「まち むら」94号掲載 |
ル ポ |
“環境リサイクル協定”で地産地消の観光振興 |
福島県二本松市・あだたら環境農業研究会 |
「ほんとの空がある…」と高村智恵子が詠ったのは、生まれ故郷の福島県二本松市安達太良山(日本百名山の1つ)の山麓に暮らす人々の心もようかもしれない。 標高1700メートルの安達太良山の登山口に位置した岳温泉郷では近年、ユニークな試みを展開して、話題を呼んできた。その1つが、1982(昭和57)年の「ニコニコ共和国独立宣言」である。岳温泉の30数軒の旅館と商店街の人たちが「独立宣言」をして、“大統領制”を敷き、全国的にも有名になった。パロディの部分が多かったが、「小さな自治区」としての自治を真剣に議論したことは確かである。 岳温泉の歴史は古く、遥か古代に遡る。天空に火柱を噴き上げる安達太良山は信仰崇拝の対象として崇められてきた。その火柱の地下深く湧き出る温泉の恵みを活用して暮らしてきたのが、岳温泉郷である。江戸時代後期以降、山崩れ(1824年)や戊辰戦争(1868年)、大火(1903年)などの大災害や内戦に見舞われてきたが、住民の結束と努力によって立ち直ってきた。そして、1906(明治39)年に現在の温泉街の原型が作られた。この温泉街は、貴重な自然植生が残る安達太良山の山腹に位置することから、伝統的に環境に配慮したまちづくりを行なってきた。 旅館・肥料会社・農家が連携して食品環境リサイクル活動を展開 地元で「あだたら野菜クル」と呼んでいる食品環境リサイクル活動が始まったのは、今から8年前の1998(平成10)年のことである。岳温泉旅館協同組合(大内正孝理事長)によると、「食品残流などの可燃性ごみ処理に悩んでいたのが環境リサイクルを始めたきっかけ」という。 温泉旅館は、お客さんの食べ残しなどの食品残流が多く出され、可燃性ごみの約8割を占める。このごみ処理費用は、1トン当たり5,200円であったものが、1998(平成10)年4月から約2倍の1万円に急騰したという。処理費用の値上がりは、旅館経営をも圧迫するようになった。 このような折、知恵を出した人がいた。岳温泉街から車で10分ほどのところにある國分農場(福島県大玉村)の主任研究員國分俊江さんである。國分農場では畜産業の傍ら、牛糞などを活用した有機肥料の生産技術を待っていた。そこで、食品残流類を堆肥化できないか、と考えたのである。國分農場では、排出ごみの徹底した分別を行なうことを条件として堆肥化の研究を進めた。試行錯誤した結果、良質な有機肥料に仕上げることができたという。 堆肥を作っても、それを使う人がいなければ、「環境リサイクル」の仕組みは回らない。國分俊江さんらの呼びかけによって、2002(平成14)年に「あだたら環境農業研究会」(國分俊江会長)が発足して、本格的に環境リサイクル活動が動き出した。 研究会には、JAみちのく安達二本松有機農業研究会(会員12名)をはじめ、岳温泉旅館協同組合(15旅館)や地元のスーパーマーケット、観光施設、國分農場などが参画している。 環境リサイクルの仕組みは、石岡をご覧いただきたい。岳温泉の各旅館から排出される食品残流は堆肥化できるものとそうでないものとに分別される。堆肥化できるものは國分農場に運ばれ、そこで牛糞と混ぜて3か月以上かけて有機肥料に熟成される。その肥料は、有機農業研究会の会員農家に届けられる。会員農家によって無農薬で栽培された野菜は、岳温泉の各旅館に出荷される。食品残漬は従来、単なるごみとして焼却処理されていたが、それがぐるぐると回り、新たな食材に生まれ変わる。これが、環境リサイクルの仕組みである。 環境リサイクルのコーディネーター・ディレクター役が、あだたら環境農業研究会である。同研究会では、食品残流から新しく生まれ変わった有機肥料を、「きらきら有機リサイックル」という商品名で販売している。「きらきら有機リサイックル」は、環境リサイクルのPRも兼ねて岳温泉の各旅館の売店でも販売するようになった。また、この肥料は健康な野菜を育てるという評判を呼び、会員農家で使うだけではなく、一般農家へも広がりを見せつつある。 さらに、同研究会では、地元の小・中学校(45校)へ堆肥を寄付し、環境教育にも一役買っている。この肥料を使って育てた有機野菜栽培農家と各旅館の調理師との交流も深め、有機野菜を使った新メニューづくりにも意欲的である。旅館では有機野菜畑や堆肥作りの現場での研修会を行なうなど、「顔の見える関係づくり」を積極的に行なってきた。 循環型社会づくりへ発信! こうした活動実績をもとに、2004(平成16)年12月、岳温泉旅館協同組合とJAみちのく安達二本松有機農業研究会、國分農場の三者は、「岳温泉循環型環境リサイクル協定」を締結した。三者の役割を明確にして、今後とも環境リサイクル活動を継続していくことを確認した協定である。 「一般的には協定を結んで、さあ〜始めましょう、ということが多いんです。でも、理屈から始めると、途中でポシャッちゃう場合が多いんです。私たちの場合、実践から始めました。活動に自信がついたので、継続を確認する意味を込めて三者間で協定を結んだのです」と、國分俊江さんはいう。まさに、継続は力なり、であろう。 「私は長年、食べ物の残り物を見てきて、もったいないなぁ〜と思ってきました。日本では現在、年間約1900万トンもの食品残流を燃やしています。食料自給率は約40%ですから、極端なことをいうと輸入量と同じ量の食品を燃やし続けていることになるのです」と、國分さんは嘆く。その嘆きが、生ごみを「食品循環資源」として再生させている原動力になっているのかもしれない。 この環境リサイクル活動は、地域の「地産地消」という地域活性化にも少なからぬ貢献をしている。あだたら環境農業研究会では、地産地消をさらに発展させて、「土産土法」(その土地でとれたものを、その土地のやり方で料理すること)を兼ね備えた循環型社会の実現をめざして活動していきたいという。 地域の業種が異なる観光・農業・畜産・食品加工等が横断的に連携した環境リサイクルの活動は、周辺地域にも共感を呼んでいる。大玉村商工会では、地元企業などに呼びかけて、環境リサイクル活動への参画を促している。その1つが、最近、大玉村に進出してきた郊外型の大規模スーパーマーケットである。この店舗は、あだたら環境農業研究会の活動に賛同して、食品残流のリサイクル活動に取り組み始めている。さらに、今後とも循環型社会の構築をめざした地域活動の輸が広がっていくことを期待したい。 |