「まち むら」93号掲載
ル ポ

まちづくり活動を通じ、地域の頼れる存在になった
宮崎県清武町・特定非営利活動法人きよたけ郷ハートム
 2月初旬の午後。宮崎県情武町に、春一番を思わせる強い北風が吹いていた。高台にある同町加納小学校でもその風は容赦なかったが、下校時間を迎えた子どもたちは元気に校門を飛び出した。通学路で待っていたのは、特定非営利活動法人「きよたけ郷ハートム」(初鹿野聡理事長、メンバー15人)のメンバー。子どもたちに「さようなら」「気を付けて」と気軽に声を掛ける。実は、このハートム、設立からわずか3年余りで30を超す事業を展開している、県内でも売り出し中のまちづくりグループだ。


行動を起こせば反応は広がる

 設立は2003年6月。同町PTA連絡協議会の会員を中心に発足した。PTAからNPO法人へ活動の幅を広げることになったきっかけは、2001年6月に起きた池田小児童殺傷事件(大阪府池田市)。会員たちは「人ごとじゃない」と危機感を募らせ、通学路で立ち番や安全パトロールを始めた。
 運動が町内各校で行なわれるようになると、会員たちに「アクションを起こせば反応は広がる」という自信が芽生えた。自信は「やる気」を生む。子どもたちが小中学校を卒業し、会員たちがPTA役員を辞めるころになっても熱が冷めることはなかった。ハートム誕生は、自然な流れだった。
 初鹿野理事長は「盛り上がった皆の気持ちを短期間で終わらせるのはもったいない。その熱意を、今度はまち全体のために生かそうということになった」と振り返る。昨年5月には待望の事務所が開設した。


メンバー一人ひとりが事業を担当

 ハートムの活動は、メンバー一人ひとりが事業を担当する形で行ない、手の空いたメンバーが補助しながら進めている。言い換えれば、各自が関心のある事柄に没頭できるシステム。15人と小さな所帯ながら、複数のイベントを矢継ぎ早に実施していける理由はここにある。
「中高年のためのストレッチ教室」は、長年の趣味を生かして竹内真弓さんが講師。「健康講座」は看護師の小中原真理さん、「わくわく!よりあい夢市場」「町特産農作物の宅配」は、農家出身の作田久子さん、といった具合だ。
 このうち作田さんは、自称「清武のおいしいもの応援団」。作田さんは「清武には素晴らしい特産物がたくさんある。新興住宅地なので仕方ないけれど、地元で十分に良さが知られていない。だから、もっとPRしようと思ったんです」と目を輝かせる。ちなみに、作田さんのお勧めは「日向夏」「ナス」「ダイコン」だそうだ。
 ハートムが、設立時から力を入れているのが清武、ハ重川の環境美化活動「キレイキレイ作戦」だが、ここから「廃油キャンドル」という独創的な事業が生まれている。担当は原田聡美さん。
 地元の河川が、家庭から出る廃油や、ポイ捨てされたペットボトルで汚されている現状を逆手に取り、ペットボトルに廃油で作ったろうそくを組み込んだ、手作りの「廃油キャンドル」を考案。夏至と冬至の前後の夜に年2回ほど、清武川河川敷に数100個を並べて灯している。
 暗闇に、小さな火の群れがゆらゆらと光を放つ幻想的な光景は、その趣旨とともに大きな反響を呼んだ。今では、県内の複数団体から請われて出張講座を開くほど。本年度から「廃油キャンドルインストラクター養成講座」も始め、運動の裾野は県内全域に広がりつつある。
 「西都菜の花プロジェクト」(西都市)も、講座に出席する団体の1つ。代表の小浦紀男さんは「菜の花を題材に循環型社会のありようを模索しているが、ハートムの活動は私たちの考えと似ている。廃油キャンドルは菜種油の使い適に最適」と熱っぽく語る。これには原田さんも「廃油キャンドルが、環境問題を考えるきっかけになってほしい」と満足顔だ。


不害者に的を絞らせない工夫

 地域の安全・安心に貢献したいという思いも強い。この分野は副理事長の西片奈保美さんが担当。「地域安心ネットワーク事業」と銘打って活動している。
 地元小中学校の通学路で行なっている立ち番もその1つ。実施時間や場所をあらかじめ決めずに「神出鬼没」を心掛け、不審者に的を絞らせないようにするなど工夫を凝らし、子どもたちの安全を守っている。
 メンバーと生徒児童の間に交流が生まれることもあり、「○○ちゃん、かばん持って今からどこに行くの?」「プールに行くの」といった、ほのぼのとした光景もみられる。警察をはじめとする行政パトロールとは違った、市民活動ならではの味がにじみ出ている。
 立ち番後、初鹿野理事長や原田さんらメンバー4人が出掛けた安全パトロールに同行した。道すがら、4人は所々の場所を指しながら「この付近は不審者がよく目撃されている」「この公園は駅からの帰り道。幹線道から離れていて危ない」などと、地域の治安事情を次々に教えてくれた。隅々まで目を光らせている証拠だ。情報の蓄積を生かし、安全マップも作成している。


防災、災害情報を地域で受・発信

 行政とのタイアップにも乗り出した。2004年3月に宮崎南署と提携した「わがまちポリス」が代表例。同暑が不審者の声掛け事案や空き巣といった情報をハートムにファックスで流し、ハートムが会員登録した住民にメール送信する仕組みだ。
 県内でも珍しい取り組みとして注目を集め、軌道にも乗り出すと、今度はバージョンアップ販に挑戦。それが「ITと人とのネットワークを融合した助け合いのまちづくり調査」だ。この「舌を噛みそうな長い名前」(初鹿野理事長)の事業は、内閣官房都市モデル調査事業(2005年度委託)で行なっている。
 調査に協力するモニターらに防犯、災害情報をメール配信するほか、一般の人々も利用できるネット掲示板を開設。情報発信だけでなく、掲示板への書き込みを可能にすることで、地域全体で情報の共有を可能にした。
 今年1月に始めたばかりだが、アクセス数は日を追うごとに増加。最近では、県内のある社団法人から「行事案内を載せて欲しい。資金援助もさせてくれ」という提案があった。申し入れは他団体・企業からもあり、今後、看板事業になりそうな予感もする。


協働による地域活性化めざす

 エネルギッシュに活動を続けるハートムも、当初は「何をする団体か分からない」という声が住民の間にあった。しかし、今や確実に浸透。加納小のある男性教諭が、通学路での立ち番に「(児童が被害に遭う事件の多い)こういう時勢だからこそありがたい。不審者情報も詳しいので力強い」と話すように、地域の頼れる存在になりつつある。
 ハートムの名称に「清武町」ではなく「きよたけ郷」を用いた理由は、行政の枠組みにとらわれたくない、という意味が込められている。さらに、住民が自主的に活動できるように手助けし、そうやって自立した住民と行政との協働による地域活性化にも役立ちたいと願う。
「子どもたちに、よりよい古里を残してあげたい」(原田さん)、「根っからの活動好き。自分の幅も広げられる」(作田さん)。メンバーたちの士気は、いささかもにぶることはない。これからも、ハートムの活躍に目が離せない。