2年1月。最初は大館市内の2か所で行ったが、次第に反響を呼んで能代市、鹿角市、鷹巣町と県北一円に広がってゆく。最終的には30万人の署名を集め、大館能代空港を国の第6次整備5か年計画に組み入れさせる結果となった。各市町村長や商工会議所などを訪れて署名運動の協力をお願いしたことが忘れられないと多くの会員が語る。翌8月には開港を記念してヨーロッパチャーター便「交流の翼」を飛ばしている。「せっかく空港が出来たのだから、世界に開かれた大館を実感したかった」と、チャーター便実行委員長を務めた丸山芳也さん。中高生17人を含む117人が参加した。
 大館桂城短大が同学したのは、8年4月。県と大館市、運営母体となる秋田経済法科大学の三者協議で設置された。県北は大学・短大の空白地域で、市民にとっては待望の高等教育機関といえる。地域社会学科、看護学科、人間福祉学科で構成され、定員は192人。巨大曲げわっぱをイメージした円形の大教場がひときわ目につく。
 この短大設置にも、大館まち協は積極的に関わってゆく。“若者が集う街、大館”をスローガンに商工会議所とタイアップ。短大の運営基金として「5億円募金活動」を展開する。「桂城短大は大館の学校、そんな土着意識を市民に植え付けたかった」。期間は1年だったが、市民の関心は高く最終的に募金は6億円を超えた。
 県北地域一帯は国のエコタウン指定を受けている。この中でとくに注目されるのは大館市と小坂町のリサイクル・マイン・パーク事業。かつては全国有数の鉱山地帯だったが、山の灯が消えて久しい。ただ、小坂精錬と花岡鉱業(大館市)の施設はそのまま残っている。これを利用してリサイクル産業をおこそうというもの。これまで地中から金、銀、銅などを掘り出していたのを、自動車や冷蔵庫、テレビなどの廃棄物を鉱山に運んで分解。金、銀、銅、スズなどを分別抽出する。現代では、“大都市こそ鉱山”。市では、これらのリサイクル事業を21世紀の基幹産業と位置付けている。
 しかし、市民の間には反対意見も根強い。「オレたちの町をゴミの山にするのか」。大館まち協でも平成9年からリサイクルとまちづくりに取り組んでいる。環境・リサイクル委員会(福原淳嗣委員長)は勉強会を重ね、市民が参加したシンポジウムも開催した。公害・環境保全について活発な意見が出された。住民が納得する環境リサイクル都市構想は、市民の目線で集約されてゆく。


ハチ公を縁に渋谷区民と交流

 ここまでは行政との関わり、ハード面からみてきた。それではソフト面、市民サイドに立った活動はどうだったのか。
 大館が忠夫ハチ公の郷里であることは前にふれた。毎年4月8日には渋谷と大館駅前でハチ公慰霊祭が行われる。この全国ブランドのハチ公をまちおこしのテーマにできないか。平成6年は戌年にちなんで「わんわんサミット」を開催した。それまでもシンポジウムは3回開いてきた。サミットでは新たにイベントを合体させた。1週間の会期中ハチ公の写真展示や犬のしつけ教室、秋田犬ふれあいコーナー、犬のグッズ展示もあり、県外から訪れた人も多かった。シンポジウムでは、講師にハチ公の飼い主だった上野英三郎博士の孫にあたる三重県在住の上野一人氏が招かれた。実行委員長を務めた佐々木公司さん(55)の夢は、「世界最大といわれる英国バーミンガムのクラフトドッグショーの日木版を大館で開く」ことだ。
 このハチ公を縁に渋谷区との交流も活発だ。夏休みに小学生を大館に招待して地元の小学生と交流させたり、渋谷区民祭に参加して大館の特産品をPRした。
 昨年は“もっと足元を見つめ直そう”と二つの事業を実行した。地元に伝わる民話を絵本にしたのだ。絵本『大館の民話』を開くと大館弁、標準語のほか英語でも記載されている。メーンの絵も会員が描いた。2年がかりの制作で、150冊を市内各小学校に寄贈した。また、米代川の“舟運”が盛んだったころの船着き場と町中心部を結ぶ途中にあった坂道の歩行坂(かちざか)に標柱を設置、町の歴史に関心を持たせた。


市民の目線で中心商店街の活性化を

 丸山会長は「今年はどこでも乗り降りできるデマンドバスの運行、公衆トイレ改修工事の募金活動、そして何よりも衰退著しい中心商店街・大町の活性化に取り組みたい。どの事業も行政や企業の協力が不可欠だが、市民一人ひとりのまちづくりへの問題意識を大切にしたい」。大館まち協の活動が大館の元気を生み出す。