「まち むら」87号掲載 |
ル ポ |
住み慣れた地域で生活したい」というお年寄りの思いを支援する |
北海道滝川市・ライフサポート運営委員会 |
お年寄りたちが安心して住み慣れた地域で安心して暮らしてもらおうと取り組む組織「ライフサポート運営委員会」が、北海道滝川市滝の川町を中心に積極的な活動を展開している。行政サービスの手が届がない日常の生活支援を、同じ地域に住む住民の手で補う「住民助け合い」の取り組みで、新たな生活支援の仕組みとして道内各地でも注目を集めている。純粋なボランティアではなく、支援に対して利用者がお金を支払うシステムのため、「気兼ねなく気軽にお手伝いを頼むことができる」と利用者からも好評だ。お年寄りの自立促進だけでなく地域で活躍する人材の育成や住民同士の交流促進にも大きな役割を果たしている。 家に閉じこもりがちなお年寄りを戸外に 北海道らしいさわやかな天気に恵まれた七月二十五日、同市内の中心部から北寄りに位置する滝の川運動公園に二十四人のお年寄りと十三人のサポーターの姿があった。この日は、ライフサポートが取り組んでいる事業のひとつ「高齢者サロン」が初めて野外で行なわれた。 高齢者サロンは、家に閉じこもりがちなお年寄りが外へ出てもらうきっかけづくりと、交流を目的に企画している。毎月一回、ライフサポートの活動拠点である北地区公民館で開催しているが、今回は「日常では難しいことを体験してもらおう」(今野栄司事務局長)と野外での実施を決めた。 ライフサポートが活動している滝の川地区は、およそ八百世帯の古くからの団地と農村が混在する地域。長年、同地区で生活する住民も多く、高齢化と離農者による地域人口の減少が地域の問題となっている。 お年寄りが自立した生活が難しくなり、地域外の家族や病院、施設へ移り住んでいく現状の中、滝の川東地区連合町内会では、平成九年度に滝川市が進めていた北地区ノーマライゼーションエリア推進事業に多くの会員が中心メンバーとして参加していた。 連合町内会の組織として誕生 同事業は心身に障がいを持つ人の住みよい地域づくりに取り組むものだったが、地域としてお年寄りが住みにくくなっていた現状から、バリアフリーを障がい者だけでなく、高齢によって体が不自由になるお年寄りヘの対策として考え、平成十一年九月に準備会を発足。視察や資料調査などを経て約一年半後、当時の佐々木武連合町内会長へ提案し、お年寄りの生活支援策が了承された。 平成十三年五月、同連合町内会の下部組織としてライフサポートが設立。「お年寄りに住み慣れた地域、家で生活したいという想いを支援しよう」(今野事務局長)をモットーに生活支援活動を始めた。 支援内容は、ライフサポートに登録した比較的若い住民が、サポーターとしてサービス利用者の自宅を訪れ、さまざまなお手伝いをする。掃除や洗濯、買い物、食事づくりといった「家事サービス」、話し相手や薬の受け取り、散歩の介助など「介護サービス」、庭木の手入れや草刈、畑おこし、豪雪地帯に特有の力仕事である除排雪など「労役サービス」といったサービスメニューをそろえた。平成十五年六月からは、同地区の七十五歳以上の住民を対象とした高齢者サロンも始めている。 特徴は、無償のボランティアではなく、利用者に小額のサービス利用料の支払いを求めている点。基本的に一時間八百円をサービス利用者から受け取り、作業を行なったサポーターと会運営へ分け合う仕組みだ。滝の川町の中山安恵さん(82)は「この年で男手がないので冬囲いや庭の剪定で助かっています。業者さんよりもお安いですし、ボランティアよりも気楽に頼めるので助かっています」と喜んでいる。また「生活支援を長く続けるためにもサービス利用者にも会運営負担をお願いしています。短期間で事業を止めるわけにはいかない」(今野事務局長)との側面もある。 