「まち むら」81号掲載 |
ル ポ |
地域住民のコミュニケーションをつなぐ黄色いかごの自転車 |
千葉県・市川市 コミュニティサイクル『フレンドシップ号』 |
「誰でも、自由に使っていいですよ。しかも、乗り捨てOK!」 そんな自転車コミュニティサイクル「フレンドシップ号」が、平成14年4月27日(土)から、千葉県市川市にある営団地下鉄東西線行徳駅に登場した。 千葉県市川市は東京都内に勤務する人々のベッドタウン的存在。営団地下鉄東西線南行徳駅・行徳駅・妙典駅、JR京葉線市川塩浜訳利用者の住む、いわゆる『行徳エリア』は大型マンションが林立。転勤族も多く、住民間のコミュニケーションが欠けがちだ。 「自分の住む街への愛着がない」―そのことが生む弊害は大きい。大きな問題の1つが、駅周辺の放置自転車の多さ。とくに、行徳駅・南行徳駅周辺は放置自転車の台数が全国でもトップクラスだ。 その対策として引き上げられた放置自転車の保管引取り料金は現在、4千円。その高さから著しく引き取り率は低下した。(平成10年度、60%以上だったものが平成13年度は30%以下)破砕台数は市内年間で2万台にものぼる(下表参照)。
コミュニティサイクルは、行徳地域の放置自転車問題の打開策として、コミュニケーションの活性化の担い手として、NPO法人青少年地域ネット21(理事長・花崎洋さん)が主体となってスタートさせたのだ。 市放置自転車対策課に自転車の提供をかけあい、市公園緑地課や営団地下鉄には自転車置き場としてのスペース提供を願い出た。ここ数年増え続けている自転車窃盗件数減少の期待から、行徳警察署へも協力を呼びかけた。 企業には「自転車に広告を掲示しませんか」と呼びかけ、その広告料金が運営費に当てられることになった。ちなみに、広告料金は登録料5千円、月額広告料が2千円となっている。 NPOは運営を担当、市は自転車や場所を提供、企業は自転車に広告を掲示することで資金提供。地域ぐるみでタッグを組んでスタートを切った。 この自転車はどこから? 通常、撤去された自転車は、告知後、6か月を経て引き取り者が現れない場合には、市に所有権が移転する。そして、一部リサイクル業者に無償で提供するが、結局、破砕処理され、ゴミとなってきたのである。 フレンドシップ号は、市に所有権が移った自転車のうち、充分使えるものを譲渡してもらい、整備して利用されている。 利用方法は簡単! この自転車は鍵がついていないので、身分を証明する必要もなく、誰でも自由に乗れてしまう。 乗車可能エリアは江戸川と東京湾と浦安市に挟まれた、市川市行徳管内。そのエリア内の、駅をはじめとした公民館や公園などの公共機関のほか、承認された店舗などの自転車置き場に乗り捨てることができる。 さらには、通勤・通学時など駅から家へ利用することも許されている。しかし、一般の路上に放置することや自己所有は禁止されている。 きちんと使ってる? 問題と実状 スタートして数か月後には、「鍵をかけて私物化」、「空気を抜くイタズラ」、「指定場所以外の放置」が増えてしまった。このことへの対策としては、鍵がとりつけられている場合には強制的に外し、壊されている自転車は修理または回収している。 大きな問題としてあげられるのは、行徳管外からの「引き取ってほしい」という多数の通報。東京都千代田区、千葉県松戸市、鎌ケ谷市、東西線西船橋駅、JR舞浜駅などから連絡が入っている。コミュニティサイクルは遠出にも利用されてしまうようだ。 カゴ部分には、指定の自転車置き場や通報先などが明記されている。 「自転車を共有している」という心のつながり 朝の通勤時間帯、地下鉄から降りてフレンドシップ号に乗る人と、フレンドシップ号を降りて地下鉄に乗る人とで自転車を直接バトンタッチする場面がある。ほかの街にはない不思議な光景かもしれない。 コミュニティサイクル利用者に声を聞くと「勤め帰り、行徳駅から駅前公園まで使っています。腰痛がひどくて、歩くのが辛いので便利です。近所の人にこの自転車に乗っているのを見られるのは、まだはずかしいですね」(福栄在住・66歳男性) 「重い荷物がある時に利用します。スーパーの前に置いて買い物してたら、なくなっていて残念でした。夜、タクシーの列が長いので、女の人が乗っていけたらいいですね(行徳駅前4丁目在住・30代女性)」 小学生が自転車をペインティング―環境学習として 「放置自転車の活用」という環境学習の一環として、地元の小学生がフレンドシップ号のペンキ塗りを体験している。 同NPOから事前に環境問題と放置自転車問題に関する講習を受ける。放置自転車は撤去され引き取り手がいないと破砕処分にされること、市川市では引き取りに4千円かかること、リフューズ・リデュース・リユース・リサイクルの言葉の説明やその意義について学習したうえで、ペンキ塗りに挑む。 小学生たちは、「この自転車がゴミであることには、べつに何も感じない。実感がわかない」「まだ使えるのにゴミになっちゃうところだったなんてもったいない」など、各々の思いを抱きつつ、「自分の塗った自転車が行徳中を走るなんてうれしい」「ペンキを塗るのは楽しい。これが授業だなんて最高!」などと楽しみながらの授業となることが多い。 「ゴミになる寸前だった自転車に、子どもたち自身が手を加えるということで、自転車問題などに自然に意識を向けるきっかけになればと期待しています」と教員。 そろそろ、丸1年を迎えるフレンドシップ号。人手が不足していて運営側の負担が大きいことや広告収入が見込めなくなってきているなど、数々の問題も出てきているよう。 人口15万人の行徳でこれからどんな存在となっていくのだろうか。 |