「まち むら」92号掲載 |
論 文 |
安全で、安心して生活できる地域づくりのために(第3回) |
初期段階の活動 |
中 村 八 郎(NPO法人環境・災害対策研究所副理事長) |
今回は、地域社会(市民の日常生活圏)において「安全で、安心して生活のできる地域づくり」の初期段階の取り組みについて考えます。地域における組織活動で最も重要な点は、地域の実態に即した活動を進めること、活動の中心となる方々はいうまでもなく、地域住民が取り組みの目的、内容、必要性などについて常に共通認識を持つように工夫することです。 地域実態とその共有化について 組織的な地域活動ではどのような事項(対策課題)に取り組むか、が常に求められます。こうした具体的な取り組み課題を決める場合、よく年長者の意見や第三者からのアドバイスで決められる例が往々にあります。活動開始から間もない時期はお互いに進め方や状況がよく判らないこともあり、余り議論を経ることもなく取り敢えず決める場合が少なくありません。 しかし、重要なことは誰もが必然性をもって納得できることです。そのためには地域の実態(災害や犯罪の発生危険など)を踏まえて、それぞれの地域にとって重要な課題あるいは地域内に広く共通する課題などの中から、話し合いを通じて決定されることが必要です。この場合「地域にとって重要な課題」・「地域内で広く共通する課題」については、地域の実態が正しく把握されてはじめて可能になります。地域の実態とは、@犯罪では、これまでの発生実績、今後発生が懸念される犯罪や場所、A災害危険では、過去の被害実績、将来発生が想定される災害や場所、などが該当します。 このような地域実態が把握されることによって、地域の防犯上の問題や防災上の問題が明らかにされ、課題が誰にも分かる形で整理することができます。そして、こうしたプロセスを通じて地域社会のもっている防犯・防災課題が組織内あるいは地域住民に共有されます。また、ある特定の取り組み事項(対策)を選択する場合にも広く理解が得られるでしょう。 地域実態に関して関係者が共有することは、地域の抱える防犯・防災の現状について組織内あるいは地域住民相互における共通の認識づくりを意味します。手数の掛かるプロセスですがこうした作業を通じて組織内の理解が深まり、住民の関心が高まります。何より、今後の活動方針を考える上での共通基盤を形成することができます。考え方、年齢構成、生活形態の違いなど多様な住民構成を前提とする地域の組織活動においては、現実は現実として明らかにし、共有することが活動への共感づくりに欠かせない要件といえます。なお、この段階で大切なことは問題や責任の所在には言及しないことです。 地域の実態把握と共有化の方法 地域の実態把握として、過去における犯罪発生や火災を含む災害被害は行政や関係機関の資料によって概ね把握できます。しかし、地域内の詳細で具体的な危険箇所、不安な場所などについては、住民はそれぞれ経験したり、普段感じていても、一般的に整理された情報として存在していません。したがって、地域活動の一環としてまず取り組むべき課題は地域の具体的な実態把握ということになります。 地域の実態把握について この方法には通常二つの手段があります。一つは住民アンケートを通じての問題発掘調査、もう一つは実際に住民自身が地域内を防災、防犯的視点から調査する方法です。そして可能な限り双方の方法を同時期に行なって、より正確で生活感覚とも合致する形で実状を効果的に把握すること(整理)です。なお、このようなアンケート調査や地域点検活動に際しては、事前の学習会や話し合いを通じて基礎知識、ポイントなどを修得しておくことも必要になります。(下表を参照) 地域実態の共有化について 以上のような方法で整理された“地域の実態”を誰にも分かる資料として作成し、地域住民への配布、学習用資料、取り組むべき課題を検討するための基礎資料などとして活用していくことが必要です。特に災害や犯罪に関する地域の実態を正確に共有するためには場所性のあるデータであることが重要です。この点から地図(建物が判読できる程度の地形図など)を使用することは場所のみならず、道路・緑地空地・公共施設等々の地域の様々な情報が一目で誰にでも理解でき、災害危険や犯罪危険などの表示を行なう上で最適です。 勿論、地域内での公表を前提とする限りは、住民のプライバシーや心情を害さない表現方法にする工夫が重要になります。こうした技術面で専門家の協力を得ることは貴重です。 また、生活の場としての地域は常に変化しています。このような地図についても数年おきに再調査を行なって修正し、地域の“安全・安心”がどのように変わっているのかを常に把握しつつ活動を進めていくことが、活動の輪を広げ、また活発にする上でも有効です。 「安全・安心の診断マップ」づくりについて 「防災まちづくり」に長年取り組んでいるほとんどの地区ではこうした「災害危険地図」づくりをしています。最近では犯罪が多発している地区などでも「防犯マップ」を作成する例が増えています。東京の国分寺市内では現在八つの地区(「防災まちづくり推進地区」と呼んでいる)の住民組織が熱心に防災まちづくりに取り組んでいますが、今年開始された地区を除き七地区で防災診断地図が作成され、地区住民に配布して様々な活動に利用されています。 近年は、市民グループによってタウンウォッチングなどが行なわれるようになり、地域の歴史文化遺産、散策ルート、歴史建物、銘木や緑地、景観スポット、子どもの遊び空間など様々な観点からの地図作りが盛んに行なわれれるようになりました。防災や防犯マップもこうした活動の延長上に考えれば気楽に取り組めるでしょう。 地域点検活動のポイントは、参加者が必ず事前の学習会で点検事項、基礎的な判断基準などの知識を得ておくことです。また、できるだけ多人数でいくつかのグループ(五〜六人/一グループ)に分かれて実施し、検討会を通じてまとめ上げていくことがより正確性を期す上で重要になります。多くの眼で、防犯や防災の観点から地域を再認識し、共有することがまちづくり活動の第一歩になります。 |