「まち むら」95号掲載
ル ポ

母親と子どもの第二の実家を目指す
宮崎県宮崎市・特定非営利活動法人マザーズ・ハウス
「第二の実家」目指す

「読み声、とっても上手にできたねー。じゃあ次は算数をやってみようか」「先生、宿題が終わったよー。夏休みや放課後、宮崎市内のある一軒家には小学生が集まってくる。幼稚園教諭や保育士の資格を持つ赤木幸子さんが代表理事を務めている、NPO法人「マザーズ・ハウス」だ。
 マザーズ・ハウスでは、昨年度春から学童保育「下北方マザーズ・ハウス教室」を開始した。放課後1人で過ごす児童が、マザーズハウスを訪れ、帰宅後家族と団欒の時間を取れるように宿題や読み聞かせなどを済ませる場となっている。本年度からは文部科学省の委託事業「地域子ども教室推進事業」の実施会場にもなった。
「目指しているのは、母親と子どもが安心して過ごすことのできる“第二の実家”なんです」と語る赤木さん。部屋中に子どもたちの楽しげな笑い声が絶えず響き、一家だんらんのような明るい雰囲気が漂う。
 マザーズ・ハウスの開所時間は通常、午前10時から午後5時。しかし、通ってくる子どもが学校を休んだと聞けば、仕事を休めない保護者に代わり、自宅まで様子を見に行く。ほかにも病院へ連れて行ったり、食事の世話をしたりすることも。臨機応変な対応を可能な限り心掛けている。
 赤木さんは「ここまでしなくても、という人もいるかもしれないけど、この子たちを見捨てることなんてできません」と心の内を語る。
 子どもの中には、親に十分甘えることのできない環境で育っているため、スタッフに抱きついてなかなか離れない子もいる。そんなとき、赤木さんをはじめとするスタッフは、母親のように優しく抱き締める。「子どもが甘えたいときにきちんと向かい合うのは、子どもの成長に欠かせないこと」と赤木さん。
 また、勢い余って頭を打つなどの「アクシデント」が起こってしまうことも。そんなとき赤木さんは「だから危ないっていったでしょう!」と一喝。厳しく、だが愛情を持って接するその姿は、まるで本当の親子のように見えてくるから不思議だ。


設立のきっかけは娘の一言

 幼稚園教諭としての経歴も持つ赤木さんは結婚後、主婦として3人の子どもを育てながら、さまざまなボランティア活動などに積極的にかかわっていた。そんな中、長女の出産がマザーズ・ハウスを設立するきっかけとなった。
「近くのマンションに住んでいたのでよく世話をしに行っていたんですが、娘から『ほかのお母さんは親が近くにいなくて子育てが大変そう』と現状を聞いたんです」と赤木さんは振り返る。
「自分の子どもにしてあげたことを、子育てに困っているほかのお母さんにもしてあげたい」と、2001年に友人4人で集まり、ボランティア団体としてマザーズ・ハウスを開いた。
 現在マザーズ・ハウスの事務局長を務める佐藤己実さんは「公的機関による子育て支援策もあまりなく、保育園などの一時預かりも働いている家庭でないと利用できなかった時代。親子で訪れる場所をつくりたいという赤木さんの考えに感銘を受けました」と設立当時を振り返る。
 佐藤さんもまた、母親らのリフレッシュを目的としたメークアップ講習会などユニークな講座を企画、実施している。
「同じ母親の立場から、お母さんが1人の女性としての人生を楽しめる機会が必要だと感じています」と話す。
 スタッフは現在、女性約20人。ほとんどが保育士などの有資格者で構成されており、信頼も厚い。また「母親支援」「保育」「食育」を柱とした活動は、6年目を迎えた今も変わらない。NPO法人の認証を受けた04年には、別の一軒家へと拠点を移した。
 マザーズ・ハウスはこれまでに個人宅へ赴くベビーシッターやイベント開催先での臨時託児所開設、親子参加型の料理教室、農業体験イベントなど多彩な活動を積極的に開いてきた。
 母親に向けた活動としては、県内外から講師を招いての子育てに関する講演会や、臨床心理士による母親を対象にした育児相談会を開催。ほかに一時保育や出張保育なども行っている。核家族化が進む現代社会において、多くの母親が抱えがちな子育ての悩みに優しく寄り添い続けている。
 また博物館や図書館などが近くにある現在の環境を生かして、夏休み期間中などの地域子ども教室では「探検、見学の日」と題し、週1回は子どもを外へと連れ出した。ほかには「炊飯の日」も週1回設定。ご飯の炊き方と煮干しから出しを取り、豆腐やワカメ、シイタケなど5品目を必ず入れるみそ汁の作り方を繰り返し教えた。
「ご飯とみそ汁。この基本的な食事が自分で作れれば生きていけると思う。だから今のうちに作り方をちゃんと教えておいてあげたいんです」と赤木さんは狙いを話す。


