「まち むら」88号掲載
ル ポ

1本の電話から始まった町内の高齢者支援活動
山口県岩国市・装束ボランティアの会
 50年ぶりの架け替えで話題になった五つのアーチ橋、錦帯橋がある街、山□県岩国市。市の北の端にあるのが人□1560の装束町だ。すぐそばにコンビナートが建ち並び、その向こうは広島県。目の前に瀬戸内海が広がり、大型トラックが行き交う国道2号線をはさんで後ろは山、そのわずかな平地や山際に家が建ち並んでいる。JR岩国駅から車で約10分の距離だが、路線バスは1時間に1、2本あるかないか。車を運転できないお年寄りには不便な場所だ。ここに地域の困り事は地域で解決しようという「装束ボランティアの会」がある。


困ったときはお互い様

 「装束ボランティアの会」の最初の呼びかけ人で代表である村岡恒信さん(65)は、少年のような笑顔が印象的な方。「困った時はお互い様!」が合言葉というこの会を立ち上げる最初のきっかけは、一人暮らしの83歳のお年寄りからの膝が悪くゴミ出しができないので近所の人で助けてくれる人はいないかという電話だった。村岡さんの気特ちに火がついた。「そうだ!住民同士が助け合う、ボランティアの会を作ろう!」。
 このように村岡さんが考えたのは、長く心の中で温めていた「思い」があったからだ。その「思い」は平成7年に起こった阪神大震災でのあるエピソードを聞いたときに生まれた。震災後に「淡路島の北淡町は、地震発生後まもなくから住民の安否確認を始め、夕方4時には全員の安否確認ができた。それほど早く確認が取れたのは、日ごろから地元消防団や、自治会と近隣の住民のコミュニケーションが良くとれていたからだった。隣のおばあちゃんが家のどこに寝ていたかなどを日ごろから良く知っていたので、家が崩れてもどこを捜せばいいかすぐにわかったのだ」という話を聞いた。村岡さんは「北淡町は住民同士の連帯感が強く、安心して住める町に違いない。自分たちの町もそうありたい」と強く思っていたという。


子ども時代の遊び友だちに声をかける

 装束地区は60歳以上が住民の3分の1以上。今住民同士が連帯し助け合う体制を作らなければ近い将来みんなが困るという危機感もあった。さっそく呼びかけたい人たちの顔が浮かんだ。それは、子どもの頃一緒に野山を駆け回って遊んだ仲間たち。そんな仲間たちも定年退職を迎えていた。装束地区は1丁目から5丁目まである。1丁目、4丁目、5丁目に1人ずつ、2丁目、3丁目は住民が多いので2人ずつ選んで声を掛けた。「こんな事やって大丈夫か?」という声もあったが、「いいことだから是非やろう!」と、みんな二つ返事で引き受けてくれた。そして、男性ばかり8人の発起人が集って、平成13年9月1日「装束ボランティアの会」がスタートした。
 まず、会設立のお知らせとボランティア募集のため「ボランティアニュース」を発行し全所帯に配布した。その中で「この会は『一人暮らし』や『高齢の方』『身体が不自由な方』はもとより、地域に住む皆さんの中で『手助けして欲しい』ことがあった時にみんなでお手伝いをする自主的な会です」と会の主旨を示し、「活動内容は、話し相手・簡単な修理・ゴミ搬出・草刈り・重い物の移動・病院への随行・囲碁、将棋の相手・電球の取り替え・パソコン指導・その他、『これなら自分にもできる』『こんなことが手助けできる』『特技はないがみんなと一緒にやれる』『知恵なら貸せる』『都合のつく時だけならやれる』など何でも結構です」とボランティア参加を呼びかけた。それだけでなんと30人以上が登録してくれた。住民の気持ちも村岡さんと一緒だったのだろう。そして本格的な活動が始まった。
 住民がボランティアを依頼するときは、まず各丁内にいる会の代表世話人に依頼する。すると世話人とボランティアが同行して依頼者から話を聞く。その上で自分たちにできること、できないことを判断して依頼者に伝える。たとえ、自分たちにできないことであっても、どうすればいいか一緒に考え、他の関係機関に連絡をとるよう努める。依頼者から謝礼を出されても受け取らず、依頼されたこと以外はしない。依頼内容は口外しない。ご近所同士だからこその徹底した姿勢がそこにある。


会の成功の秘訣は、何があっても皆で力を合わせて頑張ろう!という団結力

 会の活動が始まって今年で4年。ボランティアも女性16人、男性21人の計37人になった。ボランティア活動の中で増えているのが、会立ち上げのきっかけにもなった「ゴミ搬出」。昨年の4月から9月末までで27件と依頼の中で一番多い。ヘルパーさんがまとめておいたゴミを、会のボランティアスタッフが夕方受け取りに行き、翌朝ゴミ収集場所に出しに行く。負担を少なくするため3人体制で行なわれる。
 病院への随行にはガソリン代として、1回500円を支給する。依頼者には何かあった時のために保険に入ってもらう。随行の間のおしゃベりは楽しいと村岡さんは言う。話を聞きながら、他人事ではなくいずれ自分たちも歩む道だと感じる。「年配者の話は、私たちの道しるべ。これからの活動に生かしていきたいと思います」
 スチール製の倉庫を解体して欲しいと電話をかけたおばあちゃんは、ボランティアが無償なのを気がねして頼みづらかったが、スタッフの元気いっぱいの仕事振りや顔を見るとなんだかうれしくなって、庭の草取りや植木の剪定もお願いしたいと依頼をした。「顔を合わせることで遠慮した気持ちがほぐれたんですね。人は顔を合わせて話すことで心が通じ合うもの」と村岡さん。お年寄りから激励文をもらうこともある。最近では高齢者だけでなく、地域の小学校のPTAからも「田植え」や「芋掘り」「碁、将棋教室」等の依頼がくる。
 3年間活動を続けて課題も出てきた。ボランティアが受けることと、業者に頼むべきこととの線引きが難しい。例えば、畑の雑草とりなどは直接生活に関わる作業ではないので業者に頼むべきこと。しかしこういう依頼がたくさん入ってきて、対応に悩むという。
 「会の成功の秘訣は?」と尋ねると、「発起人のコミュニケーションと前向きな姿勢。そして『何かあっても皆で力を合わせて頑張ろう!』という団結力!そして継続!」と答えが返ってきた。会の運営資金は、市の社会福祉協議会からの助成金、寄付金、いろんな団体からの助成金。支出は病院随行のお金と印刷費、ボランティア保険ぐらいなので資金で困ることはないという。これも長く続けていく秘訣のひとつだろう。
 会の立ち上げは、村岡さんにとって「定年後の自分探し」だった。「今は人のためでも先では自分のため」という。自宅の離れを老人クラブに開放していて、いつも笑い声が溢れている。定年後の人生をいきいきと大いに楽しんでいる村岡さんたちには、学ぶところが多い。