「まち むら」93号掲載 |
ル ポ |
日本一楽しいふるさとづくり |
静岡県浜松市・杉・川上夢プロジェクト |
「私の年齢は30代の後半ですが、まだ独身です。山で働く私に美味しいお弁当を作ってくれる花嫁さんをさがしています」。地域活性化グループ「杉・川上夢プロジェクト(通称・夢プロ)」が開設したホームページの紹介コーナーの一節である。 夢プロが活躍する杉川上地区がある静岡県春野町は、昨年7月、浜松市などと合併したが、浜松市の中心部から北におよそ40キロに位置する過疎地だ。杉川上地区は、旧春野町でもさらに山あいに入った山間地。東西10キロ、南北15キロという広い区域に、175世帯、576人余りが暮らす(平成17年6月現在)。この地区は、町外への人口流出などさまざまな課題を抱えている。こうした中、地区の住民有志たちが立ち上げたのが、日本一楽しいふるさとづくりを目指す、「杉・川上夢プロジェクト」である。 空き家に11家族が移り住む 夢プロが結成されたのは平成9年末。地区に空き家が目立ち始めたのに加え、嫁不足が深刻な問題となっていた。地区に住む団塊世代の「祭り好きグループ」7名を中心に発足する。 夢プロの創立メンバーで代表役の進藤博行さんは、20年余り前にコピーライターの職を辞して、横浜からこの地区の空き家に家族と共に移り住んだ人。養豚やキャンプ場の管理人、地元の杉や檜を使ったログハウスの組み立てなどの仕事をしながら、3人の子を育て上げ、この地にしっかりと根を下ろした。進藤さんは、当時をこう振り返る,「引越しした当初は、地元の人から奇異な眼で見られたけど、その頃は、豚を飼って、それこそ糞まみれになって働き続けているうちに、ここの人たちとも、自然と打ち解けてくるようになったね」と語る。 ほかにも、酒川富雄さんのように浜松市市会議員も入れば、地元企業の取締役、製茶組合の会長など多彩な顔ぶれがそろう。この地域の豊かな自然環境など都会にはない魅力を発信することで、他地域との交流を活性化させ、都市部からの移住者を増やし、地域のにぎわい創造につなげることが同会の最大のねらいである。メンバーの1人で、地元の製茶組合会長を務める向島寛さんは、こう述べている。「住んでいる人間が楽しいと思わねば、入って来る人はいない。この土地に残った僕たちがまず、元気になる手段が夢プロでした」。 夢プロの最初の活動が、進藤さん自身の体験も踏まえての空き家対策。杉川上地区には、当時すでに20軒ほどの空き家があった。まず取り組んだのは、空き家を有効に使って、移大家族の受け入れ体制を築くことから。空き家対策の担当メンバーを決め、空き家のリストを作成。町外に住む家の持ち主に出向き、移入を希望する人たちに売るか、貸してくれないかと打診したが、ほとんどの持ち主が、「先祖代々の土地を手放すことは出来ない」という返事。しかし、その後次第に、活動の趣旨に賛同する人も増え、貸してくれるようになった。持ち主の協力を得て、今までに空き家に移り住んだ家族は、11家族を数える。こうした家族は、夢プロなど地元の住民や知人、さらに行政や不動産業者などの紹介による。ちなみに、空き家への移住について夢プロに問い合わせがあれば、必ずご夫婦で現地に来てもらい、夢や希望を聞いた上で、情報提供や現地案内、持ち主との面会などを、サポートする。最近では、若い人からの問い合わせが増えている。 只今嫁っ子募集中! もう1つの取り組みが「嫁っ子さがし」。当時、結婚適齢期の独身男性は30人を超えていたという。平成12年春、夢プロは、独自のホームページを立ち上げた。地域の紹介、四季の催し、産業などを紹介するとともに、花嫁募集中の男性たちも顔写真入りで登場している。「只今嫁っ子を募集中です。タイプは泉ピン子、天童よしみさんの様な明るく朗らかな楽しい人が好きです。私と一緒に日本一のお茶を作ってみませんか」。お茶農家の山本さんは、40代後半。茶畑で収穫中の山本さんの姿が、ホームページ上に浮かびあがっている。夢プロは、ホームページの開設と並行して、花嫁募集大作戦を展開していく。ちなみに平成12年4月の「山里体験お見合いツアー」を皮切りに、平成14年7月まで、4回あまり実施。第1回のツアーには、20代後半から30代後半の女性10名が参加。対して、地元の男性は、30代後半から40代後半の15名が参加。山集採りや料理、ログハウスの組み立て体験、そしてフリートークの時間も設けられた。このなかで、女性たちに、田舎暮らしのイロハを体感してもらおうという試み。びっくりするほど素直な女性たちが参加し、地元の男性たちも思わぬ事態に目を輝かせたという。優しく誠実に対応したが、肝心な「押し」が足りず、残念ながらその時点での急展開はなかった、と言う。 平成14年の「田舎体験お見合いツアー」は、夢プロメンバーの奥さんなど地元のお母さんたちの呼びかけによる「私たちの仲間になりませんか」をキャッチフレーズにした。ちなみに、女性の参加者11名。地元の男性は14名。川沿いのキャンプ場と山上のペンションを舞台に2日間開催した。この時も、とても素敵な女性たちが集ったのだが、実りは少なかった。 しかし、こうしたお見合いツアーを何度か経験した男性たちに、ある変化が生じて来た。日常的にも服装に気を配るようになったし、自分の将来を真剣に考えるようになったことである。また、1回目のツアーに参加し、地元のお祭りなどを通じて交際して来た地元の役場職員、小島隆一さんと静岡市の村越秀世さんがめでたくゴールイン。夢プロのツアーが縁となり、大きな実りをもたらしたケースも現れてきている。 美味しい春野茶をご存知ですか! 夢プロでは、春野茶など地元の特産品を販売する「夢プロ市場」にも平成13年9月から取り組んで来た。市場の場所は、国道365号線沿いの夢プロの事務所の隣。はじめは、テントで開いていたが、翌年春から、地元の水村を使って待望の屋根つき売り場も新設された。冬場は休業中だが、3月になると毎週日曜日の午前中に営業。地元で取れる野菜や果物、特産品のお茶や椎茸、チンゲン菜などが並ぶ。ホーページ開設の立役者で事務局の酒井章博さんは「春野町には、こんなに美味しいお茶など特産品があるところなのだ、ということを知ってもらいたい」と熱を込めて語っている。夢プロ市場では、地元の森林資源を活用した竹カゴや水のおもちゃなども販売する。しかし、国道沿いにありながら、市街地からの来客があまり多くないため、お客様を呼び込める商品や話題づくり、宣伝などがこれからの課題と、アイデアを模索中だ。 「足洗い」神社の建立 今年はじめ、夢プロの7人のスタッフは、国道に面した峠の林に、神社建設の基礎工事を実施した。神社は「足洗い」神社と命名。まず神社の入り口に足を清める事の出来る場所を設置、さらに、林の中の山道を少し登った所に、お参りするための祠を建てる計画である。進藤さんはこう述べている。「悪い癖がある人は、ここに是非来て『足を洗って』いただきたい。一度来て悪い癖が直らなかったら、何度でもお参りに来て欲しい」。「足洗い」神社は、日本一楽しいふるさと作りを目指す、杉・川上夢プロジェクトの新たな名所として、間もなく完成する予定だ。 |