着実に伸びる利用実績 約八か月の運営となった初年度は三十七件、五十時間の利用があったが、二年目の平成十四年度は五十七件、 百十七時間、平成十五年度は百三十三件、四百七十四時間と飛躍的に利用実績を伸ばしている。サポーターも初年度二十六人から平成十四年度二十八人、同十五年度三十一人、同十六年度四十一人と徐々に増加し、地域の関心も高まっている。 ライフサポートの運営は、サービス利用者からの利用料のほか、上部組織である滝の川東地区連合町内会と構成する町内会から年額計四万一千円の負担金を受けているほか、社会福祉協議会などの助成金を得て活動している。地域のお年寄りの生活支援を進めることで、各町内会の会員である住民の福祉向上、人材育成につながっている。町内会が主催する敬老会開催にもライフサポートが全面的な協力も行なっている。町内会サイドは、住民間の連絡網の形成やサービス利用の呼びがけを行ない、相互に助け合いの構図が出来上がりつつある。 ライフサポート運営委員長で、現在同連合町内会会長も務める泉田千一さんは「地域の福祉向上に貢献している自負はある。生活しやすい町内の実現につながっているのではないでしょうか」と話す。 初めて野外で実施した高齢者サロンでは、元気に歌をうたったり、多くの参加者が初めて体験したというスイカ割りに挑戦。ひととおりゲームやレクで流した後は、会員手づくりの昼食を味わい、ピクニック気分を満喫。サービス利用者もサポーターもみな美顔を見せていた。 中山さんは、「サロンも毎回来ていますが楽しいですね。お話し相手もいて、すぐにお友だちもできます」と話す。また、同町の佐藤庄三郎さん(74)、千枝さん(68)夫妻は「毎回、違うゲームを考えてくれて楽しませてくれます。スタッフに感謝したいですね。こうした組織があると将来に心配がありません」と、現在では生活支援の必要性はなくても将来への安心感を口にする。 自立した組織を目指し賛助会員制度を設ける 近年では一連合町内会の取り組みであるライフサポートの活動が、市内のみならず全道的に評判を呼んでおり、全道町内会役員研修会での活動報告や石狩市、北広島市、名寄市、帯広市、十勝管内の音更町と大樹町から視察に訪れている。 住民に支持され、市内外からも注目を集めるライフサポートだが、課題は「リーダー育成」にあるという。今野事務局長は「いつまでも私たちができるものではないので、中心メンバーに若い人をいれていこうと考えています。利用者と支援者のコーディネートのできる人材育成が急務ですね。だだ、若い人は仕事を持っている人も多くて参加が難しい現状があります」と話す。 また、「今は町内会からの負担金をいただいていますが、将来的には負担金がなくても運営できるシステムづくりが必要です」(泉田運営委員長)とし、自立した組織づくりを目指した一口千円の賛助会員の募集も始めている。七月十六日現在では三十人の会員が集まった。 将来にわたってライフサポートが、文字通り地域住民の生活を支援するためにはまだ課題が残っているが、徐々に三十、四十代のサポーターの参加も増えてきている。昨年十一月から参加している上野康子さんも「ほとんどが会ったことのない方々でしたが、お手伝いしたことで、道で会ってあいさつをする方が増えました。サロンに子どもを連れてくると、みなさんがかわいがってくれるんです」と、お年寄りの生活自立に加え、地域住民の世代間交流をも生み出している。 順調に利用やサポーターの増加を見せているライフサポートだが、ほかの町内会でも同様の活動を立ち上げようとする動きは見られない。小額ながら金銭の授受があるため、ライフサポートのシステムを敬遠し、無償のボランティアに価値を見出す市民も依然多い。このため新しい時代の地域福祉システムとしてのアピールや賛助会員の増加が、活動の持続と拡大、さらにはほかの町内会独自の取り組みへつなげるためにも求められている。(空知新聞社・丸岡宣久) |