「まち むら」90号掲載
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専門部とサークル活動の両輪で活動を進める
新潟県上越市・下保倉地域づくり協議会/自遊会
 新潟県上越市浦川原区(旧浦川原村)は、県の南端に位置する農山村、その中心にあるのが下保倉地区。地区を1級河川保倉川が流れ、その両岸には田園地帯が広がる。丘陵地では、山同地特有の棚田が見られ、農家の経営規模は1ヘクタール未満でほとんどが第二種兼業農家。地区の東西を国道253号が走り、最近では、第三セクター鉄道「ほくほく線」や高遠道も同通し、交通の便も良い地域でもある。この交通の利便の良さを利用して都市部からの自然回帰を望む人々の往来も盛んになっている。同地区の世帯数は500、人口は1990で、15の集落からなる小学校区。人口、世帯数ともほぽ横ばいで推移している。旧浦川原村に合併される昭和30年までは、下保倉村であった。


住民主体の「地域づくり協会」へ衣替え

 1995年(平成7年)、この地区の住民の連帯や行政の協力組織である「下保倉地域自治振興協議会」が地域の特性を活かした自主的・主体的なコミュニティの形成をめざす現在の「下保倉地域づくり協議会」に改組した。同協議会では、多くの住民が参加することを基本に据えて、「地域住民による住民のための手作りの地域づくり」の考えのもと活動を展開している。集落代表の代議員32人と理事17人が会運営の中心的な役割を果たしている。


地域づくり活動の実行部隊としての専門部活動

 同協議会の活動の中心になるのが、4つの専門部。社会環境や福祉・健康、奉仕活動を行なう生活環境部。文化団体の育成や広報を行なう文化広報部。体育施設の整備や体育大会の実施、ファミリー登山を行なう体育部。女性相互の交流と連携を行なう女性部。部員数は各14人で、任期は2年間となっている。
 専門部の活動としては、生活環境部がアジサイの普及と管理や春秋の交通安全の協力と地域を流れる保倉川のクリーン作戦を実施。文化広報部は、教育環境と会報の発行を主に活動し、郷土出身の歌人・山田あきさん(平成8年逝去、享年96歳)の短歌集を出版し、全世帯に配布している。会の機関紙「しもほくら通信」では『山田あきコーナー』を設け、山田さんのふるさとを詠んだ歌の紹介や、短歌大会入賞作品と表彰者などを紹介している。山田さんの業績を偲ぶ歌碑は、菱田集落の大池のほとりに、また、平成13年8月に竣工した林道「飯室根川縁」沿いには記念碑が建立されている。
 体育部は、村のシンボル霧ケ岳(507メートル)のファミリー登山と夏のラジオ体操、秋のミニバーボール大会の実施で地区住民の健康の維持向上に努めている。女性部は、村の中央公民館を拠点にして活動を実施。6、7月は、地域内の道路を使った「クリーンウォーキング」と「下保倉ぶらり散策」を行なって会員の健康増進を図っている。また、12月の夕食会では食文化の変化に対応して「洋食マナー」を体験、世界に通じる食事を楽しんだ。
 その他に、子どもたちで作る「がき大将クラブ」との共催で行なった霧ケ岳登山や地元農産物を直売する「うらがわらまつりフリーマーケット」、中学校とのクリスマス大会が行なわれ、地域活動の幅は年々多様化してきている。多くの地域住民が参加する地区総会や新年会では、協議会の役員らを囲んで会員から活発な意見が出され、和やかな雰囲気のうちにも建設的な話し合いが行なわれている。
 協議会事務局を担当する田鹿敏行さんは「同じ集落に住んでいても、仕事や世代が連うと連帯感が薄くなる。農村では、農作業が機械化し農業の作業協力も少なくなった。協議会活動に参加し、顔を合わせることが大切だ」と話す。


子どもたちを自然のなかで遊ばす自遊会

 この専門部の活動とあわせて、メンバーが自主的に立ち上げるサークル活動も地域づくりに大きな役割を果たしている。その1つが自遊会。協議会の体育部長や副会長を務めた横川集落の村松徹さんたち、かつてがき大将だった男性5人が、子どもたちをもっと自然のなかで、自由に遊ばせようと立ち上げた。自遊会とは、「自由に遊ぶ、自分で遊ぶ、自然の中で遊ぶ」という意味でつけられた。村松さんたちは、豊かな自然が残るここでも、「子どもたちは、昔と違って戸外で遊ばなくなった」と嘆く。村松さんたちが子どもの頃は、「仲間同士、声を掛けなくともそこへ行けば、かならず誰かがいて、雑木林での住み家づくりや川でのつかみ取りなどで日が暮れるまで遊んだ」。そして、刃物で切り傷を作ったり、また、年齢の違う子どもたちが一緒に遊ぶ中で、互いを「思いやる」「いたわり」の気持ちも培われたと懐かしく語る。今の子どもたちにもそんな体験をさせたい、そんな思いからの立ち上げだった。そして、子どもには、自然の中で「どんな遊びをしたいのか」、親たちには「子どもの頃遊んで、子どもたちに伝えたい遊びは何か」などの項目で、親子双方にアンケートをするなかで、会の活動内容を決めていくとともに、親たちへの協力も依頼していった。
 翌年の4月から、中央公民館の協力を得るなかで、プログラムの実施に移していった。4月は「竹ひごのヒコーキを作って遊ぼう」と呼びかけ、18人の子どもたちがカッターと鋏、のりを持参して体育館の駐車場に集合。大人や高校生も一緒に参加してヒコーキ作りの遊びを開始した。5月は「弓、木刀を作って遊ぼう」で23人が参加。8月は「筏(いかだ)を作った保倉川で遊ぼう」では、35人の子どもたちが初めて挑戦した。子どもたちは思い思いの格好で川に入り筏に乗って川下りを親しんだ。10月は「竹での椅子作り」(15人参加)、2月は「かまくらを作って遊ぼう」(今年は豪雪で中止)と年間5回の遊びを実施した。
 村松さんは「筏遊びは、子どもたちにとっては、初めての体験だった。参加した中学生が小学生の面倒をみるなど、みんなが協力しあって子どもたちの夢が実現した」と話し、これからも自遊会の活動を一層充実していくという。