お母さんからの厚い信頼

 約2年前にマザーズ・ハウス主催のべビーマッサージ講座を受講して以来、ベビーシッターを利用している30代の母親は「赤木さんと出会った当時、夫が転勤族で周りに知り合いもいない環境の中、育児で疲れ切っていた」と当時を振り返る。
 講座に講われたときも「前日子どもが夜泣きして、化粧をするのもおっくうな状態。でも外に出なければ、と出掛けてみたんです」。その後、マザーズ・ハウスが子どもの一時預かりをすることも知り「マンツーマンでしっかりと面倒を見てもらえるから安心」と利用を決めたという。
 上の子どもの参親日や自分が病院に行きたいときなどに依頼。敬老参親日には親の代わりに赤木さんに出てもらうほど、親密な関係を築いてきた。別のマザーズ・ハウスのベビーシッターに依頼するようになった今も、2、3か月に1回は利用している。
「何よりも子どもが喜ぶんです。私も子育てだけでなく家庭や主婦としての悩みを聞いてもらえるのがうれしい」と喜ぶ。
 また、1歳10か月の双子を育てている別の30代の母親は、子育て情報誌でマザーズ・ハウスの存在を知った。「1歳になるまではとにかく家で育児をする日々。外出はおろか、世の中の出来事を知る暇もなかったくらい」と振り返る。
 少し離れた所に住む母親の協力もあり、育児に参ることはあまりなかったが「1歳を過ぎたあたりから、子どもの行動範囲が広がり、公園への散歩など一緒に出掛けたいと思うようになったんです」と意識の変化を語る。
 双子のため1人で面倒を見るには不安が残る。また散歩に行くたびに母親の手を借りるのも気が引けたため、「そろそろ育児支援サービスの手を借りたいな」と思ったという。
 初めは不安もあったというが、「一回目で人見知りをする子どもがすぐ慣れてくれて。さすがプロ、という感じ。自然に子どもとうち解ける接し方とか、母親としてマザーズ・ハウスのスタッフから学ぶことがたくさんあります」と喜ぶ。今後は親子参加型の講座への参加も考えている。「ほかのお母さんたちと知り合いになれる機会。マザーズ・ハウスの取り組みが楽しみ」と期待を抱く。


安全・安心な「食」に重点置く

 設立から6年目を迎えた今、乳幼児の育児支援から小学生の居場所づくりへと活動内容は広がった。赤木さんは「年を経るごとに、マザーズ・ハウスの活動を通して子どもたちが抱える課題が次から次へと見えてくる」と語る。
 今後、より力を入れていきたいのは、設立当初から取り組む「食」の問題という。「子どもの成長に伴う心身のさまざまな問題は、突き詰めると食にある」と感じるからだ。
 赤本さんは「野菜の正しい選び方や地産址消による料理教室などを通して、親子で食の大切さを見直すきっかけづくりに力を注ぎたい」と力強く話してくれた。