「まち むら」94号掲載
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小さな力を出し合って支え合い安心して暮らせるまちをつくる
滋賀県大津市・桜馬場自治会「さくら福祉の会」
 2か月に一度、自治会館で開催されるお誕生会。桜馬場自治会「さくら福祉の会」(以下「福祉の会」)が町内に住む70歳以上の方を招いて、昼食やおしゃべりを楽しんでもらう催しだ。取材日は5・6月生まれの方が対象で、4名が参加した。赤飯、小芋・薄揚げなどの炊き合わせ、だし巻き卵といった手作りの食事の後は、保健師の高田直美さんによる健康アドバイス。この日は右脳と左脳の違いや、脳の働きを保つための工夫などについて話した。
 高田さんはその後、一人ひとりの血圧を測定したり、「最近もの忘れが多くて」といった悩みを聞いたり。誕生会は参加者にとって、1年間の無事を互いに喜び合うとともに、保健師と一対一に近い形でじっくり話せる機会ともなっている。
 招待状は、4人の福祉委員が手分けして高齢者の家を訪問し、直接会って手渡すようにしている。また、体調不良などで出席できない方には、福祉委員が赤飯を家まで届けている。スキンシップを重視したきめ絹かな活動が、福祉の会の大きな特徴だ。


阪神大震災をきっかけに福祉と防災の活動を予算化

 桜馬場自治会がある地域は大津市北部、琵琶湖にほど近い古くからのまちである。約320世帯、750人ほどが暮らす。うち152人が70歳以上で、60歳以上となると3人に1人の割合になる。
 福祉の会が生まれたのは平成8年。前年の阪神・淡路大震災がきっかけだった。発足当時からの中心メンバーで、民生委員としても地域に深く関わってきた橋本享子さんは、次のように語る。
「それまでも自治会の中に福祉委員を1人設けていたんですが、お年寄りの見守り活動ができるようにと3人に増やしてもらいました。そして、民生委員と福祉委員が定期的に会合を持つようになり、そこへ自治会長も加わりました。当時の会長さんは身内に高齢者がいたこともあって、自分の問題として福祉を捉えており、平成8年には福祉の活動と防災の活動に対して自治会が年間10万円の予算をつけることになりました」


70歳以上の高齢者に毎週電話で近況を確認

 こうして動き出した福祉の会が、まず手がけたのは「ふれあいホットライン」。毎週木曜日の午前中、70歳以上の1人暮らしや高齢者夫婦の方に、ボランティアが自治会館から電話をかけ、体の具合を確かめたり困っていることがないかを尋ねたりする活動だ。
 以前、何回かけてもつながらないため家を訪問してみると、その方が倒れていて、すぐに病院に運んだため大事に至らなくて済んだ例もあるという。まさに命をつなぐホットラインとなる場合もあり得るだけに、スタッフは相手の様子や電話口の向こうに何か少しでも変わった点がないか、神経を集中させて電話をかける。
 また「ふれあいサロン」は、木曜日の午後に実施している催しで、毎月第1週は小物づくりなどの「手作りサロン」、第2週はマージャンなどの「ゲームサロン」、第3週は「カラオケサロン」、そして第4週は、奇数月が冒頭に紹介したお誕生会、偶数月がヤングママの会と、週替わりで気軽に参加できるメニューを提供している。
 この活動は、木曜日の午前中に「ふれあいホットライン」のため自治会館を使用するので、せっかくだから午後も活用できないかという発想から生まれたもの。はじめは三々五々集まってもらい、自由におしゃべりなどを楽しんでもらえればいいという考えだった。しかし、高齢者自身から「ただ愚痴をこぼし合うだけになっては申し訳ない」という声が出たため、週ごとにテーマを設定することになった。


お手伝いボランティアを支える100人以上の賛助会員

 もう1つ、福祉の会の中心的な活動となっているのが「町内お手伝いボランティア」。町内の住民全員を対象にお手伝いの申し込みを受け付け、登録ボランティアを派遣するものだ。お手伝いの内容は、病院の送迎や薬の受け取り、庭の草取り、大型ごみの搬出、買い物、話し相手など何でもあり。福祉の会は申し込み受け付け専用の携帯電話を用意し、電話番号を書いたカードを全世帯に配布する一方、その携帯電話はスタッフが1週間ずつ交替で持ち、いつでも受けられるようにしている。
 福祉の会の行事はほとんど無料だが、お手伝いボランティアは30分につき100円を利用者からいただいている。これは、「手伝ってもらった人はどうしてもお礼に何か返そうとするので、そうした気遣いをさせないように」(福祉の会会長の林敏夫さん)との配慮からだ。昨年度の利用実績は104件で、古紙回収、病院の送迎、包丁研ぎといった内容が多かった。
 お手伝いをする側の登録ボランティアは、現在31人。登録時に自分は何かできるかを申告してもらい、申し込み内容に応じて適任者に連絡が行く仕組みにしている。また、携帯電話代を捻出するため年会費1000円の賛助会員を募っており、こちらには100名以上が登録している。
 このほか、年に2〜3回そのときどきの関心事をテーマにして行なわれる「福祉講座」、自治会館でコーヒーやぜんざいをふるまう「喫茶さくら」、年末の餅つき、高齢者向けのパソコン教室、フリーマーケット、「ニュースさくら」の発行など、年間を通して多彩な活動が展開されている。「選択肢を増やすことで、できるだけ多くの方が参加できるようにしたい」と林さん。


これまでの活動を振り返り地域福祉計画を作成

 大津市には、市民の高齢者支援活動に対する補助制度「げんきくらぶ」があり、福祉の会では平成14〜16年度にこれを活用して、地域福祉計画と「さくら支えあいまっぷ」を作成した。地域福祉計画は、これまでの活動を検証し今後の展望を描こうとするもので、17年度から5か年の計画。「まっぷ」は、町内全戸の名前や資源回収場所、消火栓などの位置を記した地図のほか、病院や公的機関の電話番号、福祉の会の活動案内で構成されている。いずれも、勉強会や住民アンケートを何度も行ないながら、3年間をかけてじっくりとつくり上げた。
 地域福祉計画策定の中心的役割を担ってきた企画委員会は、平成17年度から福祉推進委員会として新たなスタートを切った。同計画の推進と検討を主な役割とし、基本的に毎月1回、福祉の会や自治会の代表、民生・児童委員らが集まって、長期的視点で行事計画などを話し合っている。
 福祉の会のモットーは、「細くっていい 長く続けよう みんなで…」。この言葉どおり、多くの住民が自分のできる範囲でできることを少しずつ提供し合っているのが、10年以上にわたって活動が継続している最大の要因だろう。自分もいつかは歳をとる。そのときは誰かにお世話をかけるのだから、元気な今のうちは誰かのお世話をしたい。そうした「お互いさま」の心が、このまちには息づいている。