「まち むら」91号掲載
ル ポ

買い物代行・宅配サービスで高齢者支援をする
東京都板橋区・中板橋商店街振興組合
 東京の都心・池袋駅から東武東上線各駅停車で約10分、「中板橋駅」。駅に降り立つとそこはもう商店街の入口である。中板橋商店街は、石神井川と川越街道の間に位置し、一番街、中、中銀座、新西原、オレンジの七つの通りでつくる五つの商店街からなる。店舗数は約300店、うち振興組合の加入は約200店。商圏は近隣の住宅地約1.5キロメートル、買回り品が中心で、交差する通りが回遊性をつくる元気な商店街である。生鮮三品の店が多く、手作りの総菜屋さんなどもたくさんあり、おなじみさんで賑う。立ち話をする人、店主と客のやり取り、鼻をくすぐるお総菜の匂い、地元商店街の雰囲気が漂う。中板橋商店街が元気な訳を探ってみた。


大根1本でも配達します!

 振興組合の取り組みの一つに買い物代行サービスがある。平成11年に開始した宅配事業である。仕組みは、先ず注文をその日の午前11時から午後2時まで電話で受付ける。高齢者が多いのでパソコンやファックスは使わない。午後2時から伝票もしくは口頭で各店舗に品物の発注をし、必要に応じてスタッフが買い物に行く。
 午後4時までに発注分の品物が組合会館事務所に届けられるので、お客さまごとに品物を仕分け、伝票を作成、点検・確認の後、配達に出る。配達時に品物の代金プラス配達料300円をいただく。配達終了後、各店舗ごとに集計をして、その日のうちに代金を支払う。宅配のみの場合は、お客様から買い物のレシートを預かり、各店から品物を集め、お客様の都合の良い時間に届ける。営業は土・日・祭日、盆、正月を除く毎日。お客さんは高齢者や育児に忙しい母親などで、週2〜3回、まとめ買いの週1回の人など。1日平均3〜4件で休日の前は増えるという。売り上げは1か月約30万円程度になるという。
 注文の多い品目は、野菜、肉、魚、紙製品(テッシュペーパー、トイレットペーパーなど)、そして飲料水の順、重くてかさ張るものが中心である。スタッフは、受付や買い物などをする女性2人と配達の3名。
 時には、「帰りまでに職場に届けて」なんていう勤め先からの注文などもあるというが、高齢者は気遣いや配達を楽しみにしていて、スタッフの2人はベテランで、長い付き合いの常連さんも多く、注文の品など大体分かるようだ。配達は退職された方にお願いしている。初めは自転車だったが、平成14年に環境庁から電気自動車の提供を受け、今はこの電動車で結構遠くまで配達に行けるという。
 理事長の岡田武二郎さんに事業の経緯や苦労話などを伺った。
「板橋区のお声がかりで、初年度、100万円の助成金で始めました。注文を受けるための専用電話の設置、チラシやポスターの印刷、横断幕などで約300万円かかり、結局組合から200万円の持ち出しになりました。儲かる事業ではないので、二つの商店街が始めたんですが、うち以外のところはすぐに止めてしまいました。私たちのところも当初は組合員の多くが反対で見切り発車の形でした。一時話題になりまして、取材や視察もあり宣伝にはなりましたが、始めた以上、当てにしている高齢者や無いと困る人、喜んでくれる人がいるので止めるわけにいきません。商店街のサービス、宣伝だと思って続けています」


地域が一つに溶けあう手づくりのお祭り「へそ踊り」

 もう一つ振興組合挙げての取り組みが「へそ踊り」。なぜ「へそ」かと言えば、ここは板橋区の真ん中・へそに当たるからという。10年前に「へそ祭り」のある街へ視察に行くなどして苦心して創り出した手づくりの祭りだ。7月(一昨年まで8月)の最終土曜日の夕方に盛大に催される。今やすっかり定着し、地域の人々と商店街が一つになって盛り上がる。
 地域の老若男女が10名位のグループを組んで繰り出す。お腹に顔を描いてくれるのは、大東文化大学の漫画研の学生たちで、これも毎年の恒例となっている。お腹に塗る下地の白塗りが一仕事、女性や子どもはTシャツに描いてもらう。愉快な顔、否お腹とおへそが商店街を練り歩く。踊り手は頭に被った笠を両手で支え、顔のお腹を突き出して、祭ばんてんの紐を膝に締める格好になるので歩くのが大変という。1時間も踊るとヘトヘトになる。「10年もやっていると皆年をとってきましてね、へそ踊りだけでは大変なので、学生や若者のストリートダンスなど他のイベントも取り込んで賑やかにやっていますよ」とは岡田さんの言。


大学生との連携も

 今年から始まったのが、地元の大東大学環境創造学部の学生たちの「なかいた環創堂」。空き店舗にオープンした。ここでは、商店街の人たちに溶け込み、商店街の活性化に寄与していこうというもの。さきのへそ踊りに参加したのを皮切りに、当面は、商店街店舗のデータベース化やマップづくりを考えている。
 中板橋商店街振興組合は、きめ細かいサービスや新しい試みを力まず、声高でなく、さらーっとやってのけているところがなんとも憎い。「買い物代行・宅配サービス」もそういったものの一つで、まさに地元商店街の底力を感じる商店街だ。